横浜弁護士会新聞

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2000年3月号(2)

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 浦和家裁所長から、一月、横浜に赴任された新所長にお話を伺った。
 出身地・学歴等について
 広島出身、京都大学では坂井検事正と同級生でした。
 法曹を志した動機
 父が裁判官であり、小さなころからその姿を見て、自分も紛争の解決に役立つ仕事ができればと。
 修習について
 一九期、京都修習です。硬式テニスを始めるなど、楽しく充実した修習生活でした。弁護修習の指導官が人格、識見、能力などすばらしい先生で、弁護士にも強く惹かれましたが、最終的に裁判官志望を通しました。
 裁判官としての原点・心構えを
 初任が東京の民事二七部(交通部)で、裁判長の吉岡進さん、倉田卓次さんをはじめ諸先輩から暖かい指導を受けました。当時は交通事故訴訟が大量に提起されるとともに、新しい法律問題が次々に発生し、交通部にとってまさに激動の時代でした。ここで学んだ「正確な事実認定と正しい法の適用」「当事者に対する思いやりの気持ち」が私の原点であり、裁判官としての心構えでもあります。
 思い出に残る事件を
 交通部時代の「妻は他人」事件、福岡高裁時代の「三池炭鉱一酸化中毒事件」や多くの山林の境界事件、東京地裁時代の「大韓航空機撃墜事件」などが印象に残っています。三井炭鉱事件では、作業服に身を固めて有明海の海面下三五〇メートルにある事故現場ちかくで検証を行いました。大韓航空機事件の第一次訴訟は、和解で円満に解決することができました。
 司法制度改革について
 二一世紀を目前に控え、社会が複雑になり、国民の価値観も多様化しており、裁判官に多様な人材を確保する必要があります。様々な経験をつんだ弁護士が裁判官になるという制度は有益でしょう。法曹人口の増加は望ましいことですが、法曹は重大な職責を担っており、法曹の必要性と法曹養成のあり方を十分に検討しつつ、増加を図ってゆくべきでしょう。法律実務家を養成するためには、現在のような修習制度が望ましいと思います。ロースクール構想などもありますが、大学教育の充実は望ましいことです。
 われわれ弁護士に望むことは
 横浜弁護士会と裁判所との協調関係を今後とも維持してゆきたいと思います。解決の困難な家事事件が増加していますので、弁護士の皆さんに代理人として、あるいは家事調停委員としてご尽力をお願いします。そして、微妙に変化する家事事件の当事者の心情を十分に尊重していただきたい。少年事件については、少年と関係機関との橋渡しをお願いします。
 新しい成年後見制度が適正かつ円滑に運用されるようにご協力をお願いします。
 ご家族・趣味について
 男子二人は独立し、妻と二人で官舎に住んでいます。趣味は、スポーツで、テニスやソフトボールが好きです。横浜スタジアムの恒例の大会を楽しみにしています。
 (終始にこやかに、実に率直に色々お話いただいたが、残念ながら一部しか紹介できない。「家裁に対する君たちの意見もどしどし聞かせてほしい」とおっしゃる所長は私の修習時代の民裁教官である。)
(広報委員長 木村 良二) 

誰のための法人化か 問われる日弁連の当事者能力
会員 左部 明宏(さとり あきひろ) 
(日弁連法律事務所法人化ワーキンググループ委員)  
 本年一月、法律事務所法人の支所を認める提言
 日弁連法律事務所法人化ワーキンググループ(法人化WG)は日弁連執行部に対し、法人の従たる事務所を基本的に認める内容を含んだ法律事務所法人化に関する基本的な考え方を提案した。
 従たる事務所の設置を容認する提案をするに至った経緯
 法人化WGは、法務省との意見交換会において、当初は、多数の弁護士会が従たる事務所の設置に反対していることや弁護士法二〇条三項(複数事務所の禁止)との整合性の問題から、支所は認めるべきではないとの主張をしてきた。しかし、これに対する法務省側の反論は厳しい。法人は一般論として支店を持てるはずである。国民、社会が法人化を求める理由は、弁護士業務処理能力の向上増大、業務の継続性の確保であり、従たる事務所を認めることはその重要な位置を占める。弁護士法二〇条三項は弁護士の競争制限規定ではないし、ほかに何らの合理的理由がないまま従たる事務所を禁止する規定を設けることはできない。日弁連がこの点に固執するならば、法案としては何ら制限せずに作成するので後は日弁連内部で処理してはどうか、とさえ主張された。
 苦渋の選択
 支所設置に反対する地方単位会は、これを認めると弁護士業務のビジネス化が進行する一方、地方の弁護士会が担ってきたプロボノ活動がないがしろにされてしまうと主張する。しかし、その主張の背景には大都市の法律事務所に支所を出されては困るという競争制限意識があることは否定できない。法務省や法制局はこの点を看破しており、日弁連が支所反対に固執すれば、調整の余地なしとして何らの規制なく法案化されることは必至の状況である。このような状況の下、まったく規制のない法案が成立してしまえば、弁護士の常駐しない、正に地方単位会が懸念する何らプロボノ活動をしない支所が出来る可能性が高い。そうであれば、弊害に対する法的な防止措置を講じた上で支所を認め、プロボノ活動については弁護士会の監督に委ねるのがよいと判断したのである。もとより、公的活動をするか否かは弁護士個人の資質の問題である。現在でも、プロボノ活動を熱心に行う弁護士もいればまったく行わない弁護士もいる。支所の問題と公的活動の問題は直接リンクする問題ではないであろう。
 特権は誰のため
 弁護士は社会・経済の変革に対し的確に対応できないにもかかわらず自らの特権を手放そうとしない、支所問題についても、自らの職域を守るため他の法律事務所法人の支所を認めない弁護士のギルド的体質を表すものであると見られているのである。  弁護士にとって多くの利点がある法人化であるが、それは国民にとっても有益なものでなくてはならない。大規模事務所、専門化した事務所が地方に進出することは、地方の住民にとっては弁護士へのアクセスが拡充し、選択肢が広がり、また都市の弁護士を地方に拡散させることによる弁護士偏在緩和の期待も持たれているのである。
 地方単位会の多くが反対するから支所を認めることは反対であると主張し続けるのは簡単である。しかし、われわれ弁護士は、自らの痛みを伴う改革を実践できなければ、国民の支持を失い、司法改革の当事者適格を失ってしまうのではなかろうか。

 誰しも自分の言葉が通じない外国に行けば不安であろう。その外国でもし逮捕されたり裁判を受ける身になってしまったらどうであろうか。さぞや心細いことだろう。そうした時に何よりも心強い味方は、自分の言葉を理解してくれる通訳人ではあるまいか。
 わが国に入国し滞在する外国人が増えるにつれ、外国人の刑事事件も確実に増えている。異国の地で身柄拘束されているこうした人々のために的確な弁護活動を行うことは我々弁護士の重要な使命であろう。しかし弁護人が一人で頑張ってみても言葉が通じなければ何もできない。そんな時、接見に同行してくれる通訳人は、外国人の弁護に欠かすことのできない大切な協力者だし、外国人の一番の味方である。
 ところで、外国人の国選事件の場合、こうして弁護人と一緒に接見に行ってくれた通訳人の通訳料や交通費は国選弁護活動に当然伴う必要経費として、これまで裁判所から「一応」は支払われていた(「一応」と断ったのは、その額が通訳人の実際の労力から考えると到底十分なものではなかったからだが)。ところで最近、裁判所は「通訳料の基準を見直した」と言い出した。その「基準」なるものの具体的な内容については明らかにされていないので今ひとつよく分からないが、何人か友人の通訳人に聞いてみると、全員が口を揃えて「これまでよりも低額になった」と言っている。おまけに裁判所は一時は「接見の際の通訳人の交通費は支給しない」とまで言い出した。さすがにこの「交通費は払わない」発言はその後撤回されたが、裁判所は、今後は接見の通訳料を公判の通訳料よりは低額にすることにしたということだ。
 こうした裁判所の態度を見ていると、もともと十分には支払われていなかった通訳料や費用を、さらに減額する方向で見直したと考えざるを得ない。そもそもなぜ、公判の通訳料よりも接見の通訳料の方が安くされなければならないのだろうか、私には全く理解ができない。交通費も出ない通訳料も安いというのでは、今後優秀な通訳人は接見に行ってはくれなくなるだろう。これではまるで、弁護人も通訳人も外国人事件では接見には行かなくてもよいと言っているようなものである。とんでもない話である。言葉の壁がある分だけ、なおさら外国人の弁護では接見には足繁く通わなければならないはずである。
 国際人権規約(B規約)は、刑事上の罪に問われているすべての外国人に対し通訳の援助を受ける権利を保障している。最近の裁判所の「通訳料の見直し」の動きは、こうした人権規約の趣旨に反するし、日本の刑事司法手続きの中にあって、通訳人の地位はもっと法的に保障されるべきだと考える。
(会員 金子 泰輔) 

日時   平成12年3月22日(水)午後1時
場所   横浜弁護士会館 大会議室(5階)
議案   1 横浜弁護士会住宅紛争審査会設置会規制定の件
    2 横浜弁護士会館規則(会規第8号)一部改正の件
    3 弁護士業務上の預り金の取り扱いに関する会規制定の件
    4 横浜弁護士会弁護士業務妨害対策支援会規制定の件
    5 横浜弁護士会調査室設置会規制定の件

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