横浜弁護士会新聞

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1999年5月号(2)

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会員 山下  光 

貴重な一年間
 あっという間の一年であった。思えば一ヵ月を超える日本各地への出張、週三日以上の日弁連通い、何度読んでもよく理解できない専門的な意見書、人格者の日弁連会長、八面六臂の総長と、すべてが今は懐かしい。
 日比谷公園が眼下に見える霞ケ関の日弁連会館の一六階にいると、日本の司法に自分も関与し、一般の会員とは違った情報に接しているという実感を覚える。何よりも副会長でなければ会えなかったような日本のトップの優秀で個性のある人達に接し、卓越した意見を聞くことができたのは、これからの人生にとってプラスになると思う。
「司法制度改革審議会」について
 日弁連は、本年五月過ぎからスタートする司法制度改革審議会の対応に追われるだろう。しかし、本当に大変なのは平成一三年三月末に審議会が終わり、そこでの議論を踏まえて法案が作成される平成一三年からの二〜三年ではなかろうか。
 今回の審議会は、かつての臨司が司法の一分野を取上げたのと違い、司法全般の問題を検討する予定である。委員も臨司と違って、法曹三者や国会議員を中核とするメンバーではなく、各界において日本を代表する識者が選任される。そこで決定されたことは、たとえ日弁連の主張に反することであろうと、受け入れざるを得ないところに追い込まれるに違いない。
 たとえば、司法予算の増大、参審制の導入、扶助改革の実現、刑事被疑者援助事業の実現化等、日弁連が積年主張していたものも取り入れられようが、反面、法曹人口の飛躍的な増加、ロースクールを含めた研修方法、七二条問題、法人化等については、日弁連の主張に反した方向で実施される可能性もあり、会内論議は沸騰し、合意を得るどころではないかもしれない。
 いずれ、間違いなく我々の法曹界にも時代の流れという疾風が吹き荒れるであろう。それに対しては、自信と誇りを持って冷静に対処することだと思う。
明日の日弁連
 世界は冷戦が終結し、政治の時代から経済の時代に入ってきた。そのような時代に、政治との関わり方は大変難しいところだが、日弁連としては、ただ何かに反対するのではなく、社会のために有益な制度や法律を創造する仕事にもっと目を向けるべきだと思う。そして、そのような新しい役割を果たすため、政党との関係については、どの党とも一定の距離を置くと共に、相手の思想的立場や経済的立場を尊重し、相互に理解できる関係を維持していかなければならない。
 他方、私的自治を始め、七二条、法人化、法曹一元化、修習制度等について、過去の日弁連の意見を国民的立場から虚心坦懐に見直す必要がある。結局は、先進諸国におけるそれらの制度の運用等を参考にしながら、社会の流れに柔軟に対応せざるを得ないと考えるからである。一般論からいって諸外国と比べて特異な制度は、消滅するであろうし、多くの国で確定している制度は、早晩日本でも採用される。この傾向は国際化の流れの中で早まるのではないだろうか。
「視点」について
 ところで、従来、我々は世の中の病理現象や被告人的立場に立脚して司法や社会全体をみてきたように思う。そのような視点も弁護士という職務や人権を守るという立場からは当然に正しい。しかし、社会全体、司法全体から眺める視野の広さも必要だったように思う。刑事被害者等の保護が最近まで取上げられなかったのはその一例ではなかろうか。
 いずれにしても四月一日からは横浜に帰っているので、仲間に入れていただくようお願いしたい。


 新民事訴訟法では、テレビ会議の方法を利用した証人尋問ができることになり、既に全国的には昨年一月から五月までで四五件、横浜地方裁判所本庁で昨年一年間で二件利用された実績がある。
 しかし、ほぼ全員の会員はこれを経験しておらず、これから利用するうえでの注意点や対策、さらにはそれをもとにしたシステム自体の改良を考えるために、当会及び横浜地方裁判所、浦和地方裁判所、埼玉県弁護士会の共催で、去る三月二六日、横浜・浦和両地方裁判所のテレビ会議システムを利用して、二回にわたり模擬証人尋問を行い、各回三〇名ずつ合計六〇名の会員がこの実験の傍聴に参加した。
1.テレビ会議による証人尋問システムの概要
 新民事訴訟法のテレビ会議による証人尋問とは、利用する受訴裁判所・証人出頭の裁判所の双方にモニター用のテレビ画面(カラーであり、その上にテレビカメラが置いてある)そして書画用のテレビカメラ、ファクシミリを置き、相互に映し出された映像を見ながら訴訟関係者が尋問等をするものである。
 法廷は、システムの機能上受訴裁判所・証人出頭の裁判所ともに「ラウンドテーブル法廷」とされ、受訴裁判所では、モニター用のテレビ画面(その上にテレビカメラが置いてある)に向かって、右から原告、裁判官、書記官、被告の順にテレビカメラに向かって座り、証人出頭の裁判所では、証人がテレビカメラに向かって座る。
 そして、わかりやすい裁判の実現のために、傍聴席のまえにもモニター用のテレビ画面が置かれ、訴訟関係者が見ているのと同一の画面が映しだされることによって、やりとりが容易にわかるようになっている。
 モニター用のテレビ画面は大、小二つの区画に分けられ受訴裁判所では大区画に証人の映像が、小区画(子画面)に受訴裁判所の訴訟関係者自身の映像がそれぞれ映し出され、後者を通じて証人が見ている受訴裁判所の様子も併せてわかるようになっている(証人用のテレビ画面は、その逆である)。
 特徴的なのは、書画カメラである。これは、証人に示す書証を台のうえに置いて上から写すもので、ズーム機能もあり、一部分の拡大も、全体の俯瞰も可能となっている。
 そして、書画カメラを補完しかつ証人が確実に書証の内容を理解できるようにファクシミリが利用されることになっている。
 これらのテレビカメラ、書画カメラ、ファクシミリ等は、両裁判所の書記官が、訴訟関係者の質問、指示等に応じて操作することになっている。
 システムの利用料(訴訟費用)は、証人の旅費・日当は別で、両裁判所間の距離及び利用時間に応じて決まり、例えば横浜と札幌では、平成一〇年二月現在で、六〇分で一〇八〇〇円、九〇分で一六二〇〇円、一二〇分で二一六〇〇円となっている(裁判所に利用料金早見表がある)。
2.実験の内容及び結果
 当日は、浦和・横浜両裁判所に証人が出頭した場合を想定して、横浜・浦和両裁判所から簡単な模擬尋問が行われたが、以下のような結果となった。
・受訴裁判所で、尋問に異議がだされ、訴訟関係者の発言が重複した場合には、モニター用のテレビのスピーカーに立体的な方向性がないため、音が直接重なり、証人には理解が困難になる(重複発言の問題)。
・証人と尋問の訴訟関係者の同時発言も聞き取りにくい。
・証人、尋問者が早口で話すと聞き取りにくい。
・書証を書画カメラで証人に示し、証人がそれを見るのは同時であるが、ファクシミリで示すと同時に送ると約一分三〇秒かかった。
 このことは、弾劾証拠の場合には、事前にファックスする等工夫しないと、テレビ画面だけに頼って尋問することとなるが、その場合書証を書画カメラを通じて証人に示すことは、尋問者が操作者でないだけにかなりやりにくい可能性がある。
・証人の映像と音声を比べると、音声の方が先に届き映像の口の動きはやや遅れる。
・いわゆる家庭用テレビのような俊敏な動きの映像ではないが、映像自体の違和感はあまりない。
・書証を早く動かすと、残像で極めて見にくくなる。従って、静止して必要な箇所を示す必要があるが、操作者と連携がうまくとれないとやりにくそうである。
・書証の印影の色の違いを書画カメラで実験したが、モニター用のテレビ画面自体に電気的な原因のためかそもそも着色があり、正確にわからない場合があった。
これは、かなり重要な問題であり、画面の性能とも関係するが早急に対処する必要がある。
3.このテレビ会議装置は、本年四月一日からは弁論準備の手続きにも利用されるそうである。
 時代は刻々と変わりつつある。新しい尋問形態に有効に対応できるために、弁護士としても充分な対応が必要であろう。今後もこのようなデモンストレーションの機会が設けられることを是非とも望みたい。(広報委員 國村武司)

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