横浜弁護士会新聞

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2000年3月号(3)

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横浜地方裁判所長 佐藤歳二さんに聞く(2)

法曹一元制の導入についてはどうお考えですか。
 制度の内容が論者によって異なっていますが、法曹人口の増大、弁護士の偏在化の是正、共同形態の推進、弁護士倫理の確立等の条件が整えば、望ましい制度であると思います。
 しかし気になるのは、法曹一元が実現すれば、問題がすべて解決するような流れにあることです。キャリア制度にも長所と短所があるわけで、長所は全国どこでも同じレベルの司法サービスを提供できるため、地方でも等しく公正な裁判が受けられるということです。キャリア裁判官には紛争の多様化に対応する柔軟性、専門性に欠けるという短所が指摘されるようですが、これらは研鑽制度の改善や裁判への専門家の協力を受けることなどで対応できると考えます。段階的には、キャリア裁判官と法曹一元裁判官の併存により、裁判官に多様な人材が集まることが重要だと思います。
弁護士任官についてはいかがお考えでしょうか。
 弁護士任官は、法曹一元の実験だと思います。現状のように一年に全国で数名程度の弁護士任官しかない状況では、法曹一元も理念だけに終わってしまうのではないでしょうか。
 必要な資質は、弁護士も裁判官も基本的には同じで、当事者の話をよく聞き、物事を厳正中立に判断できるということだと思います。裁判官向きの人ばかりでは、裁判所は変わりません。弁護士として優秀な人、バリバリやっている人に任官してほしいと思います。
陪審制・参審制についてはどうお考えでしょうか。
 陪審制は、真実発見については現状より後退することは明らかです。いわゆるラフ・ジャスティスになることは避けられないと思いますし、陪審制の導入により、えん罪や誤判がなくなるという意見には賛成できません。現行の検察審査会では審査員の出席の確保にすら困難をきたしており、こうした現状から見ても陪審員の出席確保などで国民の負担が伴いますし、連日開廷を実現するため弁護士の協力が可能かなどの問題もあります。ムード的に民意の反映がすべて善であるかのように考えられる向きがあるようですが、陪審制の実現により、現在の裁判がどう変わるか、また、国民の協力が必要なこと等をきちんと国民に説明し、納得を得ることが必要だと思います。
 参審制については、専門家を入れるというやり方もありますし、選任等の面でも陪審よりやりやすいと思います。
特許訴訟・税務訴訟での弁理士・税理士への代理権付与、簡裁民事事件の司法書士代理権について。
 本来、その当否については、裁判の利用者が考えることでしょうが、それぞれの分野で専門家が活躍している現状と簡裁での弁護士関与率が一〇パーセントに満たないことを認識する必要があると思います。代理権付与に反対するだけで、この分野で弁護士がちゃんとやらなければ反対論として説得力がないと思います。
 司法書士については、研修をしっかりすることがもちろん前提ですが、少なくとも本人が一人で訴訟をやっているより専門家の力を借りる方がよいことは明らかだと思います。国民の権利意識の向上や、紛争の多様化により、簡裁の裁判官の後見的訴訟指揮にも限度があります。
法曹人口の増加と法曹養成制度について。
 難しい問題ですが、全国的にどのような司法サービスが行われているのか、どれだけの需要があるのか、弁護士の職域拡大をどう考えるかなどに関わっており、結局は国民が法曹に何を望んでいるかであると思います。
 法科大学院、ロースクール構想は、論者によっていろいろな考えがありますが、大学教育と法曹養成を結び付ける議論は必要だと思います。ただ、論者によっては、実践的な研修を軽視する嫌いがあるようですが、法曹としての執務姿勢、人権感覚、職業倫理の涵養等が必要であり、そうした理念がなくて良いという考えなら問題だと思います。
新民訴の定着について
 新民訴の運用によって随分変わることがあると思いますし、これが定着すれば国民のニーズの相当範囲の部分で応えることができると思っております。目標・理念はきちんと掲げることが必要ですが、その実現には現実を踏まえて段階的に進めることが大切で、それぞれの地裁などによるローカルルールもあって良いと考えています。
弁護士、弁護士会に対するご要望は。
 第一に、制度論の議論は結構だが、裁判所と一緒に、現行制度の長所と短所を国民にきちんと情報提供すべきだと思います。未だそれが十分になされていないので、ややムード的な議論になってしまっている感じがします。
 第二に、国民のニーズの中で、現行制度の枠の中で実現できるものがあったらこれを実践していく努力が必要だと思います。弁護士会と裁判所の間で直接意見を言い合って運用面での改善策を見つけていく、そうした雰囲気をお互いに作りたいと思います。
 最後に、司法制度というと裁判所の問題と捉えられがちですが、世の中の紛争の大半は弁護士が関与しており、弁護士に対する国民の期待はますます高まっていると思いますので、弁護士の業務形態等の改革ということももっと検討していってほしいと思います。
(インタビュー  会長 岡本 秀雄) 

 日弁連会長選挙は、去る二月四日投票が行われ、高山俊吉氏が三、四五〇票、久保井一匡氏が七、九七七票を得、久保井氏が当選した(投票率六七・六七%パーセント)。
 当会では、投票総数三四六票(投票率五一・〇三%)、うち高山氏の得票は一五八票、久保井氏の得票は一八五票であった(他に白票二、疑問票一)。(なお、この数字は仮報告集計による)
(副会長 森田 明) 

常議員会レポート
業務妨害を受けた弁護士に弁護士会が支援
支援規則制定案は総会議案として提出
 第一〇回常議員会は出席者二五名を得て開催された。
第1号議案
相模原相談センター夜間相談実施の件
   理事者より、相模原相談センターの現状について、並びに、夜間相談の必要性についての説明がなされ、承認可決された。支部初の夜間相談ということであり、その成功が願われる。
第2号議案 パート職員採用の件
   承認可決された。
第3号議案・第4号議案 営業許可申請の件、及び、営業許可に伴う取締役推薦の件
   いわゆるサービサーにおける弁護士取締役の営業許可申請の事案であった。活発な議論の上、いずれも承認可決された。
   前回申請の会員が申請を取り下げ、同じサービサー会社について、別の会員が改めて申請した事案で、当会としても実質的には初めての事案である。そのため、承認基準等についての議論が前回に引き続き多くなされたが、実績等を見なければ明らかでない部分もあり、今後の課題となった。なお、申請人からは、弁護士としての指導に従わないような事態となった場合には、直ちに辞任する決意であり、弁護士取締役がいなければ営業できない仕組みであるところから、その立場は強いものであるとの説明がなされた。また、常議員からは、慎重に審議すべきである旨の意見や、新しい制度であり積極的に取り組むべきである旨の意見も出された。
第5号議案 入会申込者の入会許否の件
   元公証人(元検察官)の入会希望であり、異議なく承認された。
第6号議案 横浜弁護士会弁護士業務妨害対策委員会設置規則一部改正及び支援規則制定の件
   業務妨害対策委員会の委員長も出席し、議案の説明がなされた。
   本件議案の主要な点は、支援規則にある。つまり、横浜弁護士会の会員が業務妨害を受けている場合において、支援要請がなされた時には支援弁護士名簿に登録されている弁護士を支援弁護士として派遣し、一定の条件が満たされる場合においては、弁護士会が支援弁護士に対して費用(日当報酬等)の支給を行い、積極的に支援しようという規則である。
   弁護士会が積極的に具体的事件に介入する点、また、費用支出を恒常的に伴う規則であるところから、活発な質疑応答並びに意見が提出された。さらに、神奈川在住の他会の弁護士はどうするのか、当会の会員に対する脅迫行為等が遠方でなされた場合はどうするのか(他会の会員に支援を依頼するのか)等について積極的な意見もでた。本件が会費支出を伴う重要案件である事から、支援規則については、総会において会規として定めるべきとの意見が多数を占め、採決の結果、総会議案として提出する事が認められ、細則については、総会決議後の常議員会で定める事に決した。
第7号議案 日弁連・関弁連関係各種委員会委員等候補者推薦の件
   いずれも、人事委員会の推薦に従って、議長・副議長と理事者が決定する事で、一任決定された。
第8号議案 裁判所・行政関係各種委員会委員等候補者推薦の件
   人事委員会の推薦を受け、異議なく承認された。
   
[報告事項]
1、懲戒委員会において「懲戒せず」との議決が一件あった事が報告された。
2、弁護士法第五条三号の申請を受け、常議員会から資格審査委員会に送付されていた事案について、資格審査委員会が常議員会と同様「進達せず」との議決を行った事が報告された。
3、その他、前回決定された人権救済事件についての執行がなされた事、並びに、死刑執行について会長声明がなされた事について報告された。
(副議長  箕山 洋二) 

常議員からズバリひとこと
 死刑執行差し控え、少年法改正案反対等世論が真っ二つに分かれるような問題に関する会長声明が、論客ぞろいの常議員会でよく通過して、横浜弁護士会の見解として発表されるものだと従前から思っていた。今回、常議員になり、死刑執行差し控えの会長声明が上程されたので私は「この会長声明は死刑廃止の立場で書かれているのですか。」と質問。提案者「どちらの立場からも書いていません」との回答。
 全員一致で通過する理由がやっとわかった。
(四八期 小澤 靖志) 

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