横浜弁護士会新聞

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2000年8月号(3)

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会員 大河内 秀明 
「弁護士への苦情を受けます」と銘打って、横浜弁護士会は、平成一一年四月、弁護士の仕事についての苦情や要望などの相談を受ける「市民窓口」を設置した。
 それまでは、「報酬が高すぎるのではないか」とか、「着手金を払ったのに仕事をやってくれない」といった疑問や不満があっても、どこに話を持っていけばよいのか分からないという声が、市民から寄せられていた。
 市民が弁護士に不満を抱いても、それが表に現れないまま過ぎてしまうと、知らないうちに、市民の足はますます弁護士から遠ざかってしまうことになる。それは、市民にとっても弁護士にとっても不幸なことである。
 弁護士会が法律相談センターを作ったり、当番弁護士制度を導入したりしても、せっかく弁護士を頼りにしてきた市民が弁護士に愛想をつかし、もう二度と弁護士には頼まないと言って去っていってしまったのでは、身近で信頼される弁護士像の実現は遠のくばかりである。
 市民窓口を設けた平成一一年度には、例年の二倍の苦情が寄せられた。この結果から見ても、市民窓口の設置は、遅きに失したといえる。
 政府と経済界のペースで進められている司法改革において、日弁連が求めている法曹一元や陪審制の導入の見通しは、今、極めて厳しい情勢にある。それを、今から巻き返そうとすれば、国民の強い支援を頼るほかに途はない。そのためには、個々の弁護士が、日常の法律事務を誠実にこなし、弁護士のシンパを一人でも多く獲得する以外に方法はない。一万七〇〇〇人の弁護士のそれぞれが、一〇〇人の依頼者に対して、「弁護士に頼んで本当に良かった。今度もまた、弁護士に頼みたい」と言ってもらえるだけの仕事をすれば、依頼者一人につき家族や知人など合わせて一〇人のシンパが生まれるとして、弁護士のシンパは実に一七〇〇万人に達する。これは、特定の政党支持層にも匹敵する一大勢力である。その支持母体を原動力とすれば、日弁連が求めている司法改革の実現も夢ではない。国民の強い支持を取り付けるための有力な手段を、我々弁護士は持っている。
 陪審制は、国民が直接司法の担い手となり、国そのものを支える力となる。法曹一元に基盤を置く陪審制は、代表民主制と相俟って民主主義の根幹を支える重要な役割を担う制度である。代表民主制と陪審制は民主主義という車の両輪となって、真の民主主義を実現する。司法改革は、この国の質とこれから進むべき方向を決定する。市民窓口は地味な存在ではあるが、司法改革を底辺で支える機能を有している。

会員 藤村 耕造 
 自民党司法制度調査会の報告「二一世紀の司法の確かな一歩」がまとまった。
 裁判官の増員、司法予算の増加については、国家公務員の削減、財政削減目標の別枠扱いとすべきだと述べている。責任与党の発言であるだけに今後の影響は大きいであろう。陪審制度には否定的な結論を出しているが、参審制度については、専門家が関与する専門家参審制度はもとより、民事、刑事を問わず広く導入する方向で検討すべきであるとしている。
 しかし、「法曹一元」については、その実現のための諸条件はいまだ整備されていない、と切り捨てている。「法曹一元」の実現は一層厳しい状況に置かれており、今後の巻き返しが期待されるところである。
 今後議論が集中すると思われるのは、「刑事弁護への大幅な公的資金の導入に伴い、適正な弁護活動を確保するため、弁護活動のガイドラインを制定し、その遵守のための有効適切な措置を講ずる必要がある」としている点であろう。
 公的資金を導入すれば監視は必要というのは、一見もっともな理屈ではある。ただ、刑事弁護のあり方は多様であり、被告人の利益を守るためには、時には権力、世論と対抗しなければならない側面がある。統一的なガイドラインをつくり、従わない者に「有効適切な措置」をとることが妥当であるのか、議論を呼ぶであろう。
 同様の観点から、今後の法律扶助制度の運用主体を「法曹三者のいずれにも偏らない」「公正、中立な組織」とすべきであるとしている点も注目される。
 隣接業種の活用は国民の利益にかなうというのがこの報告書の結論であるが、その一方で、法律サービス分野の質の判断は一般人には困難であり、市場原理のみで律することはできないとして、法律専門家統一試験の制度化とその成績の活用を提唱しているのは注目される。
 やや意外なのは、法曹人口増員の関係で、急激な増加によって法曹の質が低下し、国民に被害を与えるようなことは断じてあってはならない、また、「濫訴」「訴訟社会」を回避する観点を踏まえよと警鐘を鳴らしている点である。一方で、フランス並の増員といった目標設定の必要を唱え、ロースクールは基準を充たせば広く設置を認めよとしており、その整合性が問われることになるだろう。

新人弁護士のとある一日
50期 本間 春代
 今年の四月に独立した。そんな私のとある一日を書いてみると・・・。
 午前中は、少年鑑別所で女子少年と面接。彼女は現在妊娠中だが、子供の父親の名前を誰にも言おうとしない。私は、将来子供が自分の本当の父親を知りたくなった時のことを考え、父親を探す手掛かりを残しておいたらと思うのだが、彼女自身、実の父親(戸籍上の父親とは別人)が誰かを気にもしておらず、私の言葉は説得力を持たないらしい。自分の考えを押し付けるつもりはないが、どう言えば分かってもらえるのか、などと考えつつ鑑別所を出る。
 事務所に戻ったのは一二時。留守中に電話が数本入っている。そのうち一本は、一緒に刑事事件をやっている東京の弁護士だ。折り返し電話してみると、今度の日曜の朝九時半から弁護団会議をやると言う。内心「え〜っ?」と思いつつも行くことにする。どうして東京の弁護士は、あんなに働くんだろう。
 一時頃昼食のため外出。大桟橋通りを海の方向に歩き、シルクセンターの角を曲がるとふわっと潮の香りがする(本当です)。お天気も良く幸せな気分。ゆっくりとお昼を食べ、書店を見たりしながら事務所に戻る。
 午後は起案。内容証明、弁論要旨を仕上げて答弁書に着手。そこへ示談交渉の相手から電話が来る。この相手は、頑ななかつ一方的な人で、話すとストレスがたまるのだが、出ない訳にもいかないので出る。一通り相手の話を聞き、時には毅然とした態度で応じるなど自分なりに考えて対応しているのだが、なかなか話がまとまらない。ひどく暗くなって電話を終える。
 気分転換に観葉植物に葉水を打ったり、ドライフラワーの出来具合を調べたりする。そうこうするうち友達が遊びに来る時間になった・・・。
 お陰様で多くの先輩、同期や後輩の友人たち、弁護士会の皆さんに支えられ、元気に頑張っている。このまま健康で仕事が続けられ、少しでも誰かの役に立てたら、それだけで幸せだと思う今日この頃である。

「県民集会」実施を決定
 今回の常議員会では、「県民集会」実行委員会設置規則制定の件(一〇号議案)が否決されるという事態が生じた。紙面の関係上、詳細は報告できないが、活発な議論の末に民主的に採決された事例であり、理事者と常議員会が馴れ合いの関係にないことを示した例である。ただし、県民集会の実行には反対はなく、理事者からも今年の県民集会実施の決意が述べられたが、その名称は「県民集会」以外のものになる可能性も示唆された。テーマは、昨年に引き続き「司法改革」になるようである。
 七号議案は、大和警察署に勾留されていた被疑者が同房者の暴行により受傷したとして人権救済の申立がなされた件に関するものであり、人権擁護委員会の調査の結果、同署の留置管理のあり方に問題があったとして、それを改善するように求める勧告案の承認を求めるものであったが、異議なく了承された。
 六号議案は、入会申込者三名の入会許否の件である。その内一名は、第一回の常議員会で問題になった「弁護士法第五条三号」に基づく入会申込者で、小委員会において検討していた事案であるが、結局、入会は認めないこととなった。また、一名については、他会からの登録替えであるが、当会の入会承認の前に、事務所の看板を掲げているのではないかとの疑問が出されたため、理事者において調査の上、改めて審議することとなった。
 一五号議案は、調査室嘱託の報酬に関する件であったが、理事者提案のとおり、室長は月額金二〇万円、委員は同一五万円とする案が承認された。調査会の職務内容を定める「横浜弁護士会調査室規則」(一二号議案)も併せて承認されたが、同時に、従来他の委員会で行ってきた事務の一部を調査室に代行させることができるようにする「横浜弁護士会総合法律相談センター運営要綱一部改正案」(一三号議案)、「少額事件補助に関する細則一部改正案」が承認されており、さらに予想される今後の事務量の増加を考えれば、右報酬額は決して高額だとは思われないが、会員諸氏のご意見はいかがでしょうか。
 五号議案は、神奈川住宅紛争審査会(九月一日開始)の職員採用の件、八号議案は会館改修工事に関する大成建設(株)との総額金六六一五万円の工事請負契約締結の件、九号議案は、前回報告した地裁小田原支部庁舎建替問題を当会全体の問題として取り組むことを目的とした横浜弁護士会裁判所庁舎建替問題対策特別委員会設置規則の一部を改正する件、一一号議案は、日弁連・関弁連等に関する諸問題を調査研究し、こうした機関からの意見照会があった時の会長の諮問に答えることを目的とする「弁護士連合会問題等対策特別委員会」設置に関する規則設置の件であり、いずれも理事者提案どおり承認となった。
 その他、国会において「少年法等の一部を改正する法律案」の審議が始まったことに対する会長声明に関する緊急議案が提出され、異議なく承認された。声明の中身については、すでに発表されているところを参照されたい。なお、一号から四号議案は、いずれも人事案件であるが、詳細は省略する。
(副議長 瀬古 宜春) 

常議員からズバリひとこと
 常議員会に初めて出席して感じたことは、まず、常議員会にかけられる議案の数の多さである。常に一〇以上の議案がある。次に活発な議論がなされることである。常議員から様々な意見が出されて、質疑応答を重ねた上採決されるが、議案が可決されるとは限らないのである。各議案は事前に検討済みなはずなので、議案が否決された時、私は「否決されちゃっても良いのかな」と単純に思った。さらに、これだけの議案を二時間強で処理する速さに驚いた。理事者・先輩常議員の進行は非常にてきぱきとしており、新人常議員である私にとっては、目が回る程である。
(48期  服部 政克) 

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