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会長声明・決議・意見書(2013年度)

個人保証の制限に関する意見書

2014年03月31日更新

第1 意見の趣旨

 民法改正に際し,主たる債務の範囲に金銭の貸渡し若しくは手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等契約」という)が含まれる根保証又は事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする自然人の保証については,「主たる債務者の業務全般を執行する権限を有する者」及び「主たる債務者が法人である場合の総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者」(いわゆる「経営者」)が保証する場合を除き,原則として,禁止すべきである。
 また,上記「経営者」以外にも,自発的な第三者による保証の例外的許容が規定される場合には,個人保証の原則禁止の趣旨が没却されないよう,適用範囲が適切に絞り込まれるような要件の設定がなされるべきである。

第2 意見の理由

  1. 個人保証の制限の是非と根拠について
     保証契約は過去,商工ローン問題で顕在化したように,その情誼性,未必性,軽率性,無償性から極めてトラブルが多い契約である。
     すなわち,多くの場合主たる債務者と保証人との間には親族や知人・友人・従業員等の人間関係があり,かかる関係にある主たる債務者から「迷惑を掛けない」といわれると,断れない場合が多く(情誼性),契約時に保証債務の履行が現実化しているわけではないから(未必性),保証人が現実のものとして認識しているわけではない(軽率性)。他方において,保証債務の履行が現実化するときは,保証人にとってその人生を左右しかねない重大な結果を内在する契約である。このような契約であるにもかかわらず,自然人が保証人になる場合,保証契約は保証人にはなんらメリットのない無償契約である。このような観点から,自然人に対する保証債務を原則禁止にする必要性はきわめて高い。  他方において,日本の中小企業においては所有と経営が分離していない小規模企業が多数存在しており,このような小規模企業に対する貸付において,経営者が保証する場合にも保証の原則禁止を導入してしまうと,このような中小企業に対する融資が著しく困難となるという指摘もある。
     そこで,当面,経営者が行う保証を除き,貸金等契約を主たる債務とする自然人の第三者保証を原則として,禁止することが適当である。
     金融庁も平成23年7月に主要銀行や中小・地域金融機関向けの監督指針を改正し,「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記し,金融庁監督の金融機関においては意見の趣旨記載の運用がされるよう指針を示している。
  2. 「経営者」の概念について
     また,原則禁止の例外とされる「経営者」については,以下の理由から,代表者その他の「主たる債務者の業務全般を執行する権限を有する者」および,実質的なオーナーである「主たる債務者が法人である場合の総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者」とするのが妥当である。 まず,本例外が日本の中小企業において所有と経営が分離していない小規模企業との関係で認められるものであることからすれば,実際に経営を行う者すなわち代表者を含めた業務全般を執行する権限を有する者と考えるのが妥当である。
     したがって,たとえば株式会社でいえば,代表取締役のみならず,業務全般の執行権限を有する取締役を含むものであるが,取締役会設置会社における取締役の場合は,取締役会決議により,業務執行取締役として選任されない限りは「経営者」に含まれないことになる。
     このような「経営者」の定義については,「法人の理事,又は取締役その他これに準ずる者」にすべきとの指摘もありうるが,このような定義は広すぎて妥当ではない。前記所有と経営が分離しない中小企業においては,取締役に親族が名前を貸しているケースが多数存在し,このような者にまで上記例外を認める必要はなく,かえって個人保証の原則禁止の脱法行為に利用される可能性があるからである。
     また,中小企業において株式の過半数を有する実質的オーナーは,業務執行には直接携わってはいないとしても会社の経営について最終的な責任を負う立場であることには変わりはないため,「経営者」に含めて考えてもよいものと思われる。
  3. いわゆる「経営者」以外の第三者による保証が例外的に許容される場合について
     以上のとおり,いわゆる「経営者」以外の貸金等契約を主たる債務とする自然人の第三者保証を原則として禁止するとしても,新たに事業を開始しようとする者や,開業から間もない事業者が事業資金の融資を受けようとする場合,「経営者」の保証だけでは融資を受けるのが困難であるため,例外的に,経営者以外の第三者保証を認めることが必要であるとの指摘があり,これに対する一定の配慮が必要であることは否定できない。そこで,かかる場合には,当該第三者が,保証契約の内容およびリスクを十分に理解した上で,自らの意思で保証人となろうとする場合に限るのであれば,例外を認めてもよいものと思われる。
     この点に関して,法制審議会民法(債権関係)部会の部会資料76Aでは,一定の手順に従った公正証書の作成を求めることによって当該保証人が自発的に保証する意思を有することを確認する趣旨の手続要件を加重することにより,例外的に「経営者」以外の第三者の保証を認めることが提案されている(同資料6頁1(3)参照)。しかし,これだけでは第三者保証が比較的容易に認められてしまうおそれがあり,要件として不十分であると言わざるを得ない。
     例外的に「経営者」以外の第三者による保証を認める理由が前記事情にあることに照らし,適用場面を適切に絞り込むとともに,保証人の保証契約に対する理解や自発的意思を十分担保するためには,日弁連の2014年(平成26年)2月20日付け「保証人保護の方策の拡充に関する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)のように,前記部会資料76Aで提案されている要件に加えて,次の6つの要件も必要とすべきである。

    1. ① 主たる債務者が,事業を開始した日から3年を経過する日までに,当該事業のために必要な資金を取得する目的でした金銭の借入に基づくその返還債務に関する保証に限ること。
    2. ② 根保証を除外すること。
    3. ③ 公証人が,保証人に対し,主債務の内容を認識していることを確認すること。
    4. ④ 公証人が,保証人に対し,主債務者から,主債務者の収入及び現在の資産その他の事項について説明を受けていることを確認すること。
    5. ⑤ 保証人が,自ら保証をなすことを公証人に口授すること。
    6. ⑥ 執行認諾文言を付することはできないものとすること。

     もっとも,要件の⑥については,法制審議会の部会資料76Aの提案では,保証契約の締結自体を公正証書で行うという案ではなく,保証契約の締結前に保証人の意思を確認する内容の公正証書を作成する案が検討されているようにも読め,仮にそうであれば,その公正証書作成に執行認諾文言の付与の余地はないことになる。しかし,法制審の提案では,保証人が必ず一度公証役場に出向く必要があるため,「ついでに」,別途,保証契約自体の公正証書を作成してしまう事案が頻発し,かえって保証人保護に欠ける事態となることも想定される。そのため,法制審の提案が,保証契約の締結前に保証人の意思を確認する内容の公正証書を作成する趣旨であるとしても,この方式による保証契約に当たっては,その保証契約自体の公正証書作成につき執行認諾文言の付与を禁じることを求めるべきであると考える。
     以上のとおり,いわゆる「経営者」以外の第三者による保証が例外的に許容される場合を定めるに当たっては,適用場面を適切に絞り込むとともに,保証人の保証契約に対する理解や自発的意思を十分担保しうるようにするため,前記①~⑥の要件も明示的に設定すべきである。

 

2014年3月27日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉

 
 
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