横浜弁護士会新聞

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2002年3月号(3)

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新シリーズ えいちゃんは考える
 財務室に対してなされた諮問「横浜弁護士会財政の健全なあり方」に関する答申書が平成一四年一月二九日付で財務室より提出されました。この答申書の内容は当会の財務上の問題点、職員費の増大に対する分析、法律相談センターをはじめとする関係法人との関係での分析、会館の修繕及び建て替え、委員会活動費支出上の問題点、支部との関係、法科大学院・網紀懲戒手続の改正など司法改革にともなう費用の増大、会費値上げについて、あるべき会計システムまで多岐にわたる範囲におよんでおり、資料を含めると六〇ページ以上にのぼっています。
 そのいくつかの要点をご説明します。
(1)長期的視点で財政の安定化が必要
 現在の純然たる当会会費によってまかなわれるべき費用は委員会費、事業費、扶助協会に対する援助費、会館維持費、物件費ですが支出は平成四年度以降確実に増大しつづけ、会費でこれらの費用をまかなうことができない状態になっています。現在の会計システムでは、繰越金を予算の中に組み入れ、やっと予算を組むことができる状況であり、非常に不健全な状況となっております。支出の中で職員費が著しく増大しており、この点に対する対応もさることながら、法律相談センター、扶助協会等の職員費を区別し、明確にすることが必要であるとされています。また、長期的視点に立った財政の安定化のためには、計画的な財源の配分をするとともに、積立金制度の充実等を検討しなければなりません。
(2)会員増加で会館建て替えなら膨大な費用が
 会館関係では、将来、会員の増加や補修の必要性からするならば、どこかの時点で会館を建て替えなければならないものと判断されており、現在程度の建物を建て替えた場合には、その建築コストは約六億円と試算され、移築した上、増床した建物を建築する場合には約一八億円の金額がかかると試算されております。
(3)予算と執行の一致が必要
 弁護士会は公益法人であるため、厳格に事業計画がたてられ、その計画に基づき予算が承認され、これが執行されなければならないことが、公益法人会計で要請されております。現在のように、委員会が多大な予算請求をしているため予算請求が全く現実の執行と一致しない場合や、全く事業計画にない予算の執行ということは本来、公益法人会計では承認されえないものです。突然にすべてを変更することはできないかもしれませんが、徐々に予算と執行を一致させる工夫が必要ではなかろうか、と提言されております。
(4)司法改革関連の支出も大
 司法改革関連では、当会は法科大学院設立にむけて努力していますが、理事者の試算によっても一千万円程度の年間支出額が予想されると記載されています。支部との関係では、当会全体で会計を処理する必要があり、支部にも応分のご負担をいただかなければならないものとされています。
(5)会員の支払う会費への影響
 このような活動をしていった場合には、会費の値上げの議論となりますが、すべての財源を会費値上げに依存することは、公平の観点から問題があるとされ、他の収入増大の道をさぐり、複合的な財源確保の道を模索しなければならないとされています。
 この中の一つの意見として、公益活動に従事した会員は一定額の会費減額がなされるというポイント制度の検討などもなされています。
 当会では、これから平成一四年度が始まり、今後の会財政のあり方を含めた形で予算の検討がなされますので、会員のみなさまにはご協力をお願いします。
(須須木 永一会長)

司法試験合格者事前研修 八七名が参加
 平成一三年度司法試験合格者(第五六期司法修習予定)を対象とした事前研修の一部が、二月四日及び一三日の両日、日弁連と関弁連の共催を得て当会会場で開催された。事前研修の目的は、修習期間が短縮されるなか、司法試験合格者に、本格的修習を受けるのに必要な問題意識を喚起してもらい、また、社会及び法曹の実相に触れて当事者・市民の目線でものを見ることの重要性を学んでもらうことにある。神奈川県出身または居住の希望者に参加を呼びかけたところ、当日、合計八七名(四日四三名、一三日四四名)にのぼる多数の参加者を得た。
 参加者を両日に振り分け、同内容の研修を二度実施した。事前説明会と刑事法廷傍聴、それを受けての解説会兼昼食会、元司法研修所教官川島清嘉会員による司法修習ガイダンス及び会員弁護士らとの懇談会と盛り沢山である。刑事法廷を傍聴して後、事件の立会検事や弁護人あるいは通訳人らと質疑応答を交わしながら横浜名物シュウマイ弁当の味を楽しんだ。
 須須木会長の挨拶の後、川島会員のガイダンスは始まった。ほとんど着席することなく場内を歩きながらの熱弁で、参加者のみならず司会を務める筆者も大変勉強になった。同会員は、「クールな頭脳と暖かいハートを備えた実務法曹になって欲しい」と締めくくった。
 それに続く懇談会では、参加者を一〇名程度の小グループに分け、理事者や修習委員会委員あるいは若手会員などがディスカッションに参加した。参加者からは「法律事務所の業務形態は今後どのように変わりますか。」との難問も飛び出した。
 二月二五日には、関弁連常務理事である小林優公群馬弁護士会会長のご挨拶に続き、当会安達信会員による刑事事件講義及び栗山博史会員による少年事件講義を実施した。
 法曹養成のあり方は、司法改革の議論の中で最も重要な課題の一つである。弁護士・弁護士会は、積極的に法曹養成を担うべきだと実感した。
(司法改革推進委員会 法曹養成部会長 島崎友樹)

常議員会レポート第12回:平成14年2月7日
横浜拘置支所に対する人権侵害是正の勧告書を決議
横浜拘置支所の歯科治療に関する対応が人権侵害であるとの勧告が出されることに
 申立人が横浜拘置支所に在監中の平成九年七月一四日、歯痛及び歯肉炎が出現し、同月三一日、左下顎骨髄炎を伴う齲歯(虫歯の意)と診断され、申立人は保存的治療を希望したが、拘置支所は専門医による治療は可能であるが、拘置支所内では不可能であるとした。そこで、申立人は外部通院治療を希望したが、横浜拘置支所はこれを認めず、齲歯は悪化し、保存的治療は不可能となった。さらに平成一〇年一〇月二日、申立人は六本の臼歯について保存的治療が可能であることから、外部の医師による通院治療を希望したが、拘置支所は許可願いを二年間放置した、これら横浜拘置支所の対応は人権侵害に該当する、というのが申立人の主張である。
 人権擁護委員会においては申立人本人及び弁護人からの事情聴取、拘置支所に対する文書照会、申立人が治療を行った外部の歯科医からの聞き取り調査などを行い、横浜拘置支所における歯科治療については一か月に一回というのでは回数的に不十分である、保存的治療が十分なされる体制となっていないなどの事実を認定している。
 常議員会においては、拘置支所においては刑事裁判を行っていく上での身柄確保をする以外に被告人に不必要な不利益を与えるべきでない、などの意見が出され、勧告書の主文が一部訂正され、最終的に拘置支所内で被告人の歯の治療を行うにつき必要な人的物的設備を整えておくとともに、拘置支所内で十分な治療ができないときは、本人の希望により、速やかに外部通院治療を認めることという主文の勧告書が横浜拘置支所宛に執行されることになった。
懲戒委員会に対する審査請求がなされた件が報告される
 網紀委員会における調査の結果、懲戒委員会における審査が相当であるとの結論が出された事案についての報告がなされた。事案は被懲戒者(当会所属弁護士)において、実際まだ裁判所に申し立てをしていないにもかかわらず、懲戒請求者(依頼者)からの照会に対して、既に裁判所に申し立て済みであるとの虚偽の回答を行ったという事案である。
営業許可申請に対する許可の件
 会員から、株式会社の代表取締役就任の許可申請が出された事案について、何ら異論なく許可を与えた。平和と民主主義・人権問題に関する出版物の企画・制作・販売などを主たる業務とする会社とのことである。本年度常議員会に対してなされた営業許可申請に対してこれまで、異論が出されたことは一度もなく、今後もそのような傾向がよりいっそう強くなることが予想される。
(副議長  湯沢 誠)
「勧告の執行を二月一五日実施」
 常議員会で議決された横浜拘置支所の歯科治療に関する対応に対する人権侵害の救済措置としての勧告が、二月一五日執行され、翌一六日送達された。執行は、当会会長名にて横浜拘置支所宛に、「勧告書」と「協議申入書」を同封した封書にて郵送する方法で行われた。
−当会人権擁護委員会石黒仁委員長の談−
 「制限された施設の中でのこととはいえ、人間としての基本的な人権は守らなければならない。その意味からしても、今回の勧告は意義深いものがある。横浜拘置支所は、是非、当会からの協議申し入れにも応じていただきたい。」
−勧告主文−
「拘置支所内で被告人に対し必要な歯の治療を行うにつき十分な人的物的設備を整えておくとともに、拘置支所内で十分な治療ができないときは、本人の希望により、速やかに外部通院治療を認めること」
常議員からズバリひとこと
 議案に毎回頭を悩まされる中で昨今感じているのは、人権が尊重された社会は市民の1人ひとりが生活の中で人権や自由を意識するようでなければ築けないということだ。確かに弁護士は基本的人権の擁護し社会正義の実現を使命とされているが、弁護士のみが人権を擁護すべしと謳われているわけではない。弁護士会だけでは自ずと人的・物的資源が限られている現実の一方で、各種の市民ネットワークが育ちつつある。弁護士会が果たすべき真の役割とは、そのネットワークの一端を担い、適切な役割分担を図ることではないだろうか。
46期 堀内  敦

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