横浜弁護士会新聞

2009年6月号  −1− 目次 

法テラス神奈川 高い伸び率 民事法律扶助の現在
法テラス神奈川副所長(民事法律扶助担当) 佐藤 昌樹
 
民事法律扶助業務の実績
 平成18年10月に法テラスが事業を開始してから2年半が経過した。この間、民事法律扶助業務は順調に実績を重ねている。川崎・小田原の支部を含む法テラス神奈川の代理援助開始決定件数は、平成18年度(4月から9月までは法律扶助協会)の2982件に対し、平成19年度は3304件、平成20年度は5026件となっている。
 相談援助も、平成19年度は6830件、平成20年度は11、175件と急増している。増加傾向は全国的なものだが(全国平均で平成20年度は前年度比約120%)、神奈川の伸び率は全国的にも高い。改めて会員の皆様のご協力にお礼申し上げたい。
 
運用基準の統一
 ただ、民事法律扶助業務については、その基本的枠組は法律扶助協会時代と変わっていない。資力基準も基本は同じである。しかし運用面での変化はある。実は扶助協会時代、各支部で独自の運用がなされ、しかもそれがローカルルールであることに無自覚なままであった。法テラスとなり、全国的に同じサービスを市民に提供すべく、こうしたローカルルールを改めることが求められ、統一した運用基準が定まっていった。
 この作業は現在も継続中であるが、例えば資力要件についての統一基準が示されたことにより、神奈川においては資力要件が広がったように思われている。資力基準は家族の人数毎に額が定められているが、その「家族」は「本人+配偶者+その被扶養者」ということとなり、資力も原則として「本人+配偶者」のものを見ることになった。つまり、親と同居していても単身者は一人家族であり、かつ一緒に住んでいるその親の資力は見ない、ということである。
 
被告事件の報酬
 着手金・報酬についても、基本的には法律扶助協会時代と変わりはない。ただ、一つ大きく変わったのは被告事件の報酬である。従前は「被援助者が受けた利益の一割」となっていたが、「受けた利益」の評価について審査委員による意見の違いが大きく、また、被援助者の負担も大きくなることがあったので、平成20年度から「相手方の請求を排除した場合の報酬金は、着手金の7割相当額とし、訴訟事件の場合は、出廷回数に金10,500円を乗じた額をこれに加算する。但し、出廷回数による加算額は、請求排除額の10%を超えないものとする」と改められた。
 この「請求排除」に関し、全部排除も一部排除も、いずれも着手金の7割相当となるのか等不明確な部分もあり、まだ運用基準も示されていないが、排除額が大きい事案では従前より報酬が低くなることは考えられる。
 
会員の声を制度設計に
 民事法律扶助は、制度移行期を経て、昨年頃からようやく問題点を抽出し対応する時期に入ったと言える。しかし、法律扶助協会にあったような運営委員会で弁護士が意見を述べるという組織はなく、また全国統一の運用という観点から地方事務所の声も本部に届きにくい面もある。
 制度の主たる担い手である弁護士の意見を聞かずして適正な制度運用はできないのは明らかである。法テラス神奈川としても、できる限り会員の声を顕在化し制度設計に取り入れられるよう努力していきたい。

実務修習でも厳しい指導を 民事弁護教官1年を経過して
会員 田上 尚志
 
《1年が経過して》
 1年目は先輩教官の敷いたレールの上をひたすら楽しく進んできたが、現行修習(旧司法試験組)と集合修習(新司法試験組)の2つのシステムが併存(カリキュラムの総数は32個)する中での民事弁護教科の運営は綱渡りといってよく、2年目になって、その厳しさを実感している。
 
《現在の研修所における民事弁護教育》
 集合修習では司法試験合格後直ちに実務修習に配属されるため、実務で要求されるレベルに対応しきれず、不安感を持ちながら研修所に来るという修習生も少なくない。
 民事弁護教官室としては、2か月という限られた期間の中で、実務法曹としての基本的な知識(保全、執行、立証、倫理など)と法律文書作成に必要な能力・スキル(法的構成力、論理的文章作成、具体的事実の摘示)を習得できるよう指導しているところだが、十分な時間が与えられているとは言えず、実務修習における指導においても、厳しい(?)ご指導をお願い申し上げる次第である(私の修習生の頃は、修習生は勉強などせず、ただ指導担当の弁護士稼業を見ていればよい、という感じだったが、現在の修習生はそれでは不安らしい)。
 
《2回試験について》
 昨今2回試験の不合格者が増加しているのではないか、とよく聞かれる。不合格者の割合はそれほど変化していないが(4〜5%)、母体となる修習生の人数が増加しているので、不合格者の人数も3桁に達している。先日は2回試験の回数制限が修習生に告知された。教官としては、ひたすら教え子の健康と無事なる卒業を祈るほかなく、2回試験発表の頃には、クラスを担当して心情的にお父さん、お母さんとなった教官は複雑な思いを味わうことになる。
 
《修習生の生活》
 民事弁護に限らず他の教科も充実したカリキュラムが用意されており、他方で2回試験の不安もあってか、修習生の生活はかなりハードなようである。ちなみに講義は朝10時から午後4時50分まで。修習生の日誌によれば、寮では午前0時を過ぎても消灯している部屋はないとか。
 他方、クラス内でのカップルも生まれたりとそれなりに修習生活を楽しんでいるようだ。昨年の私のクラスでは、席が隣同士をいいことに机の下で手を握っていたという不埒な輩もいた。
 
《最後に》
 修習生と研修所に対する愛情があれば本当に充実した仕事であると実感している。あらためてこのような機会を与えていただいた横浜弁護士会に感謝申し上げたい。

山ゆり
 旧暦6月2日の横浜開港から150年。当時の寒村は、今や日本屈指の大都市に成長し、高層ビルが立ち並ぶ
150周年記念事業マスコットキャラクターのたねまるは、横浜開港資料館の中庭にあるタマクスの木の精なのだそうだ。同資料館のホームページによると、外国人居留地と日本人市街とを分ける位置にあったタブノキが、大火や震災をくぐり抜け、現在の地で大切に育てられているという
昨年まで、横浜市立の小中学校は、6月2日は休校だった。ところが、ゆとり教育の見直し等を内容とする学習指導要領の改正等に伴い、この日も授業が行われることになった。その後、一転して、150周年の今年については、休校とされることになった。子供達にとっては嬉しいことで、異論は無いが、いつ、何を、どのように学ばせるのか、大人の発想が変わる度に、影響を受けるのは子供達である。誰のための教育なのだろう あじさい
たねまるの頭の上の2枚の小さな葉のような子供達。資料館の中庭のタマクスのように、大地に根を張り、大空に枝を広げる大樹に育ってほしい。そのころ、横浜は、どのような街、どのような港に育っているのであろうか。
(市川 統子)

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