2019年08月01日更新
憲法は、国家の統治の基本を定める根本法であるとともに、専断的な権力を制限して、広く国民・市民の権利を保障するというところに意義がある。日本国憲法は、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義を基本原則とし、また特に1章を設けて地方自治を保障している。地方自治は、権力分立及び民主主義に基づく原理とされ、統治機構の中でもとりわけ重要な意義があるとされている。
憲法をめぐっては、憲法改正の議論が進んでいるが、憲法の基本原則の堅持という観点から問題があり、また、現在沖縄をめぐっては、憲法の地方自治の観点から看過できない由々しき事態が進行している。
当弁護士会は、これに対する強い危機感から本決議を採択するものである。以下、憲法改正をめぐる状況及び沖縄の新基地建設の問題点について順に述べる。
自由民主党は、2018年3月、憲法改正の優先項目として、①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実の4項目を取り上げ、その「条文イメージ(たたき台素案)」を発表した。
この点、憲法の改正には、事柄の重大性からして、真に憲法を改正しなければならない事項なのか、その改正内容が適切なのか、改正した場合の影響はどうなるのかなど、慎重かつ十分な議論が必要なことはいうまでもない。
また、これらの項目はいずれも、上記の憲法の基本原則や地方自治の問題にも関わり、国の基本的な在り方を左右するものであることからしても、決して拙速な手続が進められてはならないというべきである。
そして、沖縄県における辺野古新基地建設をめぐっては、地方自治の本旨と相反する政府の姿勢が顕著である。地方自治の本旨は、地方の政治は国から独立した団体に委ねられるという「団体自治」と地方自治がその住民の意思に基づいて行われるという「住民自治」からなる。しかるに、国は、本年1月24日の当会会長声明でも指摘したとおり、県知事が辺野古沿岸の公有水面の埋立ての承認を撤回したにもかかわらず、県を相手に行政不服審査制度に訴え、国の判断で工事を推進して、土砂投入を続けているのであって、かかる国の行いは、国による同制度の濫用であり、地方自治の本旨に反するものというべきである。その後、本年2月には埋立ての是非を問う住民投票が実施されて投票者総数の7割以上の県民が反対の意思を示しているが、それについても、一顧だにしていない。
国の安全保障政策にかかわる問題であっても、基地建設はまさに住民の生活や安全や環境、そして人権にも深くかかわる問題であって、地元自治体や住民の意思が尊重されなければならない。
かかる政府の姿勢は、沖縄県及び沖縄県民の意思を踏みにじるもので、「団体自治」にも「住民自治」にも反し、地方分権と民主主義をないがしろにするものであると言わざるをえない。
以上のように、今この国では、日本国憲法の基本原則や地方自治の本旨など憲法の基本理念すら軽視され又は大きく揺るがされる事態が生じている。
当会は、そのような状況の下で改めて、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が組織する団体として、政府及び国会に対し、安全保障政策をも含む国政全般において、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義という日本国憲法の基本原則が堅持され、地方自治の本旨が尊重されることを求めるとともに、自らその実現に取り組むことを決議する。
2019年7月31日
神奈川県弁護士会 臨時総会
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