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会長声明・決議・意見書(2026年度)

デジタル取引・特定商取引法等検討会中間取りまとめに対する意見書

2026年10月29日更新

 デジタル取引・特定商取引法等検討会中間取りまとめに対する意見書

 

2026年10月28日

神奈川県弁護士会

会長 三浦 修  

 

1 意見の趣旨

(1)デジタル取引・特定商取引法等検討会が2026年9月10日に公表した中間取りまとめは、デジタル化、高齢化、地域コミュニティの希薄化など近年の環境変化や消費者トラブルの実態等を整理した上で、健全な取引により消費者が得られる利益を最大限に確保しつつ悪質な取引に対する対応を強化することを基本として制度の整備・拡充を図るものであり、基本的には賛同できる。

(2)ただし、以下の点については、今後の制度の整備・拡充にあたっては、さらなる検討が必要である。

 ア インターネット取引への対策の強化

 (ア)いわゆるダークパターンについては、法律で包括的な規定を置き、具体的な類型は規則で定めるべきである。

 (イ)事業者に対し、契約内容を記載した電子書面等を電子メール等で交付することを義務付けるべきである。電子書面は最終確認画面をPDF化したものとすべきである。

 (ウ)返金特約のうち、いかなる場合にも解約できないとするもの、合理的理由なく複雑な手続を課すものは、禁止すべきである。そして、これらの特約は民事上も無効と規定すべきである。

 (エ)解約を不当に遅延させるもの、合理的な理由なく複雑な手続を課すものを禁止すべきである。また、解約の方法には、申込みと同様の方法を含むべきことを規定するべきである。

 (オ)事業者に対して、広告及び最終確認画面の保存・提供義務を課すべきである。

 イ レスキュー商法・点検商法への対応

 (ア)契約に誘引するために事業の実態と乖離した広告をし、合理的な根拠なく、当該表示に記載された価格又は対価と著しく乖離した高額の商品の購入又は役務提供契約の締結をする行為について違法行為と位置づけ、行政処分の対象とするだけでなく、特定商取引法第6条の禁止行為とすべきである。

 (イ)レスキュー商法、点検商法において、十分な説明がなく、契約も成立していないまま工事等に着手し、消費者が断りにくい状況を作出して契約締結を迫る行為を行政処分の対象とし、特定商取引法第6条の禁止行為とすべきである。

 (ウ)事業者が返金意思又は返金能力を欠きながらクーリングオフが可能であると説明する行為は、不実告知に該当し、特定商取引法第6条の禁止行為に該当することを明確化すべきである。

 ウ マルチへの対応

   流通実態のない商品・役務等を商材とするモノなしマルチなど詐欺的な連鎖販売取引を排除するため国による登録・確認等の開業規制を導入すべきである。

 エ その他

 (ア)特定商取引法の実効性を確保し、行政処分や行為規制を遵守しないような悪質な事業者を市場から排除し、被害を防止するため、罰則規定を見直すべきである。

(イ)訪問販売・電話勧誘販売についてあらかじめ拒絶の意思を表明した場合の訪問販売・電話勧誘販売の禁止を規定し、これに違反した場合に取消権の規定を導入すべきである。

 

 

2 意見の理由

(1)意見の趣旨1について

 ア 当会は、2023年3月9日付け「特定商取引法の抜本的な法改正等を求める意見書」(以下「2023年意見書」という。)を発出し、特定商取引法(以下「特商法」という。)の改正を求めた。

イ 消費者庁において、2026年1月から同年9月にかけて、近年、インターネット上での悪質な勧誘行為や消費者の意思形成を歪めるユーザーインターフェースの拡大などによりデジタル技術を悪用した新たな消費者トラブル、高齢化や地域コミュニティの希薄化等も相まって訪問販売や連鎖販売取引等の取引分野においても、近年被害件数が増加していることなどの環境変化・消費者トラブルの実態等を整理したうえで消費者の利益を保護し、消費者が安心・安全な取引ができる環境(健全な市場)を整備する観点から、デジタル取引・特定商取引法等検討会(以下「本検討会」)が全9回開催された。

   2026年9月10日、本件検討会の開催の趣旨を踏まえ、健全な取引による消費者が得られる利便性を最大限に確保しつつ、悪質な取引に焦点を当てて対応を強化することを基本とし、消費者保護と取引適正化の均衡を確保することを基本的視点とした「デジタル取引・特定商取引法等検討会中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」という。)が公表された。

   デジタル化、高齢化、地域コミュニティの希薄化など近年の環境変化や消費者トラブルの実態等を整理した上で、健全な取引により消費者が得られる利益を最大限に確保しつつ悪質な取引に対する対応を強化することを基本として制度の整備・拡充を図るものであり、当会が求めてきた特商法について消費者保護の制度が整備される方向での議論がなされており、中間取りまとめには、基本的には賛同できる。

(2)意見の趣旨2について

   もっとも、中間とりまとめには、今後の制度の整備・拡充にあたっては、さらなる検討が必要な点がある。

 ア 「(2)ア インターネット取引への対策の強化(ア)」について

   ダークパターンは、消費者の認知のゆがみを利用して意図しない意思形成に導く手法である。日本では定期購入やサブスクリプションの契約等で多くの被害相談が寄せられている。令和8年版消費者白書によれば、令和7年の定期購入に関する消費生活相談は8万7284件と消費生活相談全体97万件のうち10%に迫る件数となっているが、ダークパターンも使用されている。例えば「お試し」等の表示で一回限りの購入であるかのような印象を与えながら、実際には定期購入であることが条件とされている場合などである。

   現行法では、現状のインターネット取引に対応できるほど明確に規定されていない部分があるほか、消費者を威迫、迷惑又は不安を覚えさせる等の攻撃的手法を用いた表示については、規制の対象とされていない。

   インターネット取引では、日々技術が進化し、ダークパターンの類型も変化するため、法律で包括的な規定を置くことはやむを得ない。

   ただし、具体的な類型は裁判で法規範性があり、迅速に改正可能な規則で定めるべきであり、ガイドラインによるべきではない。

 イ 「(2)ア インターネット取引への対策の強化(イ)」

   インターネット取引には、消費者が契約後に契約内容を確認するのが困難な場合があるため、中間とりまとめが、契約内容を記載した電子書面等を、注文完了後遅滞なく電子メール等により消費者に交付することを義務付けることには賛成である。もっとも、電子書面で交付する場合には、最終確認画面をPDF化したものにすべきである。定期購入等では、ダークパターンにより最終確認画面に消費者を誤認させる表示がされていても立証が困難であることが多く、最終確認画面をPDF化して交付すれば、この立証上の問題は軽減できるからである。

 ウ 「(2)ア インターネット取引への対策の強化(ウ)」

   いかなる場合も解約できないという特約、事業者に解約の可否の決定権がある特約、債務不履行の場合に解約の可否が不明瞭な特約は、禁止すべきである。また、行政規制だけでは消費者の被害回復につながらないため、民事上も無効とすべきである。

 エ 「(2)ア インターネット取引への対策の強化(エ)」

   中間とりまとめは「合理的な理由なく過度に複雑な解約手続き」を課す行為を違法行為の対象としているが、合理的な理由なく複雑な手続きを課すこと自体が不適切であるので、「過度に」は削除すべきである。また、相談現場では、インターネットで申込み、解約は電話のみとしている場合で電話をしても誰も出ないというような事案が発生しているため、解約の方法には申し込みと同様の方法を含むべきことを規定すべきである。

 オ 「(2)ア インターネット取引への対策の強化(オ)」

   2021年の特定商取引法改正により、最終確認画面に人を誤認させる表示がある場合の取消権が導入されたが、消費者が最終確認画面をスクリーンショット等して保存している例は少なく、立証が困難である。そのため、事業者に、最終確認画面の保存・提供義務を課すべきである。

 カ 「(2)イ レスキュー商法・点検商法への対応(ア)」

   実態に即さない安価な広告を利用して訪問要請を得て、不当に高額な取引を行わせる悪質なレスキュー商法が後を絶たない(トイレのつまり「数百円~」とのネットの広告を見て来訪依頼をしたところ、来訪した業者が見積書を示すことなく、工事をして数十万円の請求をするなど)。広告と著しく乖離した契約を締結するような悪質なレスキュー商法は、生活上の緊急事態につけ込んで、著しく高額な契約を締結するにおいて悪質性が高いので行政処分(業務改善命令、業務停止)の対象とするだけでなく、特商法第6条の禁止行為とすべきである。

 キ 「(2)イ レスキュー商法・点検商法への対応(イ)」

   悪質なレスキュー商法や点検商法において、契約前に工事等を行って消費者が契約を拒むことが難しい状況を作り契約を迫る事案が後を絶たない。このような行為は、威迫して困惑させて契約を迫る行為(特商法第6条3項)に準ずべきであり、6条所定の禁止行為とすべきである。訪問販売は、送り付け商法(特商法59条)と同様に、消費者を困惑させることにより不当な契約につながりやすいことから、原状回復が困難という要件を付加する合理的理由は見出しがたいので、原状回復を困難にする行為との限定は不要である。

 ク 「(2)イ レスキュー商法・点検商法への対応(ウ)」

   事業者が返金意思又は返金能力がないにもかかわらず、契約を締結し、クーリングオフを主張された際、返金できる財産がないなどと主張する場合があるため、返金意思又は返金能力がないにもかかわらず、クーリングオフが可能と説明する場合には、不実告知として特商法第6条の禁止行為に該当することを明確にするべきである。その際、不実告知の「告げる」行為は、必ずしも口頭での説明でなくとも、クーリングオフが可能であることを書面に記載していれば該当するとすべきである。

 ケ 「(2)ウ マルチへの対応」

   連鎖販売取引等のマルチ取引に関する消費生活相談の件数は減少傾向にあるが、投資商品、金融サービスなどの利益収受型の商材に関するマルチ取引の相談は近年顕著に増加している。2021年には暗号資産の裁定取引を行うと称して海外事業者へ出資を募るマルチ業者ら7名が無登録金融商品取引業で検挙された。この事案では全国の若者らのべ10万3000人から約654億円を集めたとされている。2024年には、東京都知事による業務禁止命令等を受けていたにもかかわらず、勧誘者らにビジネススクールの役務提供の連鎖販売取引について勧誘を行わせるなどして、会社員の男ら7名が特商法違反(禁止命令違反)で検挙された。報道によれば、この事件の被疑者らの関連法人は42都道府県の延べ2000人を勧誘し、合計約8億5000万円を集めたとされている。

   このように流通実態のない商品・役務等を商材とするいわゆる「モノなしマルチ」は、マルチ取引を行っている事業者の実態(主体・組織等)や取引の仕組みが不明確であり、連絡先等も分からないことが多く、民事訴訟で勝訴判決を得たとしても被害回復が困難な事案が多く、被害を事後的に回復することは極めて困難である。また、行政処分を受けても事業者が取引の形態を変更したり(連鎖販売で行政処分を受けたら、業務提供誘引販売取引に変更する等)、次々と名前を変えたりして活動を続けている。さらに、現行の特商法で刑事罰を受けても、上限が3年以下の拘禁刑又は罰金は300万円以下又はその併科であり、初犯であれば執行猶予付きの判決がでてしまい、事業者がそれまでに集めた多額の金員がそのまま確保できてしまう。

   そのため、現行法において、法規制を無視するような悪質事業者を排除するため、登録・確認等の開業規制を設けるべきである。

コ 「(2)エ その他(ア)」

  前述のように、上限が3年以下の拘禁刑又は罰金は300万円以下又はその併科である。そのため、悪質事業者は、特商法で有罪判決を得たとしても、ほぼ執行猶予付きの判決で罰金も300万円以下で、得た多くの利益を確保できるため、刑事罰による抑止力がない。

  組織犯罪処罰法が適用されれば、同法に基づく没収・追徴が可能となり、悪質事業者が得た利益の没収・追徴が可能となるため、特商法の実効性確保の観点から極めて重要である。組織犯罪処罰法は前提犯罪として「死刑又は無期若しくは長期4年以上の拘禁刑が定められている罪」(組織犯罪処罰法第2条第2項第1号イ)と定めている。

  そのため、組織犯罪処罰法を適用できるようにして、行政処分や行為規制を遵守しないような悪質な事業者を市場から排除し、被害を防止するため、罰則規定を見直すべきである。

サ 「(2)エ その他(イ)」

  当会は2023年意見書において、訪問販売・電話勧誘販売についてあらかじめ拒絶の意思を表明した場合の訪問販売及び電話勧誘販売の禁止を規定すること、これに違反した勧誘について取消権の規定を導入することを求めていた。

  中間取りまとめでは、法規制をする方向ではまとまらなかった。

  しかしながら、悪質な点検商法の横行しており、令和8年版消費者白書において訪問販売・電話勧誘販売は高齢者に割合が高く、特に認知症等の高齢者は、訪問販売や電話勧誘販売の消費生活相談の割合が高く、事業者に勧められるままに契約したり、買い物を重ねたりする場合があるとされている。これらの悪質商法被害の防止、消費者保護のためにはあらかじめ拒絶の意思を表明している消費者への訪問販売・電話勧誘販売を禁止すべきである。

以 上

 
 
 
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