横浜弁護士会新聞

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2003年5月号(2)

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変更賛成派に高くそびえた「3分の2」の壁
 去る三月一一日午後三時から開港記念会館一階大ホールにて臨時総会が開催された。既に発表されているとおり、会名変更の可否を問う第三号議案は否決される結果となったが、総会の様子をドキュメント風に追ってみた。(文中肩書は三月一一日現在)
 
・午後三時三〇分
 定刻三〇分時点で、会員総数七五三名中一八〇名の出席があり、総会が成立した。代理人による議決権行使が可能となったこともあってか、二年前の「会名変更」総会よりも出席者は減少した。
 「本日は歴史の転換点に立っていると感じている」との言葉が印象的であった池田会長の開会挨拶の後、議長に会員、副議長に松浦光明会員が選任された。そして、報道関係者及び修習生の傍聴が許可された。
 まず、市民窓口の整備をするための第一号議案の審議がされ、出席者数二一七、総議決権数五三一、賛成五二四で可決した。
 続いて、公設事務所に行った会員が共済上不利益を被らないようにするための改正である第二号議案の審議がされ、出席者数二一〇、総議決権数五二八、賛成五二六で可決した。
・午後四時三〇分
 いよいよ「横浜弁護士会」を「神奈川県弁護士会」へと変更する旨の第三号議案の審議に入る。
 副会長から提案理由の説明がなされた後、「会長の意見を聞きたい」という質問が出され、会長は「執行部は各支部と運営上一体になるよう規定を整備・運用してきた。支部との一体感を増すために会名変更が必要。」との見解を披瀝した。
 質問の後に意見交換をするにあたり、永井議長から、なるべく賛成派・反対派が交互に意見を述べるよう指示された。
・意見交換
 「市役所職員ですら横浜から派遣されているという認識であり、市民と弁護士会とが密接になってきている今日、市民との見えない壁を取り払うのが急務」との川崎支部会員の賛成意見を皮切りとして意見交換を開始し、後に続く主な意見の応酬は次のとおり。
(反対)会名は裁判所・検察庁の名前と呼応したものであるべき。それで県民も通用するのではないか。
(賛成)会名変更は司法改革の第一歩。在野法曹の組織が国家機関と対応させる必要はない。名称を好みだけで判断してもらいたくない。名称が内容を変える。
(賛成)理念的に何が正しいのかという観点から考えるべき。ただし在野法曹として、公権力の意味を持つ「神奈川県」の名を使うべきではない。
(反対)司法の独立を守るべき。行政・市民に迎合する必要はない。弁護士は、所属は関係ない。
・午後五時二五分
 会員が「神奈川弁護士会」に変更する旨の修正動議を提出。県の組織と市民が誤解する可能性があり、県とのトラブルを抱えている市民の場合、特に問題となるので、「県」を名称から外したいとの説明。
 右の修正動議の取り扱いについて、福田護調査室長から「原案に遠い修正動議から採決し、その後、原案の採決をとる。採決方法については、修正動議も原案も三分の二以上で可決を決める。」との説明があった。
・意見交換再開
 午後五時五〇分から午後六時の休憩をはさんだ後の主な意見の応酬は次のとおり。
(反対)司法改革と会名変更とは無関係。弁護士に縄張りはない。二年前の総会時と客観的な変化はない。
(賛成)会員個人ではなく、弁護士会として活動する時に障害となるのが問題。修正動議に賛成。
(反対)県名を付している単位会は、それほど多くない。インターネットの普及によりアクセス障害はあまりない。
(反対)会名変更よりも市民の意識状況の方が問題。リーガルサービスセンター構想からすると、会名変更は時代遅れ。
(賛成)弁護士会は他会との領域がある。
(反対)会名変更は市民ニーズが高まったものというのは幻想であり、先人の文化遺産を抹殺する行為。
(賛成)児童相談所で会名の不都合があったケースを紹介。
(賛成)司法の独立を言うならば、在野の立場を取り戻すために裁判所と対応した名前を変更すべき。支部会員の疎外感は著しく、「いじめ」の構造である。
(反対)明治時代からある名前は尊重したい。
(反対)会名変更はまず支部が本部と対等の義務を果たしてからにしてほしい。
・午後七時二〇分
 議長から挙手による投票方法が提案されたが、黒田会員により投票用紙に○×を記入する形での秘密投票の修正動議が提出された。
・午後七時四〇分
 投票方法についての修正動議の採決。総議決権数五九四、賛成三四三で可決。これにより、秘密投票により議案の採決をとることとなった。
・午後七時五五分
 「神奈川弁護士会」とする旨の修正動議の採決に入る。
 開票立会人として、佐久間哲雄会員、清水規廣会員、三浦修会員、佐藤修身会員が選任された。
 出席者数二三五、総議決権数五九六、賛成三五九、反対二三一、白票五、無効票〇で否決。
・午後八時二〇分
 原案の採決。
 結果は、賛成三四七、反対二四三、白票六、無効票〇で否決。
 午後八時三五分、総会終了。
 
 実に、開始から約五時間に及ぶロングラン総会となった。そして、会名変更については総勢二二名の会員がそれぞれの立場から約四時間に及ぶ論戦を繰り広げた結果、高くそびえる「三分の二以上」の壁(賛成)に惜しくも届かず、賛成派は二年前に引き続き今回も涙を飲む結果となった。

日南だより その2
事件と収支
弁護士 
 宮崎県日南市で弁護士業務を開始した平成一四年八月一日から平成一五年二月末日まで七か月間の、日南ひまわり基金法律事務所の事件数や事務所の収支などを報告します。
 牛の発情期の鳴き声による騒音問題、カツオ船の船員の財産分与、ピーマン農家やみかん農家の交通事故による休業損害の算定等は、日南でなければ経験できないケースです。事件数は、債務整理関係が業務の七〜八割を占め、訴訟事件は意外と少ない。
自己破産五三件、任意整理二九件、個人再生三件、債務整理の相談(相談のみ)三八件。
 夫婦・親子での自己破産が多い。三〇〜四〇歳の男性で給与が手取り一七〜一八万円、奥さんがパートで七〜八万円、子供が三〜四名、生活費に困ってサラ金に手を出すというのが、典型的なパターン。夫婦の一方に借金があれば他方にも殆どありということで、単独での来訪者は、配偶者も連れて来ることを条件に受任。当地は自動車がないと生活できないため、クレジット購入の自動車の処理に悩む。ヤミ金の被害者も多数。私が直接ヤミ金と電話交渉しています。いやがらせの漆塗りの電報は二通。架空の火事通報による消防車出動が一回。
訴訟事件 原告七件、被告三件、仮処分三件
 内訳は、債権回収それも簡裁の原告事件が二件、墓の明け渡し事件、預金に関する事件三件。地方では、安易に身内に預金通帳・印鑑を預ける。預かった人は、預金を自己のために費消しても構わないとの感覚のよう。
法律相談(相談のみで終了した件数)九四件
 不倫が多い。妻子ある上司との別れ方まで相談にのっている。一〇歳以上も年下の男との不倫のあげく、子供二人を捨てて出奔した三〇歳代の主婦までいる。
国選弁護 四件、交通事故が三件。八八歳のおじいさんの強制わいせつ。
当番弁護士 九件、出動する日南警察は、事務所からわずか二分の距離。このうち、扶助を利用しての起訴前弁護が四件。起訴後は、宮崎市内の弁護士が国選弁護人。
簡裁の調停 二件、家裁の調停と審判五件、交渉事件八件、個人再生委員一件、裁判書類作成四件など。
収入 一四六〇万円(一か月平均二〇八万円)、九州の公設事務所は、大体、この程度。
支出 七二三万円(一か月平均一〇三万円)、職員二名の給与三五万円。家賃と水道光熱費一三万円。リース料六万円。等々
 公設事務所に赴任したことによる負担増、健康保険料二七万円、弁護士会会費三二万円、自宅家賃七二万円、年間一三一万円の支出増です。

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