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会長声明・決議・意見書(2013年度)

行政書士法改正に反対する会長声明

2013年10月15日更新

 日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求めてそのための運動を推進してきた。そして,来る10月15日に招集される予定の臨時国会に前記業務を行政書士の業務範囲とする議案が議員立法として提出される可能性がある。もし,提出されると特に各政党から反対がなければ特段の議論もなされることなく国会で議決されて法律として成立してしまう可能性が大きい。


 しかし,既に,日本弁護士連合会が2012年(平成24年)8月10日に,京都弁護士会が2013年(平成25年)8月29日に各会長声明で反対の立場を表明しているように,前記の業務を行政書士の業務範囲に加えることは国民の権利利益の擁護を危うくするものであり,当会もここに反対の意見を表明するものである。


 反対の理由は,前記の各会長声明において述べられているところと基本的に同様であるが改めて述べる。 


 第1に,行政書士の主たる職務は,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が,行政庁の行った処分に対しその是正を求めるということは,その職務の性質上本質的に相容れないものである。


 第2に,行政不服申立ては,国民と行政庁が鋭く対立する事件であるが,行政書士に対する懲戒処分並びに行政書士会に対する監督は都道府県知事が行い,日本行政書士連合会に対する監督は総務大臣が行うものとされている。このような立場にある行政書士が国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立ての代理をすることは国民の権利利益の実現を危うくするものである。これに対し,弁護士は,基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を有し,行政機関が国民の権利利益を侵害する場合には,行政機関と鋭く対立することもあることを前提にして国家の監督に服さない弁護士自治が認められている。


 行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は,弁護士自治により国家機関からの独立が担保された弁護士こそが行うべき業務である。

 第3に,行政書士が行政不服申立ての代理人を務めるには,その能力担保が充分とはいえない。この点につき,行政書士試験に行政不服審査法が必須科目になっていることが代理権付与を正当化する理由の一つとして挙げられている。しかし,行政不服申立ての代理行為は,行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行うべきものであり,その一事をもって能力担保がなされたということは到底できない。法律事務処理の初期段階で適正な判断を誤ると,直ちに国民の権利利益を害することにつながりかねない。初期段階において最終的な訴訟段階での結論まで見据え,迅速かつ的確に初期対応することこそが国民の権利利益に資するのである。行政書士が私人間の紛争案件の初期段階で不当に関与し不適切な処理をしたことによって,依頼者の権利利益が救済されないどころか,かえって被害が拡大したという例が報告されている。行政不服申立ての代理人となるには,より高度な専門性と慎重かつ適切な判断が不可欠である。


 第4に,行政書士については,倫理綱領が定められているものの,当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提にする弁護士倫理とは異なる内容となっている。行政不服申立ては,国民と行政庁とが鋭く対立するのであって,このような案件を行政書士が代理行為を行うこと自体で国民の権利利益が侵害されることが懸念されるのである。国民の権利利益が行政処分によって侵害された場合,その不服申立手続によってさらに国民の権利利益が侵害されるとの事態は絶対に避けなければならない。


 第5に,仮に行政書士が行政不服申立ての代理権を獲得したとしても,その活動分野は限定されることが予想され,影響は小さいとの指摘がある。しかし,国民の権利利益自体に対する問題を活動分野の大小で計ること自体が大いに問題である。


 第6に,弁護士は行政手続業務を担っていないとの指摘もあるが,近年では多くの弁護士が代理人として活躍している。一例を挙げるならば,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法に基づく行政手続について,日本弁護士連合会が実施する法律援助事業を利用し,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。2013年(平成25年)7月1日現在,弁護士の人数は3万3628人であり,今後も毎年相当数の増加が見込まれている。したがって行政不服申し立ての分野に弁護士が今以上に進出していくことは確実であり行政不服申立の分野において国民の権利利益の擁護に支障をきたす懸念は全く存在しない。

2013年(平成25年)10月9日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉

 
 
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