横浜弁護士会新聞

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2000年6月号(1)

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打撲・骨折など深刻な被害も
 当会の主催(担当は人権擁護委員会両性の平等に関する部会)で、四月一五日午前一〇時から午後一時まで、「女性の権利一一〇番」が実施された。この一一〇番は、日弁連の呼びかけで毎年各単位会が、実施日を合わせ(一部別の日の地域もある)、「全国一斉」と銘打って実施している。相談には、人権擁護委員会委員一〇名があたった。
 相談の件数は全部で二一件、うちドメスティックバイオレンス九件、離婚七件(ドメスティックバイオレンスを除く)、セクシュアルハラスメント・性的虐待三件だった。
 ドメスティックバイオレンスの場合の暴力の態様としては、殴る五件、侮辱する三件、蹴る二件、刃物を持つ二件、セックスを強要する二件などがあった。また、暴力による受傷状況については、打撲三件、骨折二件などがあり(いずれも複数回答)、昨年同様深刻な被害が窺われるが、その一方で、被害者も少しずつ声を上げられるようになりつつあるように思う。
 相談者は、単に答えを求めるだけではなく、状況を整理するために聞き手を求めているようであり、相談時間が三〇分を越えるなど比較的長時間になるものも多かった。用意した三回線が、いずれも通話中となった時間帯もあり、電話をかけたが、つながらなかった相談者もあったのではないかと思われる。来年以降の実施にあたっては、回線の増設や相談時間の延長等も検討課題となってくるだろう。
(会員 渡辺 智子) 

今後も継続的な実施を
 昨年六月に人権擁護委員会内に設置された「働く人の権利に関する部会」の主催で四月二二日(土)午前一〇時から午後三時まで「横浜弁護士会働く人の一一〇番」を実施した。本一一〇番は、近年の長引く不況のために急増している労使紛争に関する相談について会として対応すべく、本年三月一六日に野村和造会員、小川直人会員を講師として研修を行った上、会として初めて実施したものである。
 当日は、労働事件について経験豊富な会員から労働事件をあまり扱ったことのない会員まで合計二一人の会員が市民からの相談を待ち受けた。相談件数は、本一一〇番実施に関する報道が新聞紙上では神奈川新聞でしかなされなかったためか、あまり多くなく七件であった。七件中六件は賃金等の未払いに関する相談で、一件は解雇に関する相談であり、継続相談や受任に至るケースはなかった。
 当会は、労働相談に対する取り組みの点では東京三会に遅れているので、当部会は、その遅れを取り戻すべく、継続的な研修・一一〇番の実施や弁護士会内における労働相談窓口の設置等に向けて検討を進めていく予定である。
(会員 阿部 泰典) 

 本日、衆議院本会議において、少年法「改正」法案の趣旨説明が行なわれ、法務委員会に付託のうえ、審議が開始された。
 横浜弁護士会は、昨年六月一〇日、「少年司法における事実認定手続きの一層の適正化を図るため」として上程された本法案につき、極めて広範な事件について検察官の関与を認めるとともに、看護措置期間を現行の最長四週間から一二週間に延長し、さらに検察官に抗告権を認めるなど少年審判を変質させる重大な問題点を抱えていることを、会長声明で指摘した。
 少年審判では、刑事裁判と異なり、裁判官はあらかじめすべての捜査記録に目を通した上で審理に臨んでおり、少年が非行事実を争った場合に、検察官が審判に関与して少年の主張を弾劾することを認めることは、少年にとって著しく不公平であるばかりか、保護主義の理念を大きく歪めるものである。さらに、少年は、大人に比べて誘導にのりやすく虚偽の自白をしがちであることを考えるならば、現行職権主義構造のもとで検察官の関与を認めることは、むしろ事実認定を誤らせるおそれが高いと言わざるを得ない。
 また、観護措置期間の延長は、身体拘束の長期化によって、少年の心身により大きな悪影響を与え、退学や失職等の回復困難な不利益を与える可能性を高めるばかりでなく、少年がこれらの不利益を避けたいとの思いから、あるいは不安定な心理状態のもとで、虚偽の自白をしてしまうことにもなりかねず、冤罪の危険性をさらに増大させるものである。
 さらに、検察官に抗告権を与えることは、少年を今までよりはるかに長期間にわたって不安定な立場に置くことになり、それによって成長発達過程にある少年の受ける不利益は計り知れないものである。
 また、少年事件被害者の権利保障の面に置いても、「改正」案は、わずかに、不十分な被害者通知制度を導入するのみであり、本年、三月に発表された日本弁護士連合会の「少年事件被害者の少年事件手続への関与等に関する規定」案と比べても全く不十分なものといわざるを得ない。
 当会は、今回の「改正」法案にあらためて強く反対するとともに、国会においては、少年の権利と適正手続の保障および被害者の権利保障の観点から、冷静かつ慎重な審議が尽くされるよう強く求めるものである。
平成一二年五月一一日
 横浜弁護士会 
   会長 

 弁護士会新聞八月号から、「二一世紀の司法改革論議シリーズ」を始めます。筆者は、司法改革に造詣の深い会員にお願いしていきます。さまざまな問題の焦点、論議の情勢、当会や日弁連意見の紹介、いまなすべきことなど、提議してもらいたいと思っています。
 昨年政府に設けられた司法制度改革審議会では、怒濤のような論議がされています。この秋には、二一世紀に向けた日本の司法改革の方向性が決まっていきそうです。
・法曹一元は実現できるかどうか。裁判所側の意見は。当会推薦での裁判官は未だ実現していない。すべきことは?
・急激に浮上してきたロースクール構想。司法試験は一般には受けられなくさせるのか。
・司法修習制度。合格者を数千名に増大させていけば、一つの研修所での統一修習などできるはずもない。分離修習の傾向になって行くのか。
・陪審制・参審制を実現できるのか。自民党が参審制度を打ち出す中で、陪審への道はどうなっていくのか。参審は特許や医療過誤など特殊事件でするのか、それ以外もか。?
・法律事務独占の論議。弁護士数が次第に増大することだけで市民の要請に応えられるか。保険会社が交通事故紛争の多くを解決し、信託銀行が遺言を管理してきた。法律事務独占と弁護士会の自治権との関係は?企業弁護士の問題、法人化の問題、その支所の問題。そもそも何のために法律事務を独占することになっていたのか。
・法曹人口問題「大きな司法」を目指すとき、被疑者国選弁護をしようとするとき、この問題は重要なところ。
 そして、真に市民が求めているものは。
 色々な問題点と到達点を、簡潔に書いていってもらおうと思います。ご注目を。
(担当副会長 滝本 太郎) 

山ゆり
 新聞や各種公刊物を読んでいていつも気になるのが、次のような漢字の使い方である
すなわち、漢字であるべきところがひらがなで記載されているもの。「ゆ着」「破たん」「ぼっ発」「覚せい剤」「え死」「脳こうそく」「あっ旋」等々
これらの珍妙な表記は、ひとえに常用漢字なるもののおかげである。常用漢字とは、「当用漢字に代わるものとして、一九八一年三月に国語審議会が答申し、同年一〇月に告示された漢字」で、「一般の社会生活において使用する漢字の目安として一九四五字の字種と音訓を選定」(括弧内はいずれも広辞苑第五版による)されたものだそうだ。これによれば、右にあげたような表記が出来上がる
辞書を引くついでに「国語審議会」も調べてみよう。曰く、「国語の改善、国語教育の振興、国字・ローマ字に関する事項について調査・審議し、政府に建議する機関」で、「委員は各方面の有識者・学者から選ばれる」(括弧内はいずれも広辞苑第五版による)とのこと
有識者及び国語学の専門家の皆さんなら、漢字が本来は表意文字であることくらい御承知であろう。「癒えて着く」から「癒着」、「破れて綻びる」から「破綻」、「勃かに発する」から「勃発」なのである
最近、大学生の学力低下が問題になっているようだが、学力の基礎には、ものを考える手段である言語が存在しているということを忘れてはならないだろう。的確な表記や表現がなされてこそ、的確な思考が可能なのではあるまいか。英語を公用語にすべきかどうかの議論などは、それからだ。
(小川 佳子) 

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