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会長声明・決議・意見書(2014年度)

労働時間規制を緩和する労働基準法の改正に断固反対する会長声明

2015年03月27日更新

1(労働基準法等の一部を改正する法律案要綱の内容)

 本年2月13日、労働政策審議会は、「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」を取りまとめ、厚生労働大臣へ建議を行った。
 報告の内容は、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設、企画業務型裁量労働制の対象業務の追加、フレックスタイム制の清算期間上限の緩和、を含むものである。
 これを受けて厚生労働大臣は、本年2月17日、同審議会に対し、この建議に基づいた内容の労働基準法等の一部を改正する法律案要綱(以下「法律案要綱」という。)を諮問し、同審議会は、本年3月2日、おおむね妥当と考える旨の同審議会労働条件分科会の報告内容を踏まえ所要の法律案の作成に当たられたいと答申した。
 しかし、この建議及びこの法律案要綱において示された労働時間規制の緩和が実現した場合、我が国の労働現場において、長時間労働がより一層深刻化することが強く懸念される。

2(特定高度専門業務・成果型労働制の問題点)

 法律案要綱には、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を創設することが盛り込まれている。
 この制度は、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えるための制度とされ、年収1075万円を参考に省令で規定する額以上の年収を得ている労働者で、「高度の専門的知識等を必要」とするとともに、性質上業務に「従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くない」と省令で定める業務を対象として、時間外労働、休日労働、深夜労働のいずれについても割増賃金の支払義務を免除するというものである。
 しかし、現行法においても時間ではなく成果で評価を行って賃金の額を決定することは可能であるし、この制度も、適用対象となる労働者について成果型賃金を採用することを要件とはしていない。そのため、この制度を創設する必要性自体が存在しない。
 また、適用対象となる業務の範囲が曖昧であるため、対象業務の範囲が拡大解釈されるおそれは強く、収入要件についても法律案要綱では1年間当たりの賃金の額が「基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上」というに止まるため、この制度導入後、省令の改正によって収入要件を引き下げることで、適用対象となる労働者の範囲を拡大することも容易である。
 加えて、この制度では、深夜労働についても割増賃金の支払義務が免除される。
 このため、この制度では、適用対象となる労働者の長時間労働及び深夜労働について全く歯止めがかからなくなることが懸念される。

3(裁量労働制の対象業務追加の問題点)

 法律案要綱には、企画業務型裁量労働制に関し、現行法で「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」と定められている対象業務について、新たに「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」と「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」を追加することが盛り込まれている。
 これまでの対象業務が会社の中枢における業務に限定されていたのに対し、新たに対象とされる業務は、必ずしも会社の中枢における業務に限定されていない。そのため、文言が曖昧かつ漠然としていることと相まって、営業業務や管理業務が広範囲にわたって対象業務に含まれると解されるおそれがある。
 裁量労働制は、一定の要件を満たすことで労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし時間によって行う制度であるが、みなし時間以上の労働を実際に行っている労働者が多数を占めることは、労働政策審議会労働条件分科会に提出された資料によって確認されていることである。
 そのため、裁量労働制の対象業務を追加し、その範囲を拡大することは、長時間労働を助長することに他ならない。

4(フレックスタイム制の清算期間上限の緩和の問題点)

 法律案要綱には、フレックスタイム制に関し、清算期間の上限を現行の1か月から3か月に緩和した上で、1か月ごとに区分した各期間ごとに当該各期間を平均し1週間当たりの労働時間が50時間まで労働させることができることが盛り込まれている。
 しかし、これは、まさに週40時間労働規制を緩和するものであり、長時間労働を助長することは明らかである。

5(長時間労働抑制策は不十分である)

 法律案要綱には、長時間労働抑制策も盛り込まれているが、導入が議論されていた時間外労働の上限規制や勤務間インターバル制度を設けることは見送られ、行政による監督指導の強化や労使の自主的取組の促進など、法的強制力を伴わないものが中心を占めている。
 現行の労働基準法は、いわゆる36協定を締結しないまま1日8時間、1週間40時間を超える労働を行わせることを刑事罰の対象としている。そのような法的強制力を背景としても、長時間労働を有効に抑制することができていないのが現状である。ましてや、法律案要綱は、これまで違法であった法定労働時間外労働を一部合法化しようとするものである以上、合法化された範囲で行政による監督指導が及ぶ余地はなくなる。それにもかかわらず行政による監督指導の強化や労使の自主的取組の促進という法的強制力を伴わない措置によって、長時間労働の抑制が実現できると考えることは、あまりにも無責任である。

6(まとめ)

 建議でも、「労働者の健康確保に向けた一層の取組が求められるとともに、次世代育成支援や女性の活躍推進等の観点からも長時間労働を抑制し、仕事と生活の調和のとれた働き方を拡げていくことが喫緊の課題となっている」と認識されていた。
 しかし、法律案要綱は、この認識に反し、これまで述べてきたとおり、過重な長時間労働を強いられる労働者を増加させるものであり、平成26年11月1日に施行された過労死等防止対策推進法に定められた過労死等の防止のための対策の推進にも逆行するものであって、断じて許されない。
 当会は、法律案要綱に基づいて労働時間規制を緩和する労働基準法の改正に断固反対する。

2015(平成27)年3月26日

横浜弁護士会     

 会長 小野  毅 

 

 
 
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