横浜弁護士会新聞

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1999年8月号(2)

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地裁新所長にインタビュー
司法改革に向け弁護士会 との信頼関係強化へ
 生まれは東京ですが、秋田に疎開し、そこで育ちました。小さい頃は、技術屋になる夢を持っていましたが、理工系は授業料が高く家も貧しかったため、法学部へ進むことにしました。
 中央大学に入学後法曹への意志が固まり、昭和三六年司法試験に合格しました(一六期)。実務修習は新潟でした。新潟にとっては初めて迎える修習生ということで、どこでも歓迎され、非常に楽しい修習生活を送ることができました。
 当初の志望は、秋田での弁護士開業でしたが、開業資金もなく、思い悩んでいました。ある人に相談したところ、いつでもやめていいから三年間やったらと勧められ裁判官になりました。
 私は、天下国家を考えたり司法を考えて良くしようと裁判官になったのではありません。いつやめて弁護士になろうと、自分を鍛える他にないと思い、結果的にはずっと鍛えてきました。若い人には、世の中のためと大げさに考えなくても良いから、自分を鍛えることを強く勧めたいです。
 裁判官になってからは、仙台、新潟を経て、昭和四六年八月から四九年三月までは横浜で第二民事部に勤めました。その後は、法服を着ない職場が長く、研修所教官(二八期〜三三期)、最高裁民事局第一課長や上席調査官、新潟地裁所長、研修所の上席教官などを経て横浜に着任しました。
 現場の裁判官として最も印象に残っている事件は、主任裁判官として関与した四大公害裁判の一つである新潟水俣病裁判です。当初は、三年位で裁判官をやめようと思っていましたが、人生を変えたと言っても良い事件でした。横浜では日立製作所採用内定取消訴訟が印象に残っています。
 最近の司法制度改革ですが、国民の生活様式に関連するものですし、議論は大いに歓迎したい。しかし、ムードが先行している感じがするので、裁判所としても情報提供を惜しまず、実態を把握したうえで、制度の長短を理解してもらうよう努力したい。
 例えば、法曹一元にしても、公平・中立、迅速・適正な裁判の実現のためレベルの高い裁判官を全国的に配置できるというキャリアシステムの長所はあるわけですし、公害・薬害・知的財産権など現代型訴訟において陪・参審制はなじむのかという問題もあると思います。国民が望む裁判制度はどういうものであるのか、運用で改善できるものはないのか、いろいろと議論を重ね検討していきたい。
 司法制度改革審議会はともすれば法曹を除いた議論になりやすいので、正しい情報提供が必要であり、この点に関し弁護士会の協力も欠かせません。また、修習期間が一年半に短縮されたが、修習の質を落とさない工夫が必要です。
 昨年一月施行の新民訴法については、温度差があるものの全国的には良い方向にいっていると思います。地裁では、争点整理・集中証拠調べなど弁護士の協力がないと迅速な裁判が実現できないので、信頼関係の構築が必要です。他方、簡裁では弁護士関与率が低く裁判所主導型にならざるを得ませんが、小さな事件もきっちりやることが大変重要なことだと思います。
 現在、庁舎建替のため不便をおかけしているが、弁護士・弁護士会とは信頼関係を強め司法改革にも役割分担のもと、協調していきたい。
 いずれにしても、弁護士・弁護士会とはざっくばらんに双方で意見を言えるような雰囲気を作っていければと考えております。訴訟指揮にも裁判官の個性が出ます。裁判官は自分のやり方が一番良いと思ってやっているので、大いに率直な意見を言ってもらい、悪いものは直していく姿勢が必要と思います。
 趣味は、囲碁にマージャン、そしてゴルフもやります。(ちなみに腕前はハンデ二〇前後とのこと)
(インタビュアー、佐藤修身副会長) 
                   
21世紀の新庁舎に期待
起工式に出席して 

裁判所庁舎建替問題対策委員会前委員長 小林嗣政 

 平成一一年六月三日午前一一時から地裁・簡裁新庁舎建設敷地内で請負者代表である大成建設株式会社主催により、起工式が行われました。
 当会からは岡本会長、森田副会長と私の三名が出席しましたが、当日は発注者である建設省関東地方建設局はじめ裁判所・検察庁・横浜市・各種工事会社等関係者が約七〇名程参集し厳粛な式典となりました。
 思い出すと、私が平成四年度執行部を担当していたとき、定例の昼食会で当時の藤井所長から「庁舎は大変手狭になり、職員の毎日の執務も苦労している。新庁舎が実現するよう努力しているところです」とのお話があり、その時私は庁舎が他へ移転するようなことになったら、当会の会館もその近くへ新築しなければならなくなるのではないかと考え、これは大変なことだと心配した次第でした。
 幸いその後現在地での建替となり、平成七年一一月には庁舎建替についての報道がなされ、以来歴代執行部は裁判所に対し新庁舎の設計概要を求めると共に、併せて当会館一階ピロティ部分の使用を要望し、更に新庁舎内の構造・施設等についての意見・要望を提出してきました。
 平成八年九月設置された裁判所庁舎問題プロジェクトチームは平成九年四月に委員会となり、平成八年一一月実施した全会員に対するアンケート調査、平成九年二月の神戸地裁・京都地裁視察(神戸地裁は横浜地裁と同様に旧庁舎外壁を残した設計。京都地裁は当時庁舎建て替え工事中であった)を行い、これらを参考に二二項目の具体的要望を横浜地裁に提出しました。
 更に平成九年一一月にはニューヨーク・ワシントンの裁判所・弁護士会を訪問し、庁舎の現状と共に米国の裁判実務の一端に触れる機会を得ました。
 起工式に出席し、広々とした工事現場を目の前にすると、前述の経緯が脳裏に浮かんできます。
 地上一三階地下二階建の新庁舎は正に二一世紀初頭にこの敷地上に完成され、法化社会に生きる市民の権利の拠り所とならねばならないのです。
 当会は利用する側の立場に立ち、今後も出来る限り有益な提言をし、裁判所が市民にとって身近で親しまれる存在となるよう切望して止まないところです。

関東十県会定時懇談会
最大の問題は会内合意-司法改革を討論-
 六月二五日、ホテルサンガーデン千葉において平成一一年度関東十県会定時懇談会が開催された。当日は、あいにくの梅雨空であったが、十県会選出の宮澤建治日弁連副会長、森田武男関弁連理事長を来賓に迎え、世話人会である当会からは岡本会長他八名が参加した。
 議題は、会費会計報告や次期懇談会開催担当会の決定など定例のもので新鮮味に欠ける嫌いがあった。これに対し、懇談事項は密度が濃く眠気も吹っ飛んだ。
 まず、当会提案による「司法制度改革審議会に対応すべき会内合意の形成について」が討論された。
 提案理由の説明に続き、各会より簡単な実情報告がなされた。本部や委員会を設置し既にスタートしている会もあれば、これからという会もあり、温度差はあるものの、いずれの会も危機意識を持ち、会として積極的に対応する姿勢が窺えた。しかし、種々の意見を持った会員からなる組織体において司法改革についての認識・理解を全会員共通のものとすることができるか、問題の所在はここにあると感じられた。
 次に、法律相談センター運営をめぐる問題として、運営状況・予算・自治体主催の法律相談からの直接受任、税金関係等につき議論が交された。
 更に、綱紀・苦情に関する問題として、当会から今年四月施行の市民窓口につき設立趣旨や二カ月間の運用状況を説明した。他会からは、いわゆる提携弁護士に対する苦情につき懲戒申立がなされない場合、会立件による懲戒申立をすべきではないかとの問題提起がなされた。
 他に、他士業との交流・連携・業際問題なども懇談事項に上っていたが、時間切れのためほんのサワリで終わってしまったので残念であった。なお、定時懇談会に先立って開催された拡大理事会では、司法改革の目玉の一つである公設事務所問題につき活発な議論がなされた。
(副会長 佐藤修身) 


会員研修会報告
 五月三一日、弁護士会館五階大講堂において、平成一〇年民事判例回顧と題する会員研修会が開催された。講師は昨年に引続き新堂幸司先生が担当された。ここのところ破棄例が増加しており、なかでも「人情味のある解決」が目をひくといった指摘がなされるなど、多数の判例を参照しながらの非常に参考になる講義であった。
(小川 佳子) 
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