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海と法律

2013年02月08日内山 浩人弁護士

最初にクイズです。潜水艇に「海上衝突予防法」の適用はあるでしょうか。

昨年,小型船舶操縦士2級,1級の免許を続けてとりました。
とはいっても,実際に操船したのは,実技講習のとき,国家試験の実技試験のとき,免許取得後にレンタルボートを操縦したときの合計3回にすぎません。
たった3回の操縦経験ですが,「船の操縦は難しい」ことを痛感させられました。

自動車の免許は取得してから20年以上が経ち,地球を何周もするくらい運転しているので,ボートの運転くらい「なんとかなるだろう」と高を括っていたのですが,これが大間違い。
まず,風や波から受ける影響が予想以上です。まっすぐ走っているつもりでも,ちょっとした波や風ですぐにコースから逸れてしまいます。波や風が強いと,その場にとどまることだけでも一苦労です。
また,ブレーキがありません。エンジンを停止しても惰性で進んでしまいます。止まろうと思ってもすぐに止まれないのは,自動車では味わえない恐怖です。
また,車線などなく、信号や標識なども、港内や水路の一部にあるだけでほとんどありません。
また,道路を走る車と違い,船の大きさは様々です。手こぎの小さな舟から,6000人以上が乗れ,水面からの高さが70メートルを超える豪華客船まで様々な大きさの船が行き交っています。

このように,海上交通は陸上交通と違うことが多いので,そこに適用される法律もずいぶん違います。
一般の人が行える交通に限って言うと,陸上交通の基本法ともいえるのが「道路交通法」です。これに対応する全ての海域に適用される交通の基本法は「海上衝突予防法」になります。
その他,浦賀水道航路など,一部の混雑する海域に特別に適用される「海上交通安全法」,港内に特別に適用される「港則法」を合わせて「海上交通三法」などと呼ばれています。
多分,多くの方が初めて聞く法律ではないでしょうか。かく言う私も,恥ずかしながら,船舶免許の勉強をするまで,これらの法律を知りませんでした。

この「海上衝突予防法」,道路交通法と大きく異なる特徴が2つあります。

一つは,文字どおり,船の「衝突予防」に目的があること。
車線や信号,無数の標識等できちっと交通整理された陸上道路とちがい,海上にはそれらがほとんどありません。なので,それらに頼らないで衝突を予防できる工夫が必要になります。その工夫が,2隻の船の優先関係を決めることです。
例えば,「2隻の船が真向かいに行き会う場合は,針路を右に転じなければならない」。つまり,正面衝突しそうな場合は,お互いに舵を右に切ることによって,衝突を避けます。
また,「2隻の船が互いの針路を横切る場合は,他の船を右側に見る船が,相手の針路を避けなければならない」。つまり,東から来る船と南からくる船が衝突しそうなときは,南から来る船が衝突を避ける操船をしなければなりません。
このように,2隻の船の位置関係から操船方法や優先順位を規定して,衝突を予防しようとしています。

また,船舶の種類によって優先順位が決められています。
例えば,プレジャーボートは,帆船や漁をしている最中の漁船を避けなければいけません。
また,これらの船も,工事作業中に従事している船や,故障して動けない船を避けなければいけません。
この優先順位は,「動きやすい船が,動きにくい船を避ける」ように規定されています。
このように,船の位置関係や種類によって優先関係や操船方法を決めることによって,車線,信号,標識等で整理されていなくても,船同士の衝突を避けられるよう工夫しているのです。

そして,もう一つの特徴が,「世界共通ルール」であることです。
海上衝突予防法の第1条には,「海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠」すると規定があります。
港に出入りする船の中には,外国船籍や外国の船長も多いので,海上交通の基本ルールは世界共通になっているのです。
「日本では,正面衝突を避けるために右に舵を切るが,ある国では左に切る」なんてことはありません。
 

横浜ベイサイドマリーナにて

ところで,一般の人が操縦する乗り物に適用される交通法規には,「道路交通法」,「海上衝突予防法」等だけでなく,もちろん,空の交通法規もあります。「航空法」(及び国土交通省令)がそれです。
しかし,宇宙空間や海中の交通法規はまだありません。一般の人が交通するには至ってないから当然ですね。
でも,遠い将来,宇宙空間や海中に多くの人が進出し,そこで一般の人が乗り物を運転できるようになれば,「宇宙衝突予防法」とか「海中衝突予防法」といった法規ができる日が来るかもしれません。

最後に,冒頭のクイズの答えです。もうおわかりですね。
「潜水艇は,海上に出た場合は海上衝突予防法等の適用があるが,海中にいるときは適用がない」が正解でした。

 

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