2026年02月13日更新
法制審議会は、本年2月12日、再審手続に関する刑事訴訟法の改正要綱(骨子)(以下「要綱(骨子)」という。)を採択し、法務大臣に答申した。しかし、その内容は、えん罪被害者の救済という再審法改正の目的に沿ったものとは言えず、かえって現状よりも救済を困難にする重大な懸念をぬぐえない。主な問題点は以下の3点である。
第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、裁判所が調査して「再審の請求の理由がないことが明らかであると認めるとき」は、事実の取調べや証拠提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却する決定をしなければならないとしている。 この点、過去の再審無罪事件では、再審請求後に新たに開示された証拠により請求の理由が具体化・実質化され、再審開始・無罪に至った場合が多い。ところが要綱(骨子)によると、調査手続の段階では裁判所は証拠提出命令を行わないため、再審請求人は無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで門前払いされてしまうおそれがある。
第2に、要綱(骨子)は、裁判所による検察官に対する証拠提出命令の制度を設けるものの、その対象を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって、必要性の程度や提出による弊害の内容・程度を考慮し、裁判所が「相当と認めるとき」に限定している。 これも過去の再審無罪事件から明らかなように、無罪につながる証拠は捜査機関の手元にあることが多く、広く開示された証拠を再審請求人や弁護人が検討し選別して初めて、再審請求の理由に関連するものとして裁判所に摘示することが可能になるものである。ところが要綱(骨子)によると、裁判所が再審請求の理由に関連するものとして相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人らは、捜査機関が保管する証拠を確認できない。これでは、裁判所の裁量により広く証拠が開示されることがあり得た現行の運用よりも後退し、証拠開示の範囲が狭まることになりかねない。 しかも、要綱(骨子)は、開示された証拠の目的外使用を罰則付きで禁止している。これでは、開示された証拠を支援者とともに検証することも、報道で世間に問うことも制限されることになり、えん罪被害者の救済をより困難にさせる。
第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止する規定を設けていない。 やはり過去の再審無罪事件から明らかなとおり、せっかく再審開始決定が出されても、検察官の一律の不服申立てにより、確定まで更に長い時間を要し、結果としてえん罪被害者の迅速な救済が著しく妨げられている。そもそも再審開始決定は、再審公判の開始を決定するだけであり、有罪・無罪の実体判断は再審公判において行われるのであるから、検察官は再審公判において確定判決の正当性を主張すれば足りるはずである。ところが要綱(骨子)は、これまでどおり検察官の不服申立てを無制限に認めているのであり、えん罪被害者の早期救済の必要性という立法事実に何ら向き合っていない。
要綱(骨子)は、法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議を経て作成されているが、同部会は、本来改革される立場にある検察出身者が事務局を担い、審議を主導したものであり、中立性に疑問がある。また、審議会の研究者委員も、再審法に関する学会の意見を代表する立場の者とは言えなかった。その結果、元裁判官63人や刑事法研究者135人による共同声明、全国の報道機関による数々の論説、そしてえん罪被害者や家族によるコメント等で、その審議内容について深刻な懸念が表明されていたにもかかわらず、このような問題を抱えた要綱(骨子)が出されるに至ったのであり、えん罪被害者の救済を求める国民の意思に沿ったものであるとは到底言い難い。
再審法改正に関しては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が改正法案を取りまとめ(以下「議連法案」という。)、昨年6月に衆議院に提出した。議連法案は、上記の要綱(骨子)のような問題点を抱えておらず、えん罪被害者の迅速な救済に資するものであった。衆議院解散により一旦廃案となったが、次の国会においても、改めて同内容の法案が議員立法として提出され、審議の上、成立に至ることが望ましい。 当会としても、これまで、2023年3月7日臨時総会で「えん罪被害者の救済と適正手続の保障のため速やかな再審に関する法改正を求める決議」を採択し、2024年11月14日付け「『福井女子中学生殺人事件』再審開始決定を受け、再審法改正を求める会長声明」、2025年8月4日付け「『福井女子中学生殺人事件』再審無罪判決確定を受け、改めて臨時国会での速やかな再審法改正の実現を求める会長談話」等を発出し、えん罪被害者の救済に資するための速やかな再審法改正を求めてきた。 また、県内地方議会に議連法案の内容での再審法改正を求める意見書の採択を働きかけ、これまで34議会のうち23議会において採択されるに至っている。
よって、当会は、重大な問題点を含む要綱(骨子)に強く反対するとともに、国会及び国会議員に対し、議員立法により、速やかに議連法案と同内容の再審法改正を実現することを求める。
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