横浜弁護士会新聞

2010年12月号  −2− 目次

実務修習のあり方について協議 刑事裁判懇談会開催
 10月22日、横浜地方裁判所大会議室において、法曹三者による刑事裁判懇談会が開催された。いわゆる刑裁懇は、三者それぞれが議題を出しあって率直な意見交換をするための場である。議題によって厳しく対立したときもあったが、今回は穏やかな会となった。
 修習期間の短縮を受けて、各庁における修習生に対する実務修習の苦労が議題の一つであった。裁判所は、ロールプレイのミニ模擬裁を実施し、判決の全文起案はせずに、議題に対するリサーチペーパーを求めるなどし、検察庁は導入修習を実施するなどの工夫がなされていた。また、裁判所も検察庁も、裁判官や検察官としての立場だけでなく、弁護人や検察官、被害者の立場など、様々な立場から考えることを求めていた。個別の指導担当弁護士に委ねられた部分が大きい弁護修習との違いが見られた。
 公判前整理手続における証拠の任意開示などが議論されたとき、検察官による任意開示がなされていても類型証拠開示をすべきであるという弁護士会からの意見が出された。
 懇談会の終了後、裁判所地下の食堂において懇親会が開かれた。日頃、法廷以外では言葉を交わすことの少ない裁判官や検察官、検事正らと親交を深め、最後は栗山副会長の挨拶と一本締めで終了した。
(会員 湯山 薫)

弁護士として何ができるか貧困問題 当会貧困問題対策本部
 横浜には、寿町というドヤ街がある。バブルの時代以降、肉体労働を中心とする求職は極端に減った。寿町には、かつての活気がなくなった。住民は高齢化し、生活保護を受け続け、あるいは路上に住み続け、寿町を終の棲家にという住民も少なからずいる。かつての貧困問題対策の中心は、このような低所得者、路上生活者の支援をどうするかであった。
 現在の貧困問題対策は、これにとどまらない。ワーキングプアと呼ばれる20代から40代の層の貧困状態は深刻である。寿町は、高齢化とともに、ドヤ街の役割を果たし終え、廃れてなくなるわけではない。貯金がない、家がない、仕事がない、頼れる家族、友人がいない20代から40代の世代の層が、新たな住民となっているからだ。
 みな働く意思はある。ただし、仕事が見つからない。探しても探しても見つからない。そのうち、犯罪に走ってしまう人もいる。飲酒、ギャンブルで現実逃避してしまう人もいる。もっと深刻なのは、うつ病等のメンタルヘルスの問題を抱えてしまい、引きこもってしまう人が多いこと。人間打ちのめされ続けると、このようになってしまうのかと考えてしまう。
 生活保護、雇用保険、セーフティネット貸付制度は、応急的な対策にすぎない。何が、貧困問題対策の終着点かは、まだまだ見えてこない。仕事が見つからないまま、自立できないまま抜け出せない彼ら彼女らを、どのように自立させていくか、当会も積極的に関与していかなければならない。
(会員 沢井 功雄)

最近の債権法改正の動きについて
会員 飯島 奈津子
 昨年11月から始まった法制審議会は、約3週間に1回という「超」ハイ・ペースで開かれ、この10月までに16回もの会議が開催された。年内に、債権法全般についてひととおりの議論を終えて中間論点整理がなされ、来年4月にはパブリックコメントの募集が行われる予定が伝えられている。
 これまでの議論は、法務省のホームページで配布資料を見ることができる。
 多量で、アップされるペースもなかなか速いが、ぜひ一度チェックしていただきたい。検討されている具体的内容が、あまりにも広範かつ重大なので、初めてご覧になる方はきっと大いに驚かされるに違いない。
 例えば債権譲渡禁止特約違反の債権譲渡を無効とはしない案だとか、債務不履行責任において「帰責性」を要件とはしない案だとか、瑕疵担保責任は債務不履行責任に一元化し、「瑕疵」という用語を撤廃して「契約不適合」とする案だとか、時効期間を契約当事者間の合意で設定できるとする案だとか、錯誤「無効」でなく「取消」とする案だとか、下請負人が直接注文者に報酬請求権を有するとする案などなど…。旧来慣れ親しんできたことがかなり変わるという印象を与える案が、次から次に議論の対象になっている。正直言って、多くの弁護士があまりよく知らないうちにこんな大事な議論が次々になされていっていいのだろうかと心配になるくらいである。
 ただ、現在のいわゆる「一読」の段階では、「法務省案」の提案があり、その是非を検討するという形はとられておらず、議論もフリーディスカッション形式で、法制審議会の案をとりまとめるという段階にはまだまだ至っていない。
 変わるということによるコストはもちろん小さいものではないので、今のままでも別に不都合はないではないか、なぜ改正が必要なのか、という声も、弁護士間に根強いことも率直にいって事実である。しかし、一つ一つの各論の議論を虚心坦懐に検討する機会をもつと、やはり今の民法の条文が決して万全のものではなく、いろいろな“無理”をして、いきあたりばったりでなんとかやっているという点があることは否定できない。ぜひこの機会に改正して、国民のために分かりやすく使いやすい民法にしていこうという試みに一理あると思える事柄も少なくない。
 弁護士会としては、改正の必要性の有無という総論で立ち止まらずに、議論の当事者として議論の各論にどんどん参加していき、この改正議論に我々実務家の視点を大いに反映させていくべきだと考えるし、今こそ正にその時期である。どんな弁護士でも、債権法には無縁ではいられない。ぜひ多くの会員に債権法改正の議論にご参加いただきたい。

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