横浜弁護士会新聞

2008年11月号  −2− 目次

論壇 事業承継に弁護士も積極的な関与を
会員 澤田 久代
何故今事業承継なのか?
 中小企業は、我が国の企業数全体の90%を占めるとともに、雇用の面でも約70%を支えていると言われている。また、中小企業は、そのほとんどがオーナー企業である。
 今日、この中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、今後10年程度の間に、経営者の引退又は死亡による交代という事態に直面することが避けられない状況にあると言われている。しかし、事業承継の必要性・困難性を十分に認識しその準備をしている会社は少なく、このままでは、経営の交代が進まず、日本の経済そのものにも打撃を与えることが予測されるに至っている。
 事業承継問題は、事前に十分な準備をしておくことが必要とされるが、他方、この問題は、経営の交代という問題と直面することから、経営者本人はもちろん、その家族や従業員たちが、正面から取り上げて検討することには抵抗がある問題といえる。
 そこで、事業承継問題の普及・啓発を図ることの必要性がうたわれ、国の政策として、事業承継のための専門家のネットワーク構築や事業承継支援センターなどが各地に設置されるに至っている。
 
事業承継対策の流れ
 事業承継対策の流れとしては、(1)現状の把握(2)後継者の決定(3)事業承継計画の作成・実施となる。
 現状の把握としては、会社の状況(資産・収支の状況、役員構成、持株比率等)、経営者の個人資産の内容(自社株、事業用資産の内容、価格、換価性等)、後継者候補等を把握することが最低限必要となる。
 また、後継者を決定するにあたっては、親族(相続人)内なのか(親族内承継)、そうでないのか(親族外承継)、また、親族外の場合には、企業内の人材に承継させるのか、第三者にするのかを検討する必要がある。
 
法律専門家としての関与
 事業承継という観点からは、自社株や事業用資産を後継者と決めた人に対していかに承継させるかが決め手となる。
 親族内での承継であれば、相続に絡む法的紛争をいかに未然に防止できるかに力を注ぐこととなるであろうし、相続税対策も必須の課題となるので、税理士との連携等も必要となろう。また、株式を生前に贈与してしまい経営から排除されてしまうことへの経営者の不安を取り除くという観点からは種類株式の活用等も検討する必要があるだろう。
 親族外承継の場合には、どのような方法で譲渡するのが適切か(合併?株式売却?株式交換?等)等がまず検討されることとなろう。
いずれの場合であっても、対策を検討し始めてから実施するまでには、相当な期間が必要である。かかる時間の必要性について、経営者に認識してもらうことこそ最重要課題といってもいいかもしれない。
 今般、事業承継対策の一環として、遺留分減殺請求に関して民法の特例を設けることが定められた外、承継時の金融支援、相続税の納付に関する猶予制度等の法整備もなされた(経営承継円滑化法)。自社株の生前贈与などをする場合には、かかる特例の利用も視野にいれてみてはどうだろうか。

選択型修習の概要 新司法修習始まる
 昨年11月から法科大学院を卒業した新61期修習生が当会にも108名配属され、新司法修習がスタートしました。
 この新司法修習は、期間が1年間と短縮されたことから、従来の司法修習に比べ次の3点が大きく異なっています(図参照)。
 (1)前期修習の廃止
 (2)弁護修習は2か月間に短縮
 (3)選択型修習の導入
 (3)の選択型修習の2か月間は、全修習生の半数は和光で集合修習を行い、残り半数が地方の各単位会で選択型修習をする形になっています。
 選択型修習では、各実務庁(裁判所、検察庁、弁護士会)が用意したプログラムの中から、修習生が自分の進路や興味・関心に応じて、プログラムを選択して2か月間の修習プログラムを設計します。
 プログラムは、1日または1〜4週間の単位になっており、裁判所では民事裁判、刑事裁判、家事、少年等、検察庁では捜査、公判、見学等が用意されています。
 当会においては、各委員会や専門実務研究会等にご協力いただき、刑事弁護、消費者被害救済の実務、公害環境問題、医療問題の実務、倒産法の実務、労働審判制度、不動産の実務等、全部で24のプログラムを用意しました。
 さらに3庁が用意する以外に、修習生が自ら希望をして法人や団体で修習をする「自己開拓プログラム」等もあります。
 このような数多くのプログラムの中から修習生が選択・設計して2か月間修習するわけですが、選択型修習の期間は、弁護修習で配属された事務所がホームグラウンドとなり、修習生が選択したプログラムを履修していない2週間程度の間(最低でも1週間)は、配属先の事務所において弁護実務修習することとなります。
 その結果、個別指導担当の先生方には、弁護修習期間の2か月を含めると、実質的には4か月間修習生を預っていただくということになります。
 今年の新司法試験合格者は2065名で、当会へは102名の新62期修習生が配属される予定です。指導担当の先生方には多大なご負担をおかけすることになろうかと思いますが、後輩育成のため多大なるご協力をお願いする次第です。
(司法修習委員会 副委員長 岩田 恭子)

自立援助ホーム開設に向けて 子どもセンターてんぽ 活動報告
 子どもセンターてんぽは、2007年4月に、家庭に居場所のない子どもが一時的に入居するためのシェルターを開設し、運営してきました。
 おかげさまで、約1年半で、延べ15人の子ども達がシェルターに入所して、数か月で自立の途をみつけて退所していきました。問い合わせの電話は1年半で90件あり、弁護士会員のみなさまからのお問い合わせにも入所をお断りすることが多く、申し訳ありませんでした。
 シェルターに来る子ども達の多くが、シェルターでの不自由な生活にも安心と安全を感じて、入所後しばらくすると素の自分を出してきます。時には、ルールを破ったり、私たちに怒りをぶつけてくる子もいましたが、どの子も、親との葛藤を抱え苦しみながらも自分の力で生きていこうという姿勢が強く感じられました。弁護士が子どもを支える役割を担うことで、親の親権との法的調整が可能となったり、その子が抱えている身分関係や犯罪被害などの法的問題を解決することもできました。今後も活動を継続していくために、NPOの会員になっていただいたり、子ども担当弁護士や泊まりのボランティアなどの活動にご協力いただける方を募集中です。
 他方、入所した子どもの退所先を探す苦労の中で、子どもの自立に向けた社会資源がいかに少ないかをあらためて実感する1年半でもありました。
 そこで、私たちは、次のステップとして、自前で自立援助ホームを開設することにしました。開設は平成22年度を予定しています。シェルターに続いてのお願いで大変恐縮ですが、どうか私たちの活動にお力を貸してください。
 具体的には、(1)自立援助ホームが建てられる土地(2)一緒に活動していただける人(3)自立援助ホーム建設のためのご寄付をお願いしています。
 いずれのご連絡も、高橋(045−477−5821)までいただきたくお願いします。 
(会員 高橋 温)

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