横浜弁護士会新聞

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20005年10月号(別刷)

 
国選事件は支援センターに移管 当番弁護士は従来どおり
刑事弁護センター運営委員会 委員長 木村 保夫
国選事件は支援センターが運営
 日本司法支援センター(以下「支援センター」という)が設立されるのは来年4月1日、業務を開始するのは同年10月1日からである。これと同時に、被疑者段階からの国選弁護制度もスタートする。
 そして、被疑者国選制度だけでなく、従前の被告人国選についても運営主体は法務省管轄の独立行政法人である支援センターとなる。具体的には、支援センターが裁判所に対し、国選弁護人を指名・通知し、裁判所がこれを選任する。従って、被疑者・被告人国選を受任する弁護士は、支援センターと予め国選を受任する旨の契約(基本契約)を結ぶ必要がある。
 ただ、支援センターが個別に弁護士に契約を呼びかけたり、担当日を割付けることは今のところ予定されていない。したがって従来どおり、会員は弁護士会が法律相談の担当などと一緒にアンケートをとる際に被疑者国選、被告人国選、当番弁護士、後述の新しく設けられた「私選紹介弁護士」を担当すると名簿登録をしてもらう。そして、弁護士会が担当者について他の法律相談担当日などと一括して日程割付をし、支援センターにその担当者名簿と被疑者国選などの日程割付け表を出して、支援センターはそれをもとに被疑者・被告人国選の指名をしていくことになる。今後、弁護士会としては、支援センターの指名が恣意的・意図的になっていないか監視していく必要がある。支援センターと弁護士との契約内容、契約方法については未定である。
被疑者国選事件について
 被疑者国選制度の対象となるのは、来年10月からの第1段階では、法定刑が「死刑または無期懲役もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮に当たる事件」で、いわゆる法定合議事件に限定される。しかし、平成21年10月からの第二段階からは「必要的弁護事件」まで拡大される。
 このような段階的に拡大することになったのは、被疑者弁護の担い手である弁護士の対応体制が間に合わないからである。別表の日弁連のシュミレーションによると当会でも第一段階では、辛うじて対応できるものの(それでも支部では実際にはかなりの負担となると思われる)、第2段階からは、本部で当番弁護士一人当たり年間11件、支部では1人年間30件近くの被疑者弁護を担当することになり、現在のままの体制では到底対応できないと思われる。今後、本部会員の支部事件の援助は避けられないところであり、場合によっては登録者の増強のために国選登録の義務化や単位会を超えた協力体制の確立など何らかの抜本的解決を探っていく必要がある。
私選弁護士紹介制度について
 新しい制度「私選弁護士紹介制度」も来年10月からスタートする。
 改正刑訴法31条の2は「弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任を申し出をすることができる」と定め、弁護士会に対しては「申し出を受けた弁護士会は速やかに所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない」という紹介義務を定めた。
 ここで重要なのは、弁護士会は、依頼があれば信頼関係が築けない等という正当な理由がない限りは受任する意思(弁護人になろうとする意思)のある会員を紹介しなければならないということである。実はこの点については、当番弁護士も同様で、当会の規則では「当番弁護士は不当な弁護活動を強要されたとき、やむを得ない特別の事情のあるとき以外は、受任を断ることができない」と規定している。このため、私選弁護士紹介制度も当番弁護士と区別せず運用していく予定である。
 また、私選弁護士紹介制度は被疑者・被告人国選の選任要件としての性格も持つ。国選対象事件の被疑者や被告人は、資力が一定基準以上(預金50万円となる見込み)である場合には、一旦、弁護士会に私選弁護人の紹介を申し出て、そこで弁護人が選任されない場合のみ(例えば預金が50万円以上あっても家族の生活を考えれば弁護士費用を支払えない場合もあろう)、国選弁護人が選任される(改正刑訴法36条の3、37条の3II項)。
当番弁護士制度等の財源確保をどうするか
 当番弁護士制度も被疑者弁護援助制度も、今後も弁護士会が継続し運営していく。
 前述の私選弁護人紹介制度の申し込みができるのは、法律上、被疑者・被告人だけである。従って、家族や知人からの申し込みや弁護士会が独自の判断で弁護士を派遣する「委員会派遣」制度は、従来の当番弁護士でカバーしていくことになる。
 また、被疑者が弁護人を依頼する目的ではなく、例えば手続きや今後の見込みを知りたいと弁護士の派遣を申し込んだ場合も当番弁護士になる。
 さらに、被疑者国選の対象事件(法定合議事件)以外について起訴前弁護を頼みたいが通常の私選弁護の費用が支払えないものは、従来の被疑者援助制度でカバーしていくことになる。そして、これら制度の運営主体は弁護士会である。今後、これらを運営するための財源の確保についても急いで検討されなければならない。
刑事弁護の熱心な担い手の確保と支援センターの監視を
 以上のとおり、支援センターの業務開始、被疑者国選制度・私選弁護人紹介制度の開始によって、刑事弁護は手続的にも大きく変わる。何よりも被疑者弁護の熱心な担い手の確保と支援センターの適正な運用の監視が重要課題である。会員の皆さんには今後ともより一層のご協力をお願いしたい。

扶助的付添人制度の維持を
子どもの権利委員会 委員長 影山 秀人
現在の態勢
 現在、当会が少年事件に対応する態勢として用意しているのは、まず「重大少年事件当番弁護士」である。もちろん、通常の当番でも少年事件の出動要請はあるが、特に短期2年以上の犯罪を犯した少年には、家庭裁判所が極力、少年に当番弁護士の要請をするように勧め(本庁では少年事件の勾留質問は家庭裁判所がする)、あるいは毎日の新聞をチェックしていて「委員会派遣」による方法により、「重大少年事件当番弁護士」に登録していただいている先生に出動していただくのである。出動していただいた先生には、法律扶助などを活用しながら、極力弁護人(家裁送致後は付添人)になっていただく。これは福岡弁護士会が実施している「身柄全件付添」にちょっとでも近づこうと当会が始めたシステムで、これにより、短期2年以上の重大少年事件には、5割以上の確率で付添人が付くという成果を上げる。
 また、被疑者段階で弁護人が付かないまま家裁送致され、観護措置(鑑別所送致)が取られるという場合、家庭裁判所の裁判官が付添人を必要と考えたときは、当会に「扶助的付添人」の選任を依頼してくるので、この場合は、法律扶助を利用して扶助的付添選任名簿の中から付添人を推薦している。この種の事件は、短期2年以上の重大事件に限らず、親との関係が悪いなどの要保護性の高いケースが多いように思えるが、現在、年間約40件くらいある。
 さらに、数は極めて少ないが、非行事実を争うような重大事件で、家庭裁判所が審判に検察官を関与させる旨の決定をした場合に、少年に付添人が付いていないときは、家庭裁判所は「国選付添人」を付けるが、これも当会に推薦依頼がなされ、当会は国選付添人名簿に基づいて推薦をすることになっている。
 以上のような態勢で、当会では、殺人・強盗・強姦・放火などの重大少年事件には、付添人なしで審判が行われることのないよう努力をしている次第である。このような事件が大人の刑事事件であったなら、弁護人が付かないことなどあり得ないのだから、大人よりも自己防衛力の弱い少年に付添人が付くべきは、本来は当たり前のことと思う。
国選被疑者弁護のスタート
 被疑者国選や私選紹介の対象の中には、少年も当然に含まれる。これにより、重大少年事件の多くに被疑者段階で弁護人が付くことになると思われるが、当初は重大事件に限られるので、その対象外の少年被疑者に対しては、やはり従来の当番弁護士制度を残して対応していくことが求められている。
国選付添人の立法化
 大人の刑事事件の場合、国選被疑者弁護人は起訴後は国選被告人弁護人となるし、被疑者弁護人が付いていなかった人にも、起訴されれば従来の国選弁護人は付く。ところが、少年の場合、仮に被疑者段階で国選弁護人が付いたとしても、家裁送致後は、国選付添人制度が検察官関与事件に限定されている現在では、私選で付かない限り付添人不在となってしまうのである。
 そこで、少年法改正案(今回の国会解散により、一旦廃案になった。)では、短期2年以上の重大少年事件には、「国選付添人」を付けるとされ、この選任業務も支援センターの本来業務になるものと思われる。それでも、重大事件に限定されるので、多くの少年事件では被疑者段階だけ弁護人が付いて、家裁送致後は付添人不在ということになりかねない。これを避けるためには、現在の扶助的付添人のような制度を維持する必要がある。支援センター設立に伴い、法律扶助協会はなくなるので、当会は自主事業として、扶助的付添人類似の制度を確立する必要がある。
当会の自主事業
 以上のように、支援センターが設立され、被疑者国選がスタートすることで、被疑者の多くに弁護人が付くことになるが、少年事件だけを考えても、被疑者国選の対象外の少年被疑者に対して当番弁護人類似の制度を自主事業で維持しなければならない
 また、家裁送致後は、新設される予定の国選付添人の対象外の少年事件に対して、扶助的付添人類似の制度を自主事業で維持する必要がある。
 これらの自主事業の確立のためには、その事業予算をどこから捻出するのか(会費値上げということもあり得る)、その事務作業(選任や費用の支払等)を当会でするか支援センターに委託するか、選任名簿をどうするか等多くの課題があり、これを会員の皆様の総意にしていただくために、今後議論を積み重ねて参りたいと考えている。大人の刑事事件では当然に弁護士が付く事件で、少年であるがゆえに弁護士のサポートが得られないということがないよう、会員の皆様の御理解と御協力をお願い致します。

公的弁護制度「第1段階」シミュレーション(平成18年10月〜)  
2005.7.5版 日弁連
公的弁護制度「第1段階」シミュレーション
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公的弁護制度「第2段階」シミュレーション(平成21年10月〜)
公的弁護制度「第2段階」シミュレーション
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