横浜弁護士会新聞

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2000年4月号(1)

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司法制度改革審議会対策  特別委員会の意見書まとまる
意見書の作成
 司法制度改革審議会の議論はいよいよ本格化しようとしている。当会でも、平成一一年五月に「司法制度改革審議会対策特別委員会」が設立され、「法曹人口問題」「法律事務独占」「ロースクール構想」について議論が積み重ねられたが、ついに意見書の完成を見るに至った。三月二日常議員会で承認を受けたばかりの意見書の概略を紹介しよう。
法曹人口の増加を 
 「法曹人口」の問題については、最終的には、弁護士会がこれまで打ち出してきた「法の支配」の実現、市民にとって身近な司法を実現するという目的のために、「法曹の質を確保しつつ、年間一五〇〇人程度を採用すべき」である、との結論になった。
 ただ同時に、法曹人口増加論の論拠とされる市民の自己責任を前提とする「競争原理論」至上論については、生涯に幾度も裁判を利用しない一般市民に法的サービスの内容を的確に判断させることは、あまりに重い自己責任を課すことになり、過酷な犠牲を強いる結果となる、との趣旨が盛り込まれることになった。
市民のリスクを最小に
 一五〇〇人という数字に落ち着いた最も大きな理由も、右の観点からであり、一般市民の負担する選択のリスクを最小にとどめるために、法曹の質を一定の水準に保つことが必要と判断されたためである。現在の日本で法曹の実務能力に大きな差が見られないのは、研修所、実務修習の制度が機能しているためである。一方、オン・ザ・ジョブの実務修習は、期間短縮で対応しても一五〇〇人が限度であるから、これ以上の増加は当面認められないとの結論に達したのである。
 自己責任の原則を強調して、質を問わず増員を図ればよいと主張する立場とは、一線を画したものと言えるだろう。
 ただ、法曹人口の漸増の結果、一五〇〇人以上の実務修習を可能にする法曹人口が蓄積され、一方で裁判官、検察官についてもバランスのとれた増加が行われるなど司法基盤整備が十分達成できた暁には、さらなる法曹人口増加に反対する理由はなくなるので、こうした場合に、需要に応じてさらなる増員を検討する可能性にも言及している。
法律事務の独占は維持
 このように法曹人口について増加を認める姿勢をとった一方で、法律事務独占(七二条問題)については、安易に撤廃や緩和を認めるべきでない、という独占維持の立場を堅持した。
 少額事件、弁護士過疎等の問題は、隣接業種の参入を認める方向によってではなく、法律扶助制度の拡充、公設法律事務所の設置等、弁護士の努力によって解決すべきものであるとの積極的な姿勢が打ち出されている。
 こうした意見を述べる以上は、今後とも法律事務所に関するあらゆる分野において、ますます弁護士のプレゼンスを高め、独占に見合う責任を果たしてゆかなければならないことになるだろう。
ロースクール構想は慎重に
 ロースクール構想についても議論が沸騰したが、最終的には、「将来的な法曹養成のあり方としては検討に値するが、ただちに実行に移すのには時期尚早」との結論に達した。
 こうした結論に到達した理由としては、実務教育で重視されるべき事実認定、要件事実について、大学のなかで研究が進んでいるとは言いがたいことなど、大学教育と実務の乖離が認められること等が挙げられている。
 ただ、現在の司法試験は、論点整理カードの丸暗記といった勉強方法を通じて、問題解決能力の不十分な法曹を生む土壌があるし、また、司法研修所についても、その本来の目的が実務訓練にあることから、「創造的法曹」を育てあげること、さらに社会的に期待されている専門的分野での高度な知識を習得させることについてはやはり無力であるとの問題も残る。将来的には、司法試験に追いまくられず、教育の「プロセス」を重視するロースクールでの法曹養成を視野に入れておく必要があるだろう。
司法試験・修習制度は維持
 ロースクールを実行に移す場合であっても、司法修習制度は維持されなければならないから、少なくとも当面は、年間一五〇〇人という実務修習枠がロースクールの定員を考えるうえで事実上の制約となるので、意見書では、こうした人的制約の問題についても言及している。
 なお、法曹の多様性を確保するために、ロースクール制度実現後も、その卒業者に資格を限定しない司法試験を将来にわたって残すべきであるとの立場を取っている。  今後の日弁連内で議論を深めてゆくうえで、中堅地方会である当会が独自の案をまとめたことは意義深い。これを機にますます議論沸騰することを期待したい。
(会員 藤村 耕造) 

 原田和徳新横浜家庭裁判所長と坂井一郎新横浜地方検察庁検事正の合同歓迎会が二月二五日午後六時より、中華街の大珍楼新館において五三名の会員の出席を得て開催された。今回は、着任された原田新所長と坂井新検事正が大学の同窓ということで、お二人のご希望にもより、当会として初めての合同歓迎会となった。岡本会長による歓迎の挨拶とお二人のプロフィールの紹介に続いて、原田新所長と坂井新検事正の挨拶に入った。
 原田新所長は一九期で、司法研修所教官を三回務められ当会会員にも多数の教え子がいるとのこと、初めての着任となった横浜での感想については人口増加数トップの大都会で難しい事案が増えているように思えるとのこと。法曹テニスクラブに参加しているスポーツマン、当会にも多数テニス仲間がいる。
 坂井新検事正は二〇期で、横浜は二回目の赴任。検事としては矯正局勤務が長いとのことで、我々があまり問題意識をもっていない行刑を含む執行の問題の重要性を指摘された。
 永井常議員会議長による乾杯の発声と暫し歓談の後、原田新所長と同期の横溝徹会員、原田元教官の教え子を代表して木村良二会員、そして坂井新検事正と同期の横溝正子会員、宮代洋一会員からそれぞれのエピソードを交えた歓迎の挨拶があり、会場を和ませ宴たけなわのうちに森田副会長の閉会の辞により散会となり、ひと味違う合同歓迎会であった。

山ゆり
 春眠の独り言
最近、パソコンを弄(いじ)り雑誌は読むが文学書には疎くなっている。先日、ある大先輩から芥川竜之介の箴言集「侏儒(しゅじゅ)の言葉」(岩波文庫)を紹介された。短文であり電車の中で読むのに最適
その一節「瑣事(さじ)」。人生を幸福にするためには、日常の瑣事を愛さなければならぬ。中略。あらゆる日常の瑣事のうちに無上の甘露味を感じなければならぬ。中略。人生を幸福にするためには、日常の瑣事に苦しまなければならぬ。中略。あらゆる日常の瑣事のうちに堕地獄の苦痛を感じなければならぬ
七〇年以上前に書かれたもので、時代背景は現代とは大きく異なり、今この箴言をどう読むか人それぞれであろうが、我々の日常業務においても胸に滲みいるものがある
この四月から新法・改正法の施行が目白押しである。民事再生法、成年後見法、介護保険法、住宅品質確保促進法等など。市民に身近で利用しやすい司法の実現をめざす弁護士は、これらの法の趣旨を日々の相談業務等を通して、市民に判り易く丁寧に説明する必要がある。市民の求めに対応できるよう日常業務を処理しながら、日々研鑽に努めねばならない
今年は修習期間が一年半に短縮されたことに伴い四月と一〇月の二回司法研修所から卒業生を出す「修習生の二〇〇〇年問題」もあり、我々は昨年に比べ多くの仲間を迎えることになる。弁護士は一年目でも二〇年目でも相談者からみれば同じ。新人以上に勉強していかねばと自戒
そうこう考えるとこれからもなかなか好きな本を読む時間が取れそうにない。 
 

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