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会長声明・決議・意見書(2016年度)

川崎市に対し多文化共生を推進する人権条例の制定を求める会長声明

2017年03月23日更新

 川崎市の福田紀彦市長は,昨年12月27日に川崎市人権施策推進協議会が出した「ヘイトスピーチ対策に関する提言」を受けて,本年2月27日,川崎市議会第1回定例会において,人権を幅広く守る条例(以下,「本条例」という。)の制定に向けた調査に着手したことを明らかにした。当会としても,本条例制定の動きを全面的に支持するとともに,本条例中に人種差別を禁止し多文化共生を推進する包括的な内容を盛り込むよう強く求めるものである。

 本条例制定の動きの背景には,川崎市内で激しいヘイトスピーチを伴うデモが繰り返され,市民に対して深刻な被害を生じさせているという社会状況がある。また,市による公園使用不許可,裁判所の仮処分決定,法務省人権擁護局の勧告等,関係諸機関の努力にもかかわらず,川崎市内では未だヘイトスピーチ団体が講演会を開く等の動きがあり,インターネット上における特定の個人に向けた誹謗中傷といった人権侵害行為も継続している。日本が1995年に加入した「人種差別撤廃条約」2条1項dによれば,各締約国は,すべての適当な方法により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させるものとされている。ヘイトスピーチは人種差別の一形態であり,本条例の制定は,同条約の趣旨に沿うものである。また,地域の実情に応じたヘイトスピーチ解消施策をとるよう自治体に責務を課した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」5~7条の趣旨に照らしても,本条例によるヘイトスピーチの規制は緊急の課題である。

 本条例制定にあたっては,これまで川崎市が行ってきた多文化共生社会推進の取組みの延長と位置づけ,人種差別を包括的に禁止し,多文化共生社会を推進する基本施策を定めた「人権条例」とすることが望ましい。川崎市は,1996年に川崎市外国人市民代表者会議条例を制定して同会議を設置し,2005年には川崎市多文化共生社会推進指針を策定しており,また,それ以前から外国人高齢者福祉手当及び外国人心身障害者福祉手当の支給,市職員採用の国籍条項の一部撤廃,川崎市在日外国人教育基本方針の制定,市営住宅入居資格の国籍条項撤廃,川崎市外国人市民意識実態調査の実施等,外国人に関する優れた政策を全国に先んじて行ってきた。本条例は,これらの施策を整理一本化し,入居差別,就職差別,その他あらゆる人種差別を禁止するとともに,施策審議と被害者救済を行う第三者機関の設置等を定めた包括的な内容とすることが望ましい。

 前述の人権施策推進協議会の提言においても,制定すべき条例の内容については,「ヘイトスピーチ対策に特化したものではなく」,「ヘイトスピーチ対策も含めた多文化共生,人種差別撤廃などの人権全般にかかるものが想定される」とされている。そこで,ヘイトスピーチ対策は本条例の一部と位置づけた上で,川崎市の社会状況を踏まえ,明確な禁止条項を定めるとともに,(インターネットを含む)被害の実態調査や,ネット上の人権侵害行為に対し継続的に削除要請を行うことのできる組織の創設などのネット対策,被害者に対する適切な相談窓口等を整備するべきである。

 川崎市は,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定などを契機に,ますます海外との交流人口が増え,国際都市としてふさわしい多様性を活かしたまちづくりが求められている。世界から様々な人々を迎え入れるためには,人種や国籍を超えた多様な人々が共生できるまちづくりが急務である。国は未だ人種差別を包括的に禁止する法律を持たないが,川崎市は,この分野の施策で全国をリードしており,条例制定においても,他の自治体をリードし,世界に誇れるまちづくりを目指すべきである。

 

  2017年(平成29年)3月23日

                                         神奈川県弁護士会

                                             会長 三 浦    修

 
 
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