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会長声明・決議・意見書(2022年度)

「反撃能力」の保有に反対し、日本国憲法の理念に立脚した国際平和の実現をめざす決議

2023年03月08日更新

 

いま、私たちは、戦争と平和の問題に直面している。

 2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻して世界を震撼させ、いまなお日々戦闘が続いて終わるところがない。そして東アジアにおいても、北朝鮮のミサイル発射実験や台湾をめぐる米中対立が生じている中で、中国の台湾への侵攻による武力衝突の可能性、さらには南西諸島をはじめ日本が戦場になる事態まで想定した議論がなされている。

 しかし、戦争は絶対に避けなければならない。戦争の悲惨さを私たちは、現にウクライナで目の当たりにしている。そして78年前に経験したこの国の破局的な事態は、決して過去のことではない。

 その第二次世界大戦の惨禍の中から、そして人類が初めて経験した原爆の焦土の中から、徹底した平和主義に立脚した日本国憲法が生まれた。その平和主義の下で、日本は戦後78年間、戦争をすることなく、また一人の戦死者も出すことなく、平和国家日本を守り育ててきた。

 

 その憲法の平和主義が、そして立憲主義が、いま大きく揺るがされている。

 政府は、2022年12月16日、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を閣議決定した。この閣議決定は、「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」とし、「戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換するものである」と自認し、とりわけ中国の動向を「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」であり「これまでにない最大の戦略的な挑戦」であると位置付け、我が国に対する武力侵攻が生起する場合をも想定し、これらに対して防衛力の抜本的強化が必要だとする。そしてその中心的な対策として、「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」の保有を打ち出した。またこの能力は、安保法制によって可能とされた存立危機事態における集団的自衛権の発動の場合にも行使し得るとする。

 

 しかしこの「反撃能力」の保有と行使は、日本国憲法の平和主義に違反する。

 すなわち、これまで政府自身が前提にしてきた憲法9条の解釈として、自衛権の発動は、

①我が国に対する武力攻撃が発生し、②これを排除する他の適当な手段がない場合に、③ その武力攻撃を我が国の領域外に排除するために必要な最小限度の実力行使に限る、との3要件が満たされる場合にのみ許されるとされ、特に③の内容として、他国の領域における武力の行使は基本的に許されないとされてきた。また、同条2項の戦力の不保持の規定からも、相手国の領域に直接的な脅威を与える攻撃的兵器の保有は「戦力」に該当して許されないとされてきた。そしてこれらが、防衛政策の基本原則としての「専守防衛」の内容をなしてきたのである。

 しかしながら、まず、上記①の武力攻撃の発生があったというためには、少なくとも相手国のミサイル発射の「着手」がなければならないところ、現在のミサイル技術の発達の下で、ミサイル発射の「着手」があったかどうかの判断等は極めて困難であり、その判断を誤って「反撃能力」を行使すれば、上記①に違反し、国際法上も違法な先制攻撃となってしまう。また、長射程のスタンド・オフ・ミサイル等による「反撃」は、相手国の領域を直接攻撃するものであるから上記③の要件に反するとともに、その能力は「戦力」に該当するものでもあって、明らかに憲法上の制限を踏み越えるものである。

 さらに、集団的自衛権の発動として「反撃能力」を行使するとすれば、それは他国のために相手国の領域にミサイル等による攻撃を開始するというものであり、当然に相手国から日本の国土への反撃を招いて、その国との戦争に突入することになる。それは当会が一貫して反対してきた安保法制の集団的自衛権容認の危険性の現実化にほかならない。

 そして、このような「反撃能力」の保有は、これまで周辺諸国に対する「安心の供与」として機能してきた「専守防衛」政策を実質的に放棄するものであり、逆に周辺諸国に大きな軍事的脅威を与え、際限のない軍拡競争と国家間対立に繋がるものである。

 また、憲法9条に違反する「反撃能力」の保有は、平和主義に反するばかりでなく、権力に憲法遵守義務を課してその行為を縛り、国民の自由と権利を確保しようとする立憲主義に違反するものである。

 

 日本国憲法前文は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を制定する」として立憲主義を謳った。その上で、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とした。そして、そのための制度的保障が、憲法9条の戦争の放棄と戦力の不保持及び交戦権の否認である。

 この憲法の理念と原理は、憲法9条による武力の行使の制約として、戦後78年間の憲法実践によって積み重ねられ、それによって日本はこの間の平和を維持してきたのである。

いま、この理念と原理を放棄してはならない。平和が危機にさらされるときこそ、憲法の平和主義がその真価を発揮しなければならない。

 そのためには、とりわけ経済的、文化的に緊密な関係にある近隣諸国との平和的外交関係を構築する以外に方法はない。日本は、これら近隣諸国との独自の利害関係を有するのであり、その中で、防衛政策としても武力紛争を回避し、互恵関係を構築するための主体的な選択と判断が求められる。

 よって当会は、憲法に立脚し、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、国際情勢が困難な状況にあるいまこそ、政府に対し、前記閣議決定がいう「反撃能力」の保有が憲法に違反することを指摘し、これに反対し、平和外交に徹することを求めるとともに、日本国憲法の立憲主義の基本理念及び平和主義の理念と原理に基づいて、国際平和を実現し確保するための活動を、一層力強く推進していくことを宣言する。

 

2023年3月7日神奈川県弁護士会 臨時総会

 

 

決議理由等、決議全文はこちら

「反撃能力」の保有に反対し、日本国憲法の理念に立脚した国際平和の実現をめざす決議

 
 
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