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古代ギリシャに魅せられて、その後

2015年06月19日青木 亮祐弁護士

この弁護士コラムにて、以前、古代ギリシャの魅力に気づき、それに没頭していった経緯をお話させていただきました。

その後、古典時代のアテネで使用されていた古典ギリシャ語にますますはまっていくことになりました。今回は、この古典ギリシャ語というものについて、お話したいと思います。

1 古典ギリシャ語

さて、この「古典」ギリシャ語、よく「古代」ギリシャ語と混同されますが、概念が少し違います。古代ギリシャ語は、古代ギリシャ人が使っていた言葉で、古典ギリシャ語もこれに含まれます。古典ギリシャ語は、紀元前5世紀から同4世紀にかけて、アテネを中心とするギリシャのアッティカ地方にて使われていた言語です。一方で古代ギリシャ語そのものは、紀元前16世紀にすでにギリシャにて繁栄していたミケーネ文明(その後紀元前12世紀になんらかの原因で滅びます)が花開いていた時期からギリシャ全土で話されていました。ギリシャ神話の英雄ヘラクレスやアキレウス、オデュッセウスが活躍していた(とされる)時代ですね。使われていた文字は線文字Bというもので、それがギリシャ語であることが戦後に分かり、当時の考古学会に衝撃を与えたことをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

ではなぜ、その約千年後に使われていた古典ギリシャ語が広く学ばれているのかというと、この時代のアテネで、数多くの作品が生み出され、今にも伝わっているからです。
当時、超大国ペルシャに戦争で勝利をし、ギリシャ人の自由を勝ち取ったことで自信に溢れていたギリシャ。アテネは、そのペルシャ戦争の勝利に最大の貢献をした上、直接民主主義を体現し、繁栄を謳歌していました。そうした自信と自由が溢れたこの場所で、ミケーネ文明以来の古代ギリシャ文明が再興しました。そして、この場所で偉人が誕生し、あるいは、全ギリシャ世界から偉人がこの場所に集まりました。ソクラテス、プラトン、アリストテレスなどの哲学者、ジャーナリストともいうべきクセノフォン、ヘロドトスやツキュディデスといった歴史家、プロタゴラスやゴルギアスといったソフィスト、そしてリュシアスやデモステネスといった弁論家たち。彼らが様々な作品を残した結果、中世を通して、それらが今に伝わってきました。そしてこれらの作品が古典ギリシャ語で書かれていることから、これらを読むために、この言語が中世を通して学ばれ続けているわけです。なお、古典期の数百年後に書き綴られた新約聖書は、古典ギリシャ語を簡略化して国際公用語化されたコイネーと呼ばれるギリシャ語で書かれています。

古典ギリシャ文化を作った彼らは、この現在社会の文化・文明の先駆けともいうべき存在です。私たちは、ここに、今自分たちが接している事柄の源を見ることができます。中世を通して今に至るまでこうした作品が読まれ続けているのは、これらが読むに価するからに他なりません。

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2 ギリシャ語で悪戦苦闘

さて、この古典ギリシャ語を学び始めて1年半程度が経ちましたが、まだまだ満足に読める状況ではありません。辞書を引き、意味をつかんだ上で、文の構造を理解して、全体の文の意味内容を把握するということを続けていますが、これがなかなかうまくいかないのです。

ギリシャ語はインドヨーロッパ語の一つです。その文法構造は、英語を含むゲルマン諸語や、イタリア語、フランス語、スペイン語などのロマンス諸語(ラテン語の子孫)といった他のインドヨーロッパ語とも近似しているようですが、現代語と異なり、語尾変化が豊富にあるという点が特徴的です。これは、同様に古代語である、ラテン語(古代ローマ語)や、サンスクリット語(古代インド語)と同じです。これらはもともと、先史時代に話されていた、原インドヨーロッパ語とでもいうべき一つの言語であったというのが有力だそうで、それが分かれて、それぞれの言語に発展したということです。ですので、こうした語尾変化は、原インドヨーロッパ語の特徴にほかならず、古代当時はこうした特徴が色濃く維持されていたのです。

さて、今のヨーロッパ語も、部分的に語尾変化(例えば、英語において、名詞の複数形や動詞の3人称単数形で語尾に"s"がつくなど)が少し残っていますが、古典ギリシャ語と比べれば、それは「ない」に等しいです。古典ギリシャ語においては、動詞によっては時制が変わると元の単語の基本形がほぼ残っていないと思えるものもあります。その語尾変化の数は、一つの名詞ごとに約10通り、一つの形容詞ごとに約30通り、そして一つの動詞ごとに約900(九百)通りです。辞書には、基本形しか各単語の見出しに記載されていませんので、文中で単語を見つけても、自力で基本形に戻して辞書を引き、意味内容を把握する必要があります。

これが読み始めに立ちはだかる一つの壁です。ただ、語尾変化については相当に規則的ですので、ある程度の時間をかければ慣れます。次の壁は、字引である辞書それ自体です。古典ギリシャ語は西洋古典語の一つですので、当然、欧米諸国による研究や整備が進んでいます(特に、イギリスがインドを植民統治したことで、サンスクリット語と古典ギリシャ語の共通項が明らかになり、古代語の研究が進みました。)。その結果、辞書も必然的に、希英辞典となります。しかも、もっとも権威のある希英辞典である、「Liddel-and-Scott's Greek-English LEXICON」においては、その初版が1819年に出版されたことからも分かるとおり、少々古い英語が使われています。

もっとも、英単語であれば、今はスマホアプリで簡単に調べられる時代ですので、致命的な壁にはならないかもしれません。次の壁は文の構造と文意の理解です。文法は英語と通ずる部分も多いですが、語順が自由であり、単語の形の変化がそのまま意味の変化につながるというところが特徴的です。また、一つ一つの単語の意味を把握できても、文全体の意味がわかるということには直ちにはつながりません。ここにある種の慣習があるわけです。今は主にここで苦闘しています。ただ、最近分かってきたことがあります。それは、行間にこそ文化が書かれているということです。なぜなら、行間は、文字が記載されない部分ですが、その部分にこそ、当時のギリシャ人たちの共通理解が隠されているからです。その行間を想像しつつ、日々原文との対話を続けています。

3 次に向かう先は・・・

今私が読んでいるのは、ソクラテスの弟子の一人であるクセノフォンが書いた、「スパルタ人の国制」という書物です。古代ギリシャ最強のポリスであるスパルタの制度について、ジャーナリスト的なスタイルで書き綴られています。一緒に読んでいる方々はギリシャ語を長く学ばれてる方が多く、その理解の深度には毎度驚かされます。私が一番若年ですが、年齢はなんら武器にはなりません。古代ギリシャ文化の知識や、累積された原文読解の量、そして例文が豊富な字引との地道な対話をもってして初めて、その原文の正確な理解が可能となります。そしてこれは、普遍的な人間の営みと、我々自身を知ることに繋がるのだと思います。古典を読むことの意義は、変わることのない人間の本性を知ることにほかなりませんから。

ところで、最近、ギリシャ語をご教授いただいている先生から、「古代ギリシャは哲学、歴史、美術、文学など様々な文化の発祥地だけど、法律だけは、これは古代ローマなんです」と聞かされました。私も法律家の端くれながら、この法の源に関心を抱かずにはいられません。法という思想(法哲学)はギリシャから始まり、法学はローマから始まったとされています。古代ローマ人が世界史でも有名な12表法を成立させる際、視察団をアテネへ派遣し、ギリシャにおける法の状況を見聞したと伝えられています。そしてその後、法を発展させたのは、ギリシャではなく、ローマだったのです。

ローマで話され、ローマ法を綴っていた言語、それはラテン語です。 ラテン語。この言語にも、取り組み始める日がやってきそうです。

執筆者情報

弁護士名 青木 亮祐
事務所名 横浜プロキオン法律事務所
事務所所在地 横浜市西区岡野1-12-18 ペレネAi501号室
TEL 045-550-4984
FAX 045-550-3584
メール aoki@yokohama-procyon.jp
ホームページ http://yokohama-procyon.jp

 

こちらに記載の事務所情報等は執筆当時の情報です

 
 
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