横浜弁護士会新聞

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2002年9月号(2)

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横浜地方裁判所 吉本徹也新所長にインタビュー
古代史の好きなスポーツマン
全ての事件に全力投球
 この六月一一日から横浜地裁に赴任された吉本徹也新所長にお話を伺った。
 
〜ご経歴をお聞かせ下さい〜
 徳島県鳴門市出身です。海の近くで育ちました。鳴門高校卒業後、京都大学法学部に進学。大学時代は法律相談部に所属していました。
 司法試験には在学中に合格し、昭和三九年に大学を卒業した後、研修所に入りました。一九期で修習地は大阪です。
〜なぜ裁判官になられたのですか〜
 明確な意識はありませんでした。
 ただ、民間企業に入って営利を追求するよりも、社会の公共的使命を果たす公務につきたいという思いがありました。
〜裁判官としてのご経歴は〜
 大学では民訴ゼミでしたし司法試験も民訴選択でしたが、裁判官としては最初から刑事が多かったです。
 初任は東京地裁の刑事部でした。
 その後、刑事局付を三年やり、久留米支部、アメリカ留学、東京地裁の保全部、労働専門部、最高裁刑事局二課長、札幌地裁、最高裁調査官、東京地裁部総括、東京高裁、千葉地裁部総括、旭川地・家裁所長、札幌地裁所長、東京高裁の部総括を経てきました。
 横浜は初めての任地です。
〜横浜はいかがですか〜
 近代的な建物と古い建物とがバランス良く共存している町ですね。
 古さの残っているところに潤いを感じます。歴史が好きですので、近代化の先駆けの町として興味深いところです。
〜これまでに印象に残った事件・出来事はありますか〜
 例えば地下鉄サリン事件など世間の注目を集める事件も経験しましたが、私はすべての事件に全力投球してきましたので、それぞれの事件にそれぞれの思いがあります。特に印象に残ったという事件はありません。
 裁判官生活の中で思い出深いのはアメリカに一年間留学したことでしょうか。捜査の規制、盗聴法、司法取引、おとり捜査、少年事件など、アメリカの刑事司法制度を興味深く学びました。
〜司法改革についてのお考えをお聞かせ下さい〜
 後世の歴史家がこの時代をどう見るか。変革する最初の時代と見るのではないでしょうか。時代の要求に沿った改革をしなければなりません。
 アメリカでは裁判官が選挙で選ばれており、当事者の代理人として社会的経験を積んだ弁護士が裁判官になっていました。ただし、日本で全国的に優良で均質な司法サービスを提供するという理念を実現するためには相応の基盤的整備が必要ですから、今直ちに法曹一元を導入することは困難です。法曹一元にはキャリアシステムと比しての一長一短もあります。
 参審制は時代の趨勢だと思います。裁判に対して市民の理解も得られ、裁判に市民の考えも反映できるというメリットが大きいと思います。
〜ご趣味は何ですか〜
 古代史が好きです。仏教伝来前の古墳時代には日本文化の原点があります。横浜弁護士会には歴史がご趣味の方はいらっしゃいませんか?
 山野草の観察も好きです。札幌にいた頃から夫婦で楽しんでいました。
 水泳は健康維持のため一〇年以上続けています。一番泳いでいた頃は週二回、一時間で二〇〇〇メートル泳いでいました。もちろん横浜でも早速スポーツクラブに入りました。弓道は四段です。久留米支部にいた頃、集中的に朝昼晩練習していました。凝るタイプなのでしょうね。
〜最後にひとことお願いします〜
 先日、法曹懇談会に出席しましたが、リラックスした和気あいあいとした雰囲気でした。裁判所と検察庁と弁護士会。立場は違いますが良い関係が築けていると感じました。役割に従った対立はあっても友好は崩れない、本当に良い所に来たと思っています。
 
 物静かで温厚で思慮深い方という第一印象であったが、実は熱い一面、パワフルな一面を秘めておられるようであった。アメリカ留学の話になると、大学のアメフトチームが優勝した時の様子など、非常に懐かしそうに生き生きとお話し下さった。
(聞き手 田中隆三副会長、浜田 薫)

横浜法曹懇談会 今年も大いに盛り上がる
 七月三日午後五時三〇分より、当会五階大会議室において、毎年恒例の横浜法曹懇談会が行われた。
 横浜法曹懇談会は、特に議題を決めずに立食パーティー形式で裁判官、検察官、弁護士が懇親を深め合う行事であり、昭和三〇年来続いているという。
 今年の参加者は、裁判官三五名、検察官二八名、弁護士七六名の総勢一三九名であった。
 司会進行は当会の青木孝副会長。
 最初に、今年の当番庁である横浜家庭裁判所の小田原満知子所長が開会の挨拶を行い、次回当番庁である横浜地方検察庁の江川功検事正が乾杯の挨拶を行った。
 法曹三者が、それぞれ普段法廷で見る顔とは違った打ち解けた表情で、宴もたけなわとなれば節度は保ちつつも、事件について忌憚のない意見を交換したり、裁判の裏話を披露し合ったり、まったく法律とは関係のない話題で大いに盛り上がり、懇親を深め合った。
 立場の違いを超えて、このように親密に話ができる場は貴重である。
 あっという間に約二時間の時は過ぎ、副会長の閉会の挨拶で、楽しいひと時は幕を閉じた。
 来年は、さらなる盛会となることを期待したい。

川越少年刑務所見学記
 七月二四日、当会会員一九名、修習生一〇名の総勢二九名が、埼玉県川越市にある川越少年刑務所を訪れた。
 昨年四月から改正少年法が施行されて少年犯罪に対する重罰化傾向の中、逆送決定、刑事公判手続きを経て刑事罰を科せられる少年は具体的にどのような処遇を受けることになるのだろうか。
 川越少年刑務所は犯罪性の進んでいない青少年の男子受刑者を収容・処遇しており、収容受刑者約一三四〇名のうち二三歳から二五歳までが全体の約半分を占め、少年(未成年者)は一〇名程度、うち分類調査のみの収容でなく実際当施設で処遇を受けている少年受刑者は五名だという。
 施設の概要について説明をひととおり受けてから施設内を案内された。
 折しも見学当日は猛暑の午後であったが、少年受刑者達は屋外で園芸訓練をおこなっているところだった。強い日差しの下、よく日に焼けた少年たちは大きめの麦わらを被り、じょうろで緑に水をやっていた。少年受刑者の場合、午前中は教科等の時間にあてているという。見せてもらった受刑者のある居室には簡素な持ち物の中に園芸雑誌などがあった。
 見学後の質疑応答では、少年受刑者に対する具体的な処遇・カリキュラムの内容、不定期刑というものの実際の運用状況・意義、被害者側との間の意見聴取・情報提供の実態等について、等々、次々と出される質問に対し熱心に答えていただいた。
 親族に限らず元弁護人との面会については、少年への有意な働きかけ、社会資源への活用という意味でも特に制限する理由は無いのではないかという話であり、各施設で面会理由(内容)から面会を制限されたという例を見聞きしていただけに心強いものとして受けとめられた。
 今後とも少年事件手続きのみならず処遇現場の動向にも注目したい。
(会員 小宮玲子)

建築紛争につき活発な議論 第7回民裁懇開かれる
 七月九日午後五時三〇分から八時まで、当会五階大会議室において、第七回民裁懇が開催された。
 今回のテーマは、建築関係訴訟であった。専門訴訟ということで、裁判所と弁護士会だけでなく建築の専門家も交えて議論を深めようとの試みのもと、吉見吉昭東京工業大学名誉教授、山本康弘東京工芸大学工学部教授、調停委員や横浜建築調停研究会会員として活躍されている建築士一三名を招いた他、裁判官二八名、書記官一六名、弁護士四〇名、修習生一名と多数の参加者を得た。
 まず、当会の杉崎明会員から神奈川県住宅紛争審査会の活動について報告がなされた。続いて曾田努会員から県の建築紛争審査会のあっせん、調停、仲裁手続についての報告があり、さらに建築会社側の建築関係訴訟を多く手がける立川正雄会員からこれまで扱った訴訟の具体例とその問題点についての指摘がなされた。
 続いて、裁判所側として山本博裁判官から建築関係訴訟の類型と審理上の問題点について、吉村真幸裁判官から建築調停の現状等について各々報告がなされた。
 その後、これらの報告を踏まえてそれぞれの立場から意見交換がなされ、建築調停手続のあり方が議論の中心となった。具体的には、訴訟から調停に移行する際のタイミングや調停の運用上の問題点、また調停手続において作成された意見書の評価や訴訟手続に戻った際のその取り扱い等について活発な議論が繰り広げられた。
 建築関係訴訟は、とかく争点が拡大しがちな傾向になり、解決に多大な時間と労力を要するとの問題点が指摘されてきた。今後は、事案に応じて調停手続を効果的に利用し、専門的知見を活用することで紛争の適正、妥当な解決を図っていけるよう、それぞれの立場で工夫を続けていくことで出席者の意見が一致した。
(会員 須山園子)

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