横浜弁護士会新聞

2011年11月号  −3− 目次

債権法改正の動向 〜瑕疵担保責任はどう変わろうとしているのか〜
 債権法改正に向けた法制審議会民法(債権関係)部会(以下「法制審部会」)の審議は、今年3月で一巡目(第1読会)を終え、4月に「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が取りまとめられた。
 そこで取り上げられた論点は優に500を超えている。そして、これについて、6月から約2か月間、パブリックコメントの募集が行われ、当会も、関連委員会の意見を鋭意集約して、332頁に及ぶ意見書を作成し、法務省に提出している(近日中に当会のホームページに掲載予定)。
 もっとも、これはせいぜい折り返し地点に過ぎず、7月下旬から早くも法制審部会での審議が再開されている。この第2読会では、前記論点を中心に、改正の要否や方向性などにつき法務省より一定の具体案(複数案が併記されている場合も多い)が示され、その当否をめぐってさらに突っ込んだ議論が展開されており、これまで沈黙を続けていた裁判官出身の委員も積極的に発言をするようになるなど、改正をめぐる議論はまさにヤマ場を迎えている感がある。
 9月12日、当会にて、神奈川県内のロースクールの研究者による債権法改正に関する講演会の第2弾として、最重要論点の一つである瑕疵担保責任をテーマに、今年9月まで1年間当会の会員であった横浜国立大学法科大学院の渡邉拓准教授による講演会が開催された。
 約2時間の講演においては、まず、瑕疵担保責任の法的性質論について、近時は法定責任説よりも契約責任説が通説的地位を占めており、学者グループによる改正提案も契約責任説に立ったものであることや、法制審部会の第1読会でも、特定物ドグマを否定し、契約責任説を支持する意見が多数であったことなどが紹介された。最近の立法例でもウィーン動産売買条約などが契約責任構成をとっているとのことで、これは近時の国際的潮流でもあるようである。
 次に、瑕疵担保責任に関する重要判例である最判平成22年6月1日について批判的検討が加えられ、さらに、契約責任説に沿った改正がなされた場合の実務への影響にも話は及んだ。そこでの、「瑕疵担保責任の存在意義は想定外のことが出てきたときに買主を保護する点にあるが、仮に契約責任説に沿った改正により、損害賠償請求につき履行利益の賠償まで可能となる代わりに過失が要求されることになると、実務で普及している法定責任説的考えのある種の使い勝手の良さが失われるのではないか」との指摘には、大いに頷けるものがあった。
 この講演を通じて、瑕疵担保責任の法的性質に関する理論的な検討のみから演繹的に要件効果を導き出すという方法で改正を進めることで実務的にも妥当な結論が得られるとは限らず、具体的な紛争の解決にとって現行法のどこに不都合があるのか、あるいは、紛争解決のために買主にどのような救済手段を認めるべきかといった観点からの検討が不可欠であるということを再認識させられた。
 講演の最後には、渡邉准教授から1年間弁護士実務を経験してみての感想や失敗談(?)も飛び出すなど、理論と実務の両方を見据えた示唆に富む内容の充実した講演であった。
(司法制度委員会副委員長 林 薫男)

新こちら記者クラブ 懲役○年の生活
 「懲役○年を言い渡す」判決公判の取材で何度も聞いてきた言葉。その「懲役○年」の生活を、先日、はじめて目の当たりにした。
 横浜刑務所で生活している受刑者は10月現在で約1300人、短期受刑者から長期受刑者・外国人受刑者など幅広く収容されているのが特徴だ。施設見学会が開かれた日、受刑者はうどんを作る工場にわかれて作業していた。朝8時から毎日8時間労働。刑務官に監視され、私語厳禁。トイレに行きたい場合は、手を挙げてサインを出す。“開いた手の平”は「小便にいきたい」、“握った拳”は「大便にいきたい」という意味だそうだ。刑務官に付き添われてトイレに行くと、壁は透けていて、使用中の個室にはランプが点く。影に隠れるような場所はなく、刑務官が常に居場所を把握できるようになっている。仕事を終えて体を休める部屋は、本棚とテーブル、布団、洗面台・トイレがついている3畳ばかりの空間。やはり壁は透けている。そして、また朝がきて作業がはじまる。
 受刑者の生活について考えながら施設内の廊下を歩いていると、刑務所の外のマンションで普通に生活している家族の姿が見えた。横浜刑務所は、周辺が小高い丘になっていて、外の生活を目にすることがある。受刑者はどんな気持ちでこの景色を眺めるのか。
 11月5日6日には、受刑者が作った商品が販売されるイベントが開催予定で、工場など刑務所の施設内の見学もできる。
(テレビ朝日 小清水 克)

常議員会のいま 会長声明をめぐる議論
会員 田渕 大輔(57期)
 常議員会で議論される議案や報告事項の内容は、非常に多岐に亘る。その中で、法曹養成に関連する議案や報告事項を目にすることが多い。
 今期の常議員会でも、「法曹の養成に関するフォーラム」の議事の公開を求める会長声明や、司法修習生の修習費用給費制存続を強く求める会長声明、あるいは、法科大学院教育と司法修習との連携強化のための提言に関する日弁連からの意見照会などが議案として議論されてきた。
 その中で特に印象深かったのは、司法修習生の修習費用給費制存続を強く求める会長声明をめぐる議論だった。
 貸与制への移行を是とする人々からは、弁護士の収入ならば修習費用を貸与制にしても、十分返済は可能であるとの指摘がなされている。このような指摘に対して、修習費用の返済が弁護士にとって過重な経済的負担になるかどうかという次元だけで反論するのではなく、司法の役割と弁護士が果たすべき使命から説き起こし、三権の一翼たる司法を担う法曹を養成するため、司法修習制度を維持することは国の責任であることを述べる会長声明は、非常に格調高いものであった。
 法曹養成をめぐる議論は、将来の司法、将来の法曹界のあり方に直結する。そうした問題の重要性を再認識させてくれる会長声明だったのではないかと思う。

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