横浜弁護士会新聞

2010年12月号  −3− 目次

私の事件ファイル(16) 愛に満ち満ちた弁護士生活
会員 遠矢 登
 私は、33期ですから既に約30年近く横浜で弁護士をしていることになりますが、これと言って華々しい事件を担当したわけではありません。
 趣味が、クルマと野球と何とか(小指方面ではありません)ということで、一見派手目に見られることもありますが、実情は酒も飲まず、遊びにも行かない地味なマイホーム亭主です。
 これまで取り扱った事件も、多くはごく普通の不動産明渡、建築紛争、倒産、遺産分割、離婚などといったところで、スペシャリストでも何でもありません。
 ただ、若い方々に参考になるかも知れないこととして、修習生のころにやった茶道と、駆け出し弁護士のころに一時やった合気道が、弁護士の仕事に大いに役立ったということをお伝えします。
 まず、古来武士のたしなみとされた茶道では、心の落ち着きを体得することができ、また所作振舞の美しさを学ぶことができたと思います。法廷などでの挨拶や依頼者・相手方との応接時に、少しは違いが出たように自負しています。
 次に、合気道ですが、この根本精神は、「相手と争わない、無駄な力を使わない、縁あって交わった人のすべてに尊敬と感謝の念を持つ、自分を殺しに来た人と友達になる」といった実に深みのある思想が含まれています。自身、弁護士業務を行うに当たって、常にこの教えを意識し、実践してきたせいか、紛争が円満に解決できた事例が多かったように思います。北風と太陽のイソップ物語のように、依頼者にも相手方にもその立場になって温かく接すると、氷が融けるように和んで、自然に解決に向かうということを実感してきました。
 茶道と合気道、若手弁護士の必修科目に加えてみてはいかがでしょうか。
 ここで、具体的な取扱事件として強く印象に残っているものを二つご紹介します。
 ひとつは、イソ弁2年目に入ってすぐに担当した個人事件ですが、アパート住まいの貧しい工員夫婦が、マンションのモデルルームを見て舞い上がり、後先考えずに売買契約をしたものの、ローンの返済が無理なので解約したいとのことで、手付放棄解除しか道がない段階で受任し、相手方のマンション会社の上役と親しく長話をするうちに、手付金を全部返してくれることになったという事案です。工員夫婦が大層喜んだのと、金額はわずかでしたが、給与と国選手当以外の初めての報酬に感激したのを覚えています。
 もう一つは、弁護士10年目のころにやった、2件の行政訴訟で、鉄骨組載置方式の立体駐車場が、建築基準法上の建築物に該当するかどうかについて、広島地裁と横浜地裁で争ったものです。
 両方とも「鉄板に穴が開いているから『屋根』には当たらない」とか、「地面に置いただけで基礎がなく、土地との定着性がないから『建築物』には当たらない」という素朴な理由の判決で、こちらの主張がほぼ認められて、大いなる勝利感を味わいました。
 ところが、後日建設省(旧)は、巧みな行政手腕を発揮して、当時隆盛を誇った依頼者会社を倒産に追い込んでしまいました。このときの教訓が、「お上には逆らってはいけない」という女々しいものだったのは残念でした。
 その後も、鳴かず飛ばずで、名前は売れないものの、愛に満ち満ちた弁護士生活を続けております。

新こちら記者クラブ 裁判員の満足度はどうなるか
 現在、横浜地裁では横浜港で男性2人の切断遺体が発見された強盗殺人事件の被告人について、強盗殺人事件の裁判員裁判が間近に控えている。
 横浜地裁で1号の裁判員裁判から、同地裁で裁判員裁判を取材する日々が続いた。特に、判決言い渡し直後の会見における裁判員・補充裁判員経験者の方々の満足度が非常に高かったことが印象に残っている。「よい経験だった」。多くの人がそう述べ、帰ってゆく。法曹3者の努力が、こうした満足につながっているのだろう。
 死刑求刑もあり得る次の横浜港2遺体遺棄事件では、どう感じるのだろうか。東京地裁の耳かき店員殺害事件同様、注目される。
 自分が裁判員であったら「死刑」と言い渡すのは苦しいと思う。一方、一般的感覚から言えば、殺人事件は皆全く痛ましい。被害者の痛み、苦しみを考えると目を覆いたくなる。遺族が「死刑を」と求めれば悩んでしまう。
 勿論「ひどい」と感じても極刑判決に直結できない。だが、ほとんどの国民は事件の相対判断のすべを持たない。裁判員らが見るのはその事件のみであり、他の事件との比較において事前知識を持つ人は少ない。評議で示されるであろう、量刑資料の役割は大きい。
 極刑審理、否認事件など今後、裁判員らの民意反映における満足度はどうなるのだろうか。直後だけでなく数か月後、1年後、反芻したときどんな感想を抱くのか。5年後、裁判員裁判の量刑はどうなっているのだろうか。目が離せない。
(産経新聞社 東京本社 編集局横浜総局 黒田 悠希)

常議員会のいま 活発な議論に圧倒される
会員  橋 慶(58期)
 本年度も早くも半年以上が経過し、常議員の任期もわずかとなった。58期の私にとって初めてとなる常議員の経験について感想を簡単に述べたいと思う。
 まず、常議員会の活発な議論そのものに圧倒された。「出席するのが仕事」と安易に考えていた私にとって、軽いカルチャーショックであった。
 また、事前配布資料や当日配布資料の量の多さにも驚かされた。理事者や発表者の方々の事前準備が相当に大変であろうということは容易に推測できるところであり、だからこそ常議員会の場を有益な議論の場としなければならないと改めて感じた。
 さらに、弁護士会を取り巻く最先端の問題にいち早く関与できるという点も、若輩者である自分自身にとってやりがいを感じる。
 これまでに印象に残った議案は、「行政書士ADRセンター神奈川の手続実施・運用に関する協定」を締結する件、司法修習生の給費制存続に関する一連の運動の件、日弁連モデル事業高齢者障害者総合支援センター「みまもり(仮称)」を当会で実施する件などである。単純な賛成・反対意見だけではなく、様々な角度から議論がなされることで新たな問題点を発見するという議論の面白さを実感しているところである。
 当会はすでに千人を超える大所帯となっており、今後は会内合意の形成も困難となっていくであろう中で、常議員会の重要性はますます大きくなっていくものと思われる。

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