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会長声明・決議・意見書(2015年度)

「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明

2016年03月25日更新

1 「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という)が2015(平成27)年8月7日,衆議院本会議にて可決された。本法案に対して,当会は同年6月11日付で会長声明を出し,「捜査・公判協力型協議・合意制度」(以下「本合意制度」という)の導入と「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(以下「通信傍受法」という)の改正について,以下のとおり重大な問題があることを指摘した。

2 本合意制度については,第1に「引っ張り込み」の危険など新たなえん罪を生み出す危険性が認められること,第2に犯罪者に対して捜査機関に協力することによる免責あるいは責任軽減を制度的に認めるものであり裁判の公平や司法の廉潔性に抵触するおそれが大きいこと,第3に弁護人自身が他人の犯罪立証に制度的に組み込まれ場合によってはえん罪に加担させられかねないこと,という点である。
通信傍受法については,現行法では対象犯罪を薬物犯罪,銃器犯罪,組織的な殺人,集団密航の4類型に限定していたものが,本法案では窃盗,強盗,詐欺,放火,殺人,傷害その他一般犯罪まで広く対象犯罪を拡大しようとしており,国民の通信の秘密やプライバシーが侵害されるおそれが格段に高くなる,という点である。

3 この点,確かに衆議院の審議においては,本合意制度については捜査機関と被疑者又は被告人が協議する過程に弁護人が常時関与することとすること,検察官が本合意制度を活用すべきか否かの判断に当たって「当該関係する犯罪の関連性の程度」を考慮要素に加えたこと,という修正が加えられた。そして,附帯決議では協議や合意を記録化することが明記された。
しかしながら,これらの修正では当会が指摘した上記の問題点について根本的な見直しがなされたとは到底いうことはできない。これらの修正によっても,弁護人には「他人」の犯罪に関する資料は当然のように開示されず,捜査段階においては自らが弁護人となっている被疑者に関する資料も開示されることはない。このような状況において,弁護人が協議に常時関与したからといって「他人」の犯罪について適正な判断ができないという点は何ら変わりがない。また,「当該関係する犯罪の関連性の程度」を考慮要素に加えたとしても,法文上は全く関係のない他人の犯罪が排除されているわけではない。本合意制度も利益誘導による供述に依拠するという構造は変わっておらず,えん罪を生み出す危険性が減少したとは言えない。

4 また,衆議院の審議においては,通信傍受法についても事後に傍受記録の聴取等の許可の請求,不服申立ての教示を追加すること,などの修正が加えられた。
しかしながら,衆議院での法案審議により現行法下でも犯罪と関係のない会話が実に85%にも上ることが明らかとなっているところ,本法案により対象犯罪を一般犯罪にまで拡大し,かつ要件が緩和されたことにより,犯罪とは無関係な会話や通信が盗聴され,傍受される危険性はこれまでとは桁違いに大きくなると言わざるを得ない。上記の修正によって通信の当事者に対して事後に傍受記録の聴取等の許可の請求及び不服申立ての教示がなされることとなっているが,通信の当事者に通知されるのは捜査機関が通信内容を証拠として利用する場合だけであり,それ以外の圧倒的多数の通信内容については,傍受されたこと自体が通知されず,当事者には不明なままとなってしまう。

5 このように,修正内容についても多くの問題が残されているにもかかわらず,本法案は衆議院本会議にて可決されるに至ってしまった。衆議院本会議にて可決された本法案は上記の問題点をいずれも看過するものであり,極めて不十分である。
そこで,当会は,衆議院が可決させた本法案は看過しがたい問題点があることを改めて指摘し,参議院においては,上記の問題点を十分考慮した上で,冤罪の防止を図り,適正手続の保障を徹底するという観点から,本法案の抜本的見直しがなされることを求めるものである。

2016年(平成28年)3月24日
横浜弁護士会
会長 竹森  裕子

 
 
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