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会長声明・決議・意見書(2016年度)

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長談話

2016年07月05日更新

1 平成20年7月に施行された改正最低賃金法は,地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について,「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。

2 近時,厚生労働省が中央最低賃金審議会に示している試算によれば,神奈川県内における最低賃金額と生活保護支給額との乖離は解消したようにも見えるが,この「乖離の解消」は,神奈川県内の地域別最低賃金(時給)が引き上げられたことだけによるものではなく,平成25年8月以降,生活保護基準が切り下げられたことに伴って達せられたものであり,最低賃金法の趣旨を適正に踏まえたものとはいえない。

3 また,この「乖離の解消」の根拠となる厚労省の試算には,生活保護支給額を低く算定する一方で,最低賃金額を高く算定しているという問題も存する。
すなわち,同試算は,生活保護の金額について神奈川県内における平均値を用いているが,そのような試算方法は,「県内における平均値よりも生活保護水準の高い地域」との関係では生活保護支給額が低く算定されていることになる。また,同試算は,生活保護の金額について「19歳単身者」を前提とした算定をしているが、「横浜市で40歳の女性が単身で中学生の子ども2人を養育している場合」を前提とすると,生活保護における最低生計費は,生活扶助・住宅扶助・母子加算・児童養育加算・教育扶助・学習支援費を合わせて1か月あたり218,750円支給されることになり、「子どもを養育している一人親世帯」との関係では極めて低く算定されているといわざるをえない。さらに,生活保護費には公租公課が課せられず,医療を要する場合には,同支給額とは別に医療扶助が受けられることにも留意すべきである。
他方で,最低賃金に基づく1か月あたりの収入の算定については,1か月あたりの労働時間を労働基準法の労働時間規制上限の173.8時間と仮定することにより,高い算定結果を導き出している。しかし,平成27年厚労省毎月勤労統計調査によれば,神奈川県内の労働者の労働時間の実態は,1か月あたりの所定内・所定外実労働時間を合わせても139.7時間に過ぎないから,同労働時間を平成27年10月18日以降の神奈川県地域別最低賃金である時給905円で稼働したと仮定すれば,最低賃金に基づく1か月あたりの収入は,126,428円にしかならない。さらに,最低賃金に基づく1か月あたりの収入については,同金額に公租公課が課され,医療費も同収入の中から支出しなければならないことにも留意すべきである。

4 わが国においては,子どもを養育している一人親世帯におけるワーキングプアが深刻な状況にあり,このような労働実態を踏まえた上で,生活保護水準を上回る賃金水準を確保することが喫緊の課題である。フルタイムで働いても健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権を具体化した生活保護水準より低い金額しか得られないような最低賃金の設定は,健全な労働意欲を削ぐものであり,労働者の生活の安定,労働力の質的向上等を図ることにより,国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした最低賃金法の趣旨にも反するものである。

5 よって,神奈川県の地域別最低賃金は,子どもを養育している一人親世帯における毎月勤労統計調査の平均的な労働時間を前提とする1か月あたりの収入が,県内において最も高い地域の生活保護水準を上回るよう,大幅に引き上げられるべきである。

以上

 

2016(平成28)年7月5日

神奈川県弁護士会   

 会長 三浦  修 

 

 
 
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