横浜弁護士会新聞

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2003年10月号(1)

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がんばれ!横浜弁護士会出身裁判官 本格的な弁護士任官スタート
平成一三年に当会から初めての任官者となった小川直人さんに続き、本年は渡辺智子さん、阿部雅彦さんのお二人が任官した。横浜弁護士会からの弁護士任官という一つの流れが生まれた。
今回の弁護士任官の持つ意義
司法制度改革実現本部 第一部会長
藤村 耕造
 今回の渡辺智子さん、阿部雅彦さんの任官は、もちろんご本人らの積極的な意思によるものですが、一方で、弁護士任官に関するアンケート調査の結果を踏まえて、当会の理事者らが働きかけを行ったことがきっかけになったこも事実です。
 また、おふたりが任官申し込みを行う際には、できたばかりの関弁連弁護士任官適格者選考委員会で審査を受け、市民代表委員を含めた多くの委員の支持を受けてなされました。
 弁護士任官は、志望者が個人的に行うものから、市民代表や同僚の弁護士たちの指示を受けて行うものへと変貌しようとしているのであり、今回の任官は、その意味で画期的なものと言えるでしょう。 おふたりは九月一七日に行われた弁護士任官説明会、激励会の席で、何度も「自分たちが昇ったあとではしごを外すようなことだけはしないで」と訴えていました。今回複数の任官者が当会から出たことは画期的なことですが、それでも、今後当会から弁護士任官が続かなければ、結局大きな流れはできずに終わることになります。おふたりの意思を継いで、さらに多くの会員に任官を検討していただけるよう願ってやみません。
 個人的な考えを述べさせて貰えば、私は、ただ弁護士任官の数を増やせばいいのだとは決して思っていません。あえて言えば、当事者の気持ちを理解でき、市民的常識にあふれ、優秀な実務能力を備える人だけに任官して欲しいと考えています。その観点から、弁護士任官のあり方についても、同僚の弁護士や市民が、この人にこそ裁判官になって欲しいという人を推薦してゆくというのが本来のあり方だと考えています。
 今回のおふたりは、同僚も市民の方々も、自信をもって送り出すことができる人です。当会における本格的な弁護士任官のスタートとして、エース級の人材を送り出すことができて本当に幸運であったと心から思います。
 これからも、わたしたち弁護士、市民の方々が一体となって、私たちの代表にふさわしい弁護士任官者を探し続け、働きかけを怠らないことが重要だと考えています。末尾ながら、おふたりの活躍心から祈念しています。
任官者の激励会開催される
 九月一七日、ザホテルヨコハマにおいて、横浜弁護士会弁護士任官激励会が開催された。これは、一〇月一日に任官する渡辺智子、阿部雅彦両会員の壮行会であると同時に平成一三年に任官した小川直人裁判官を激励する会となった。
 冒頭、挨拶に立った箕山洋二会長は、法曹一元、法曹の質の向上という見地から今後も会として弁護士任官に積極的に取り組んでいく決意と両会員への激励の言葉を述べた。
 続いて渡辺会員は、任官が具体的になるにつれて、弁護士であるということがどれほど自分の中で大きな比重を占めていたか強く感じるようになった、弁護士バッジを外したくないという気持ちにさえなったと心境を述べた。阿部会員は、新しいことにチャレンジできることを楽しみしている、現場で経験を積んだ弁護士が裁判官になることの意義は大きい、これからも毎年任官者が続いて欲しいと挨拶した。
 小川直人裁判官は、任官した日の前日深夜まで事務所で仕事に追われたという思い出や弁護士とは違う物の見方が出来るようになったという感想を述べた。
 佐藤克洋常議員会議長の乾杯の後、多くの会員がスピーチに立ち、中村れい子会員は、渡辺会員はセクハラ事件に非常に熱心に取り組み依頼者からの信任が厚かった、打合わせでは激論を交わしたが高裁で逆転勝訴することができたという経験を明かした。岡部光平会員は水戸から帰る電車内で、阿部会員から突然、「任官します」と告白された、あまり力を入れすぎずに頑張ってきて欲しいと暖かい言葉を送った。
 影山秀人副会長から、二人を裁判所に送り出すことは当会にとっては大きな損失であるが司法にとってはもっと大きな意義があるとの挨拶があった。一〇一名の参加者を得た会は盛況のうちに幕を閉じた。
任官者から一言
渡辺智子さん
 日弁連の司法シンポの委員になったことで法曹一元について勉強する機会があり、また、司法改革推進センターで企画した海外ツアーで法曹一元での裁判官像に触れたことから、裁判官になることを考え始めました。
 当事者の言い分を良く聞くという当たり前のことを大切にし、本当の意味での紛争の解決に役立つ仕事をする裁判官になりたいと思います。
阿部雅彦さん
 弁護士経験を裁判官の立場で生かしたいということが任官を決めた一番の理由です。
 現場の最前線に立てないもどかしさに耐えられるかどうか不安ですが、これまでの弁護士経験を生かし、真に当事者の気持ちを考えた裁判を行いたいと思います。
 偉そうに見下す裁判官にはなりたくないので、私が変わったな、と感じたら必ず苦言をお願いします。

弁護士任官説明会を開催
 九月一七日、当会会館五階で弁護士任官の説明会が開催され、当会では初めて最高裁判所から説明者を派遣して頂いた。人事局任用課の堀田眞哉課長である。
本年度の弁護士任官者は全国で十名であったが、当会は渡辺智子会員(四二期)・阿部雅彦会員(四九期)と二名も輩出し、全体の二割も占めたのである。両会員に続いて任官者を今後も継続して輩出したい、というのが当会の願いである。法曹一元化の推進と裁判所改革に寄与するからである。
 説明者は、同任用課長・両会員のほか、一昨年任官した小川直人裁判官(四八期、東京地方裁判所勤務)、小林嗣政関東弁護士会連合会「弁護士任官適格者選考委員会」委員長、大胡文夫同委員(神奈川新聞編集局長)であった。
 最高裁判所も、裁判所改革の一つとして、弁護士任官制度を高く評価しており、当会が一昨年の一名に続き、今年は二名も任官者を出したことで、当会会員の熱意に敬意を表している。説明会に参加した人も、参加できなかった人も、弁護士任官を考えてみたいと思う会員は、理事者(担当小長井)まで、是非、ご連絡下さい。

山ゆり
 実務修習地は島根県の松江であった。弁護士会会員は二十数名。ほとんどの先生と密にお付き合いさせて頂き、大変お世話になった
ある日、交通事故に遭った。幸い双方物損のみで大事には至らなかった。自車は直進車、相手車は路外からの進入車であった。過失相殺の割合について保険会社の見解は「二〇・八〇」。今なら苦笑いしつつ受け入れる結論だろう
もっとも、当時の私はそんなお利口さんではなかった。「真横から私の車の後部に突っ込まれたんですよ。何を注視すべきだったというのですか」、「判例タイムスの表は知っていますが、それはあくまで典型的な場合の話でしょ」、「裁判になれば、私は島根県中の弁護士、裁判官と知り合いなので、やりづらいんですよ」。保険会社の担当者の方こそさぞややりづらかったことだろう
手っ取り早く裁判所の判断を仰ぎたいとの思いから少額訴訟も検討したが、「諸事情」があり結局示談にした。過失相殺割合は「一五・八五」に落ち着いた イラスト
現在、交通事故を多くとり扱う法律事務所に在籍し、殆どの事案で保険会社側の立場に立っているし、類型的処理も避けきれない。被害者本人の少額訴訟の申立に対し、通常訴訟への移行申立をせざるを得ない場合もある
弁護士となって三年、切り捨てたものもあるのだろう、といった想いに長々と耽ってはいられない。新件は次々とやってくる。そんな日常である。
(長澤洋征)

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