横浜弁護士会新聞

2006年11月号  −3− 目次

私の事件ファイル(3)刑事弁護と私
会員 佐久間 哲雄
 10年程前のクリスマスイブの夕刻、当番弁護士としてX警察署に出向いた。被疑罪名は、住居侵入・強盗殺人・強姦未遂・現住建造物放火であった。
 会ってみると被疑者は、30歳前後の男(以下Aという)で、開口一番「誤解だ」と訴えた。本人は落ちついていて、接見に臨んだ私のほうが緊張していた。
 聞けばAは、数日前に九州のさる刑務所を出所し、その足で上京して犯行に及んだという。
 電力会社の調査員を装って女性ひとりの住居に入り込み、スタンガンを使って抵抗を抑圧し強盗を敢行する。女性を裸にしてAと性行為があったかのような声を出させて録音し被害届けを躊躇させる。女性を興奮させる薬剤や録音機などを用意して完全犯罪の計画を練り上げて出所した。
 犯行の現場は、某有名商事会社の社宅として建てられたマンションで、被害者は、20歳代半ばの新婚の女性であった。
 住居に入り込むまでは計画通りであったが、スタンガンの効果は予想していたほどのものでなく、動転してもみ合っているうちに思わず首を絞めた。手袋も脱げてしまい、あたりに散乱した折込み広告に素手が触れた。ハッと気が付いたときには女性は死んだようになっており、散らかっているどの広告に手を触れたのかもわからなくなった。広告を集めて火をつけて逃走した。以上がAが語った概略である。
 私は、当時刑弁センターの事務局長であった木村保夫さんに応援を求めた。木村さんは金子泰輔さんにも声をかけてくれた。3人は交代しながらも連日X警察署に通って接見した。捜査側は必死の取調べ捜査を続けており、弁護側も手持ち証拠のないまま全力で対応した。
 起訴罪名は、強盗致死・現住建造物放火であった。起訴前弁護の結果が鮮やかにでた。強盗殺人から強盗致死へ、強姦未遂は完全に姿を消した。金子さんは現住建造物放火も落せるのではないかと意気込んでいたが、残念ながらこれは残った。
 この事件の弁護人には、私と木村さん及び金子さんの3人がなった。実質的な弁護活動は、木村さんと金子さんにやって戴いた。裁判所は、Aの父親の健康を心配し、情状証人として取り調べるため九州まで出張してくれた。
 出廷した被害者の女性の父親は、北海道の某市まで足を運んだ弁護人の労をねぎらってくれたが、極刑にして欲しいと腹の底からしぼり出す声で訴えた。
 判決は無期懲役であった。控訴はしないで確定した。金子さんの影響と思うが、Aは出所できたときにはキリスト教の布教の助けをする、そのために英語の勉強をしたいと云った。金子さんと木村さんの呼びかけで多くの出版社から寄贈して戴いた英語の学習書をダンボール箱程詰め込んで下獄した。
 Aの事件と前後して、13才の娘と母親を殺した殺人事件、釣具店の店長を軍用拳銃で即死させた強盗殺人の事件の弁護を担当した。
 いずれの事件も、2年前後続いた法廷は、裁判官の真摯な姿勢に貫かれていた。
 母娘を殺した被告人は死刑であった。判決を言渡した3人の裁判官は、被告人が退廷するのを直立して見送った。この事件については、このまま執行を待ちたいという被告人を説得して控訴した。
 刑事弁護を通じて人間にとって大切なことに気づかされ、私の人生を豊かにしてくれるものに出会ってきたと思う。
 これからも気力・体力に見合う事件をお引受けし、刑事法廷に立ち続けたい。私の願いである。

常議員会のいま 当会と法テラスとの協定書
会員 木村 保夫
 国選弁護の運営主体が日本司法支援センター(以下、法テラス)になることに関連する重要議題が目白押しです。
 9月7日の第7回常議員会では、「当会と法テラスとの協定書(以下、協定書)締結」の議案が可決されました。
 当会は、法テラスによる国選弁護制度の運用が刑事弁護活動の独立をおびやかしたり、裁判所に対する弁護人候補の指名通知が恣意的にならないようにしていく必要があります。
 協定書は、そのための重要な取り決めであり、内容は次のようなものでした。
 (1)当会は、被疑者国選につき、従前と同じく「国選弁護人担当予定表」を作成し、これを法テラスに提供します。
 法テラスは、これを「指名通知用名簿」として使用し、当会の割り振りどおりに順次国選弁護人候補を指名していくことになります。
 被疑者国選担当者が不足した場合でも、法テラスは、当会が作成した「別表」に基づき機械的に順次指名することになっています。
 これにより、法テラスによる恣意的指名を防止することができます。
 (2)法テラスは、当会に対し、前記指名通知結果を直ちに通知する義務があります。
 当会と法テラスとの間で設置される連絡協議会で、この結果を検討し、恣意的運用の有無を確認することになります。
 (3)当会が法テラスに提出した国選契約申込者名簿に登載されていない会員から、法テラスに直接国選契約の申込があった場合、法テラスは、会員との契約締結につき当会に意見を求めます。
 そこでは、当会の意見が尊重されることになっています。
 (4)法テラス地方事務所長が、国選契約をした弁護人について契約違反をした場合の措置に関する調査を行うときは、当会がその調査をします。
 そして、当会から法テラスに調査結果と意見を提出し、法テラス側はこれを尊重することになっています。
 常議員会では、この場合の調査に関する会規、規則の整備が急務であるとの意見が出されました。
 様々な理由が有るでしょうが、今回、法テラスとの国選契約を締結しない会員が当会でも少なからずいました。
 協定書は、当会が国選弁護人の指名制度を主導して運営していくために、極めて重い役割を果たすものと思われます。
 その意味で、第7回常議員会で慎重な議論がなされ、前記議案が可決されたことは大いに歓迎すべきことですが、今後も協定書が遵守されるよう、当会の姿勢を強く維持していく必要があると思われます。

こちら記者クラブ やってはならないこと
 今年8月、横浜市の53歳の主婦が電車に飛び込み自殺して亡くなった。この女性は6年前、帰宅途中に殺害された当時22歳の女性会社員の母親だった。公判で、女性は被告から「お前ら両親が迎えに行かなかったから娘は死んだ」と暴言を浴びせられ、ひどく傷ついていた。女性と親しかった人に取材すると「自殺じゃない。被告のあの言葉に殺された殺人だ」と強く訴えた。心の弱りきった人がなぜ、さらに傷つけられなくてはならないのか。
 奈良の女児誘拐殺人事件で奈良地裁は、被告に死刑判決を下した。被告の男は、わが子の身を案じて必死に探す親のもとに、遺体の写真をメールで送りつけた。“被害者の数だけをもって死刑を回避すべきことが明らかであるとはいえない。人格を矯正し更生することは極めて困難”。被告の蛮行は、複数の人を殺していないことを理由にして死刑を免れることができないほど、罪が重いものだったと判断されたことになる。私は仮に矯正の可能性があったとしても、その機会を与える必要がない場合もあると考えている。被告が犯行のみならず、犯行後の行為によって死者や遺族を傷つけ続ける場合もそのひとつだ。更なる被害は、あってはならない。
 新たに導入される裁判員制度によって、被害者本人や遺族の感情を、一般市民の意識で、しかも冷静に捉えて裁判に取り入れ、凶悪犯罪者などに逃げ場を与えない社会環境が作られることに期待している。
(フジテレビジョン 後藤 譲)

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