横浜弁護士会新聞

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1999年12月号(2)

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−司法制度改革、徹底討論会− 
 司法制度改革の動きが急速に高まるなか、ロースクール・弁護士人口・弁護士法72条の各問題について、司法制度改革審議会対策特別委員会主催で、「司法制度改革徹底討論会」が、平成一一年一〇月二日、横浜弁護士会五階大会議室で開催された。席上まず各担当委員から前記問題についての報告があり、参加者の討論がなされた。報告及び意見の要旨は以下のとおり。
第一 法科大学院(ロースクール)構想について
藤村耕造委員の報告
 ロースクール構想の一応の定義及び現在提起されている「日本型ロースクール構想」、特に「京大構想」と「東大構想」の内容を説明した後、この構想が登場した要因として、次の三点が指摘された。
(1) 予備校と法学部の「ダブルスクール」現象による法学部の空洞化。
(2) 法曹人口問題。現在の司法修習制度では、人的・物的に合格者一五〇〇人が限界。法曹人口の飛躍的増大を実現する手段としてロースクール構想が注目される。
(3) 実務的・専門的応用能力のある法曹養成の必要。
意見の要旨
  1. 法曹人口の無制限的増大につながり危険。
  2. 現行制度で一五〇〇人を限界とするのは誤り。
  3. 国民の立場に立てば、72条問題を緩和して、核になる弁護士制度を残したらどうか。
  4. 大学教育の向上が先決。そのうえで実例を積み重ねた漸進的な改革が必要。
  5. ロースクールは、大学改革の問題。司法改革と結びつけるのは誤まり。
  6. 法曹の質を無視した無制限な増加論につながる。
  7. 裁判官の官僚体質等現在の裁判システムの問題からみる視点があってもよい。
  8. 法曹一元の視点からは、ロースクールは将来的にはよい。
  9. 法曹一元とロースクール構想は、無関係
第二 法曹人口問題
佐藤克洋委員の報告
 弁護士会としての統一意見はない。ロースクール構想が提起され、従前の議論が根本的に問い直されている。ロースクール構想によれば、三〜四〇〇〇人の規模になる可能性もある。若手弁護士にとっては大変な事態になるのではないか。プレシンポの議論では、弁護士人口が増加した場合の弁護士の質の保証、弁護士倫理の遵守等については十分な議論がなされなかった。
意見の要旨
  1. 職業的利益を重視すると国民の理解が得られない。質を確保して、国民の必要に応えるにはどの程度の増員が必要かを具体的に考えるべき。
  2. 司法書士、税理士、弁理士にも特定弁護士の資格を与えれば、弁護士人口は六〜七万人になり、それを維持するには年間二〇〇〇人程度が必要。
  3. 弁護士内部に上級弁護士と下級弁護士の階層を設けて、大幅増員することは可能。
  4. 弁護士には高度の専門知識と倫理性が要求される。法は正義と結びつくのであり、市場原理になじまない。手放しの増員論には賛成できない。
  5. 増員されても直ちに資質が低下するとは限らない。守るべきは弁護士自治である。
  6. 提携弁護士等現行制度でも職業倫理の問題はある。職業倫理の保持は弁護士会の監督能力の問題であり、増員反対の理由にならない。
  7. 増員すべきだが、税理士等の他業種を弁護士に取り込む意見には反対。監督官庁の監視を招き、弁護士自治を危うくする。
  8. 一五〇〇人にするならパラリーガル等事務所の処理能力を向上させる努力が必要。
第三 弁護士法72条問題
川島俊郎委員の報告
 基本的には、法曹人口問題と不可分である。司法書士、税理士に弁護士資格を与える考え方も簡裁事件や税務訴訟等、業務を限定することが前提である。72条は維持した上で、一定の限度で取り込み、弁護士会の監督を及ぼした方がよいのではないか。
意見の要旨
  1. 司法書士、税理士に弁護士資格を与えてうまく機能するか疑問。現実論として一度緩めると必要以上に制度が進む危険がある。
  2. 地方では本人訴訟が多い。弁護士偏在の現実がある。
  3. 公設事務所の開設で対処できる。
  4. 一五〇〇人プラスアルファの増員を前提にすれば、72条を堅持すべき。
  5. 訴訟には高度な法律知識と実務経験が要求される。
  6. 良質なサービスを提供するためにも72条は堅持すべき。
  7. 隣接諸業種には行政官庁の監督が付随しており、弁護士自治、法の支配が担保されるか疑問。
(國村 武司) 

 BC級戦犯横浜裁判調査の特別委員会が発足してから一年半が経過した。全国の弁護士会を眺めても、このような委員会を持っているのは横浜だけである。なぜ、当会がBC級裁判に取り組んだか。それは、米軍による戦犯裁判が我が国では唯一横浜で行われたこと、横浜弁護士会が、総会決議をあげて、手分けしてこの裁判の弁護活動に取り組んだからである。
 先輩たちはどのような事件を扱い、どのような弁護活動を行ったのか。私たちは、「憲法五〇周年企画」としてこの問題を取り上げ調査をしたが、より本格的に調査することにしたものである。この作業は、「弁護士会史」の空白を埋めるだけでなく、現代史の空白を埋める作業でもあることを実感している。横浜地裁を接収した軍事法廷で裁かれた被告の数は一〇三七名。事件数にして三三一件。アジア各国で開かれたBC級裁判の中で最大規模のものだった。一一二名が絞首刑を言い渡され、五一名が執行された。
 われわれの調査の基本資料は、今も現役の桃井委員(八五歳)が保管していた事件一覧表である。これには、全事件について、被告とされた人の氏名、本籍地と所属・階級・身分・起訴理由概要、判決年月日、判決結果、確認の年月日と結果、が記されている。この資料があるおかげで、先頃公表された外務省資料を読み解くことができる。ご承知のように、外務省資料の個人名には墨塗りがされているが、桃井資料を基に判読すると、墨塗りのかなりの部分を読み解くことができる。
 我々は、外務省資料のなかの裁判傍聴記を桃井資料をもとに分担して検討している。当時の終戦連絡事務局の職員が戦犯裁判を傍聴して、その様子を東京の本局に送っていた。それを読むと、裁判の様子が浮かび上がってくるのである。
 被告とされた方を探して委員会に来ていただき、裁判の様子などをヒアリングしている。当時の青年も今では八〇歳代であり、調査研究が遅すぎた嫌いもある。それだけに、存命の方を探す作業を急いでいる。俘虜虐待の罪で処罰された方の話は「秘話」に満ちていたし、関弁連理事長・司法研修所教官をつとめられたK弁護士の話は今日的な意義を持つ凄い話だった。法務官としてB29の飛行士を取り調べた氏は、民間人への無差別爆撃を証拠上認定できるものだけを起訴し、国際法に照らして違法とされるものだけに銃殺刑を言い渡したが、それらが戦犯にあたるとして、横浜裁判で起訴されたのだった。しかし、無差別爆撃が国際法違反であるとして裁いたことが戦犯にあたるはずがないと考える氏は、同期の飛鳥田一雄弁護士を弁護人に依頼し、無罪を立証しようと始める・・・・・・。
 委員会では、こうした調査結果を順次、広く市民に公開することを考え、近く弁護士会のホームページの中に「BC級の部屋」を開設すべく理事者に要請中である。乞うご期待。

 横浜市では、大学教授や医師、弁護士、市民代表で構成される横浜市福祉調整委員会を設置しているが、本年四月から岩田恭子会員が委員に選任された。そこで同委員会の活動内容や、委員就任後の感想などについて伺った。
この委員会はどういう役割を担っているのですか。
 いわば、福祉オンブズマンとも言うべきもので、弱い立場に置かれがちな福祉サービス利用者からの苦情を受け付けて、第三者機関として対応し問題解決を図ります。
面接相談はどの様に行われるのですか。
 苦情相談の予約をした人と面接をして、聞き取り相談します。寝たきりの方や介護するなどして来庁するのが困難な人のためには、自宅や施設に訪問します。
相談を受けた後、どの様に処理されるのですか。
 申立人から聴取した苦情内容に基づいて、福祉事務所や所管課、当該施設等に対して調査を行います。実際の調査は福祉調整委員会の事務局がやってくれますので、私達委員は調査事項を整理して指示します。
 その後、調査報告をもとにして意見をまとめて、申立人宛てに調査結果のお知らせを送付します。また行政側の改善が必要と思われる事項については、所管課等に対して改善の申し入れをします。
苦情が申し立てられたことによって、具体的に改善された例がありますか。
 委員が所管課等に申し入れをしたことで改善された例は数多くあります。また委員会として、制度の改善が緊急に必要と思われる事項については市長に対して提言を行ないます。例えば、訪問入浴サービスについて、月四回しか利用できず、五週目のある月は二週間入浴ができなくなってしまう、という苦情申立があり、少なくとも週一回利用できるようにとの制度の改善を市長へ提言した結果、実現しました。
委員に就任してどの様な印象を持たれましたか。
 申立人の方々は本当に切実な問題を抱えていらっしゃいます。相談のテーブルにつくと堰を切ったように話されます。残念ながら相談内容によっては具体的解決に至らないこともありますが、誠意をもってお答えしたいと思っています。
最後に、今後の委員会の役割・活動について何か意見があればお願いします。
 一人でも多くの人にこの委員会の存在を知ってもらい、申立をしてもらいたいと思います。個別の具体的な苦情の集積によって、福祉サービスが少しずつでも改善されると思うからです。
(インタビュー    飯田 直久) 
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