横浜弁護士会新聞

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2002年8月号(1)

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「人の役に立ちたい」吉川晋平会員に聞く!!
 日弁連の公設事務所「日南ひまわり基金法律事務所」に当会の晋平会員(二七期)が所長として赴任する。
 宮崎県日南市は九州の小京都と呼ばれる飫肥(おび)、古い港町で知られる油津(あぶらつ)、行政の中心である吾田(わがた)の三つの町からなる。宮崎地裁日南支部は飫肥にあるが、常駐する裁判官は判事補一名で、管内人口は約八万九〇〇〇人である。
 日弁連の公設事務所は現在九か所あるが、八月一日から業務を開始する会員に応募の動機や苦労した点を聞いた。
(インタビュアー 小林雅信、岩田恭子)
−公設事務所に応募した動機は何ですか
 いろいろありますが、社会や人の役に立ちたいと思って弁護士になったものの、この二七年を振り返って、どこまで実践できたかという忸怩たるものがあって、少しでも人の役に立ちたいと思ったことが動機の一つです。私の母校の栄光学園には「フォア・アザース」(人のため)という校訓がありますが、この言葉が常に私の背景にあるように思います。
 次に、私は日弁連でも当会でも業務対策関係の会務を担当し、その一つとして弁護士へのアクセス障害の解消に取り組んできましたが、現在の司法改革の流れの中で、身をもってその一翼を担いたいと思ったからです。
 また、五七歳になって変化や感激が少なくなってきましたが、現状に甘んじていていいのか、このまま今後の人生を過ごして充足感・達成感を得られるのかという疑問もありました。
 それから、都会を離れて暮らしてみたかったという気持ちもありましたね。実際、応募してからは、わくわくするような毎日を過ごしています。
−応募先として日南を選んだのはどうしてですか
 応募を決めたのは、昨年の一一月ころです。前から漠然と考えていましたが、「自由と正義」に九州の公設事務所の案内が載ったのがきっかけです。従来の公設事務所は東北・北海道が中心でしたが、赴任するなら暖かくて趣味のゴルフができるところがいいと思い、日南を選びました。
−事件の依頼者や顧問先との関係はどうしましたか
 継続事件は同じ事務所の金子泰輔さんと三品篤さんに全部引き継いでもらいました。破産管財事件は早めに裁判所と協議し、常置代理人の金子さんが破産管財人に就任することになっています。
 顧問先も金子さんと三品さんが実務を担当し、顧問契約は従来どおりとすることでほとんど了解を得られています。任期が三年間ということと、日弁連の公設事務所ということで納得してもらっています。
−横浜の事務所を維持する上でどのような点に苦労しましたか
 やはり大変なのは経理と労務関係ですね。顧問料などは全て横浜の事務所の維持に使ってもらい、経営は金子さんと三品さんに任せることになります。また、事務所の賃貸借契約や事務所名は変えませんが、職員の雇用や労働保険などは全て金子さんを主体とすることで切り替えてもらいました。
−日南での事務所開設に際してはどのような点に苦労しましたか
 やはり横浜からは遠いことですね。これまで四回現地に行きましたが、全て二泊か一泊の泊りがけです。
 初回は昨年末ですが、正式に応募する前に現地に行き、どんなところか見たり、宮崎県弁護士会の会員に会ったりしました。
 二回目は四月中旬ですが、事務所と住居を探しに行きました。住居については、前回行った際、不動産業者から賃貸物件などないと言われていました。通常は縁故がない限り借りられないようですが、市役所の方々の協力なども得て、三LDKの一軒家を月六万円で借りることができました。また、事務所は社会福祉協議会にお願いしたりして探し、日南駅前のビルの二階に約二〇坪の事務所を借りました。
 三回目は五月中旬で内装業者との打ち合わせなどのため、四回目は六月中旬で職員採用の面接のために行きました。
 内装や什器備品は日弁連からの補助金五〇〇万円の範囲内で収まるように腐心し、パソコンや電話などはリースにしました。また、法律事務所での経験のある職員を採用することは不可能なので、新たに採用した職員の研修にも時間をかける必要があります。
−日南ではどのような仕事をしたいと思っていますか
 「来るものは拒まず」で何でもやりたいと思っています。ただ、人口比による破産率や離婚率が高いようなので、債務整理や離婚事件が多くなると思っています。
−公設事務所制度の問題点については何か感じましたか
 細かい話ですが、宮崎県弁護士会に入り、また横浜弁護士会に戻る時に、現行の制度だとそれぞれ入会金がかかることになります。しかし、通常の登録換えと異なり、公益活動の一環として赴任するわけですから、特に一定の期限付きで応募する会員には配慮をしてほしいと思います。
−当会における公設事務所構想についてはどのように考えていますか
 当会で都市型または過疎地型公設事務所を独自に設置するというよりも、公設事務所に応募する弁護士のための協力事務所を募り、会として援助する態勢を整えるべきだと思います。たとえば、ある公設事務所で執務する弁護士を代々当会から派遣できるようにすると、他会と密接な結び付きも生まれると思います。
−最後に抱負と会員へのメッセージをお願いします
 横浜弁護士会の名を汚さぬよう、使命感を持って仕事をしてきたいと思っています。
 私の任期は三年間ですが、後任者がいないと戻るに戻れなくなるかもしれません。できれば当会の会員、特に勤務弁護士を何年か経験した後の独立前の会員に是非手を上げてほしいと思っています。

川晋平会員の英断に感謝」−池田忠正会長談−
 晋平会員の今回の御英断に、惜しみない拍手と感謝を差し上げたいと思います。ご承知のとおり、今の司法改革の「うねり」の大きさとその早さには予測を超えるものがあります。
 当会の会員も、今回の司法改革が後世になってすばらしいものだったと評価されるよう、意見を述べ、行動を起こし、限られた時間の中ですばらしい努力をされております。しかし、これまで当会では、過疎地型公設事務所にまで力が及ばなかったのが実情でした。
 それが、今回、会員個人の決断で、誰もできなかったことが実現されました。当会の司法改革の歴史に新たな一頁を加えることになったわけです。
 私は、数年前に、会員と二人きりで、弁護士会館で「弁護士の在り方」について、一時間程論議をした記憶があります。その時、会員が、弁護士の公共的立場を協調されていたことを、はっきりと思い出します。
 今回の会員の快挙も、同会員の基本的な考えによるものであったことを改めて実感しております。会員には、忙しくなることと思われますが、どうか健康に留意され、三年間有意義な時間を過ごしてきていただきたいと思います。
 今後とも、会員及び日南ひまわり基金法律事務所に対し、会をあげて協力していきたいと思っております。

山ゆり
 W杯が終わってしまった。誰もが一試合くらいはテレビ観戦しただろう
 W杯では、選び抜かれた代表選手たちの素晴らしいプレーが見られる。ロナウド(ブラジル)ら世界最高レベルの選手の技術を目にする最高の機会だ
 ところでW杯は「世界最高レベルの技術」を見られる大会ではあるが、「世界最高レベルの試合」を見られる大会ではない。普段一緒に試合をしない者同士の代表チームのコンビネーションなど、同じメンバーで年間何十試合もこなすクラブチームのそれには敵わないブラジル代表が世界最強クラブ・レアルマドリッドと対決したら、おそらく組織力の差で完敗だろう
 一方、クラブも毎年同じメンバーでリーグに臨んでは、相手に対策を立てられ、リーグ戦でも苦戦するのが常だ。レアルは毎年、フィーゴ(フランス)と一流選手を移籍加入させてチームを活性化し、世界トップの地位を維持している。サッカー界では、毎年億単位の金が動いて選手が移籍するが、クラブチームでは「血の入れ替え」が常にチームを成長させることになる故である
 昨季中田英寿も擁しリーグ優勝を果たし、今季ほぼ同じメンバーで優勝を逃したASローマがいい例だが、いかに能力の高い選手が集まって経験を積んでも、いつまでも同じメンバーでリーグ戦に臨んでいては発展性を欠き、優勝を手にすることなど出来ない イラスト
 選りすぐりの寄せ集めでは、完成された組織にかなわないが、その組織の発展には、選手の移籍で常にカンフル剤を投入し続けることが不可欠なのである。
(阿部雅彦)

お詫び
本紙三面に掲載予定の「理事室の窓」・「支部だより」は紙面の都合により次号に掲載いたします。

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