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会長声明・決議・意見書(2015年度)

少年法の「成人」年齢引下げに反対する会長声明

2015年06月15日更新

自由民主党は,平成27年4月14日,少年法の適用年齢を現行の20歳未満から引き下げることなどについて検討する「成年年齢に関する特命委員会」を開き,少年法改正についての方向性をまとめる考えを示すと報じられた。上記特命委員会の開催は,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案の附則第11条で「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされていることを受けての動きである。

しかしながら,法律の適用年齢は,それぞれの制度目的や保護法益等に照らし,個別具体的に慎重に検討すべきである。民法が20歳を成年と規定する一方、養子縁組能力や遺言能力を15歳で認めていること,喫煙や飲酒は20歳を区分年齢としているが、風俗営業法上の規制に当たるパチンコ店への入店は18歳から認められていることなどが示すように,適用年齢は、法律の立法趣旨や目的ごとに、子ども・若者の最善の利益と犯罪予防などの社会全体の利益を実現する観点から、個別具体的に検討すべきである。現行少年法がその適用年齢を20歳未満としたのは,犯罪傾向の分析の結果,20歳くらいまでは心身の発達が十分でなく,環境その他の外部的条件の影響を受けやすいと考えられたことから,20歳未満の者には刑罰ではなく保護処分により教化を図る方が適切であると判断したことによるのであり,現在においてもこれを変更すべき合理的な理由は存在しない。

少年法は,人格の形成途上で精神的に未熟な若者が非行を行った際,刑罰を科すのではなく,性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことにより,若者の健全育成を図り,再犯を防止するという目的がある。かかる立法趣旨を受け,家庭裁判所や少年鑑別所は,人間行動科学に基づく調査と審理を行い,非行事実の認定だけでなく,非行の原因と背景を解明し,性格の矯正や生活環境の調整を行い,少年の立ち直りのために最善な処遇を行っている。このような保護・教育的な処遇が刑罰より再犯防止に効果を上げていることは,アメリカにおける政策評価研究結果や法務省の研究結果等からも裏付けられている。我が国における近時の調査でも,少年院出院者が5年以内に再び少年院又は刑務所に収容される割合は20%台前半であり,刑務所を出所した若年者が5年以内に再び刑務所に収容される割合が30%台半ばであるのに比べて相当程度低いという結果が出ているところである。少年被疑者のうち少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられた場合にその適用対象から外れる18歳から19歳の少年は40%以上を占めているのであるが,半数に迫る数の少年を保護・教育的な処遇から外し,刑罰をもって臨むのが社会にとって有益であるとは到底思われない。

これに対し,「少年の凶悪事件が増加している現状において,現行の少年法では甘い」という指摘がなされることがある。しかしながら,このような指摘は,そもそもこの30年間で少年の凶悪犯罪が半分以下に減少しているという事実に反している上,少年の内面に対して働きかけを続ける少年院などの処遇は決して「甘い」ものではないし,また,現行少年法下でも,重大事件を犯した少年の多くは検察官に送致されて裁判員裁判により刑罰に処されているのが現状であることも正しく踏まえていない。

さらに,刑罰より保護を優先する考えは,我が国の青少年の自立・成熟が遅れていることを踏まえた,30歳未満を対象とする青少年政策や,40歳未満までを対象とする「子ども・若者育成支援推進法」の趣旨にも通じるものがある。

非行を犯した少年が,二度と非行や犯罪を行わず,健全な大人へと成長することこそ,少年にとっても社会にとっても望ましいことである。その一翼を現行少年法が担っているにもかかわらず,選挙「権」を得たから大人と同じように「責任」をとるべきだ,と安易に少年法の適用年齢を引き下げることは,逆に,教育的効果を減退させて再非行や再犯を増加させるなど,少年にとっても社会にとっても不利益な結果となりかねず,断じてあってはならない。

公職選挙法改正案の附則第11条も,少年法の適用年齢の引下げを当然の前提とするものではなく,選挙犯罪について改正後の公職選挙法と少年法の調整を図る必要があることなどを考慮した規定であると理解すべきである。

当会は,選挙権年齢の引下げを安易に少年法の適用年齢の引下げに結びつける動きに強く反対するものである。

2015(平成27)年6月11日

横浜弁護士会     

 会長 竹森 裕子 

 

 
 
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