横浜弁護士会新聞

2008年1月号  −2− 目次


弁護士フェスタ in KANAGAWA 2007 今年も盛況
 昨年11月10日、横浜市開港記念会館と当会会館において、「弁護士フェスタ・in・KANAGAWA〜みんなの裁判員制度・2009年春から実施」が開催された。
 時折小雨の降る生憎の天気であったが参加者は約600人に及び、関係者はうれしい悲鳴をあげた。
裁判員劇「評議」−運命は彼らの決断に委ねられた−
 毎年リピーターもいる恒例の裁判劇。今年はフェスタの副題でも触れられている「裁判員制度」を取り上げ名演、迷演、怪演が繰り広げられた。
あらすじ
 被告人が借金の返済を免れるべく被害者を殺害したのではないかという強盗殺人被告事件を題材に、当会会員、家庭裁判所事務官、法科大学院生の演じる裁判官3名、裁判員6名からなる合議体により評決に向けられた合議が繰り広げられた。  
 争点は(1)凶器の指紋、(2)犯行現場に残された被告人の持ち物、(3)アリバイの成否、(4)動機の有無、(5)目撃された犯人と被告人の同一性という本格的な内容である。   
個性豊かな裁判員による大団円
 各裁判員は「40代男性・自営業2代目ボンボン・性格は大雑把」、「30代女性・専業主婦・ワイドショーを見るのが好きでわりとぞんざいな口を聞く」等と性格・属性が丁寧に設定されており、それぞれの個性が打ち出された展開はスピーディーかつダイナミックなものになった。    
 「彼女との約束があるから合議を早く切り上げたい」、「日当は同じなのだから早く終わらせた方が時給は高くなるわよ」というざっくばらんな裁判員の発言は実際にも生じうる意見であり、裁判員に選ばれた者、その周囲の者はもちろん国民全体で制度の趣旨を理解しこれを定着させていかなければならない必要性を感じた。    
 また、当初はいい加減な態度を取っていた裁判員が評決にあたって人の運命を左右する重大な行為に迷いためらう姿にも、刑事裁判手続の重要さを再認識させられた。     
評決結果〜運命の瞬間〜
 各争点をめぐる白熱した議論の末、合議体による評決結果は有罪5名(内裁判官2名)に対して無罪4名(内裁判官1名)で有罪という結果となった(なお、今回は有罪・無罪の評決のみで量刑は評決の対象とされなかった)。    
 併行して講堂内の会場参加者によるアンケートも行われ、総数117名のうち有罪が42名、無罪が75名と裁判員劇とは反対の結論となった。      
 高い有罪率の下、とかく事件が報道されると有罪確実と考えてしまいがちな風潮がある中、このように合議体の構成員により結果が異なりうるという事実はより適切な刑事裁判の実現に向けての大きな原動力になると思われた。         
パネルディスカッション
 裁判員劇と評決の合間には人気漫画「家栽の人」の原作者としても有名な毛利甚八氏をゲストに迎え、現役の裁判官、検察官、弁護士各1名とともにパネルディスカッションが行われた。      
 毛利氏からは各地で行われた模擬裁判等を取材した結果、裁判員制度の導入により裁判所内に新たな風が吹き込まれることへの強い期待を持っているという意見のほか、より充実した制度の運用のために、今後、法教育がより一層重要になるという意見が発表された。    

世相をえぐる シンポジウム
 横浜市開港記念会館内の各会場では「自治体の個人情報保護審議会の活動について」(情報問題対策委員会主催)、「『融解』する生存権」(人権擁護委員会主催)、「割賦販売法・特定商取引法改正の現状と課題」(消費者問題対策委員会)の各シンポジウムが開催された。  
 各シンポジウムでは、個人情報に関する過剰な反応から、多くの学校でクラス名簿や卒業名簿が姿を消しているという実情や生活保護打切りの末に「おにぎりを食べたい」という日記を残して餓死者が出た事件等、世相をえぐる報告がなされ非常に印象的であった。  
和やかな各種展示会場
 その他、各会場では委員会、同好会等の主催による展示会が開かれ、多数の来場者で賑わった。    
 中でも美術同好会主催の絵画展では普段は一見強面の会員がかわいい筆致の作品を披露していることに新鮮な驚きを感じたほか、当会各支部主催の支部活動紹介の展示場では各支部の地域性・特殊性が分かりやすく発表されており神奈川の魅力を再認識する機会となった。  
恒例の無料法律相談会
 恒例となっている無料相談会にも多数の市民が訪れ、4時間の時間内で合計80件の相談が実施された。  

人権賞「パレスチナのハートアートプロジェクト」が受賞
 第12回を迎えた横浜弁護士会人権賞は、「パレスチナのハート アートプロジェクト」が受賞した。  
 「アートプロジェクト」は、日本を代表する女流画家として国際的に活動する上條陽子さんが、2001年、パレスチナ難民キャンプを訪れて子どもたちの置かれた惨状を目の当たりにし、衝撃を受けて始まった活動。上條さんを代表に、毎年、難民キャンプに画家が訪れ、美術教室を開いて、現地の子どもたちに絵画指導を行っている。また、難民キャンプの子どもたちの作品を日本国内で広く紹介する活動も行っており、県内各地で展覧会も開いている。こうした作品が、一昨年11月には東京都MOA子どもの作品展で平和賞を受賞。昨年5月にも、カナガワビエンナーレ国際児童画展で二作品が入賞するなど、着実に活動の成果を上げてきた。活動のユニークさと、子どもたちに明るい未来を与えるという姿勢が評価され、今回の受賞となった。  
 贈呈式で受賞挨拶に立った上條さんは、難民キャンプでは子どもたちが就くことができる職業が厳しく制限されていて「未来が閉ざされている」現状を紹介し、「絵を教えるだけで精一杯で、時には自分の無力を痛感することもある。子どもたちが、未来に多少は希望を見い出してくれるかもしれないと信じて、活動を続けていきたい」と語った。
 
横浜弁護士会人権賞とは
 米軍ファントム機墜落事故の訴訟弁護団からの寄付金を基に平成4年3月設立された人権救済基金から、人権擁護の分野で優れた活動をした個人、団体を表彰し、人権擁護の輪を広げ、人権の発展と定着に寄与する目的で、平成8年に創設された。

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