ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2017年度)

インターネット上のヘイトスピーチによる人権侵害に対して警鐘を鳴らすとともに、その是正に向け関係者の取り組みを求める会長談話

2018年02月02日更新

神奈川県弁護士会は、ヘイトスピーチの著しい人権侵害性を指摘して、2016年3月には、ヘイトスピーチを許さず、差別禁止基本法の制定を求める会長声明を、また、2017年3月には、川崎市に対し多文化共生を推進する人権条例の制定を求める会長声明をそれぞれ発信してきました。この間、ヘイトスピーチに対抗する市民運動が盛り上がりを見せていますが、人種差別的なヘイトスピーチはいまだに継続しています。特に、インターネット上では、情報の伝播が速く容易であり、しかも一度拡散した情報を訂正したり、削除したりすることが困難であるため、ひとたびヘイトスピーチが行われると、不特定多数の加害者によって、深刻な人権侵害が行われ、被害者は泣き寝入りを余儀なくされてしまいます。

さきごろ川崎市内の1人の中学生の文化活動に触れた新聞記事をきっかけに、この中学生を罵り、攻撃するインターネット上の人種差別的なヘイトスピーチが急激に拡大し、注目度を表すランキングにおいても上位に位置され、20件程のまとめサイトができるまでになっています。この中学生に浴びせられている言葉は、およそ人が人に対してかける言葉とは思えぬ程醜悪かつ差別的なもので、これらの言葉の総体は1人の中学生が支えきれる分量ではありません。事態は、あたかも、多数人によるこの中学生に対する公開のリンチのような様相を呈しています。

このようなインターネット上のヘイトスピーチは、違法性の強いものですが、実際上、被害者が、司法手続をとることには時間的、精神的、経済的負担がともない、また、さらなる攻撃が行われる二次被害も予想されます。

2016年5月に成立した本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)の衆議院及び参議院の各附帯決議では、「インターネットを通じて行われる本邦外出身者に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること」について、国及び地方公共団体は特段の配慮をすべきであるとしていますが、匿名によるインターネット上のヘイトスピーチに対する国の対策はほとんど進んでいません。

そこで、第一に、ヘイトスピーチ解消法3条が、国民がヘイトスピーチのない社会の実現に寄与するよう努めなければならないことを基本理念に掲げていることを踏まえ、1人の中学生に対するインターネット上のヘイトスピーチを行っている人たちに向けて、自らの行いの意味について気づいてもらうとともに、これほどまでに酷い人権侵害行為が今現に発生拡大していることを社会に伝え、この問題について、広く市民に、私たちは何ができるか、何をすべきかよく考えてもらいたいと思います。

第二に、放置できないこの問題に対処するため、関係者がそれぞれの立場で、直ちに真剣に取り組むことを求めます。

たとえば、ウェブサーバー管理者においては自らの利用規約に反するような違法な書き込みについてこれを監視し、該当のページを発見した場合には直ちに削除するよう求めます。

すでに市民側の要請に応じてインターネット上の書き込みについてパトロールを行なっている川崎市においても削除要請の活動を行うよう求めます。また、川崎市においては、2017年3月の会長声明でも求めたとおり、その標榜する多文化共生の理念に叶った人権条例を早急に制定するよう求めます。

そして、なにより国は、ヘイトスピーチ解消法にもとづき、喫緊の課題として、「不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を実施する」責務を果たし、前述の衆議院及び参議院の各附帯決議で特段の配慮を求められた、インターネット上のヘイトスピーチの解消に向けた取組に関する施策として、被害者救済のための実効性ある具体的な施策を行うよう求めます。

神奈川県弁護士会は、すべての市民がそれぞれの生活の場において、自らの幸福を追求し、平和で平穏に日々の生活を送ることができるよう希求し、ヘイトスピーチの根絶に向け活動します。

2018(平成30)年1月30日

神奈川県弁護士会
会長 延命 政之

 
 
本文ここまで。