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会長声明・決議・意見書(2025年度)

最低賃金の大幅な引き上げ及び中小企業への十分な支援策を求める会長声明

2025年06月27日更新

当会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求める。

 

  1.  最低賃金制度は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする(最低賃金法1条)。
     消費者物価指数(総合)が3年連続で前年比3%程度上昇するなどの近年の物価上昇の中にあっては、最低賃金制度により賃金の底上げを図っていくことは特に重要である。
  2.  神奈川県の地域別最低賃金は、令和6年10月1日改正により1時間1162円となった。
     直近3回の改正では、消費者物価指数(総合)の上昇率を上回る割合で最低賃金の引き上げがなされているが、これは低所得世帯の生活の改善を意味しない。近年の物価上昇においては、令和3年を基準にすると、令和6年には食料費が17%以上値上がりするなど、低所得世帯においても支出が避けられない生活必需品が高騰しているからである。
     家計調査(二人以上の世帯)を見ても、エンゲル係数(支出に占める食費の割合)は上昇傾向にあり、低所得世帯にあっては32.5%(令和6年)と支出のほぼ3分の1を食費に充てざるを得ない状況である。すなわち、最低賃金を引き上げても、食費などの生活必需品がそれ以上に値上がりしているため、低所得世帯の生活はより厳しくなっているというのが実情なのである。
  3.  (1) 最低賃金法は地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。
     近年の物価上昇に見合った生活保護基準の引き上げがなされていない点はさておき、最低賃金で働いても生活保護基準を下回ってしまう例は少なくない。

     (2) 例えば、川崎市内で中学生の子2人を養育するひとり親世帯であれば、生活保護費は月平均約31万円となる。
     他方、1時間1162円の最低賃金額で、労働基準法の労働時間規制の上限である1か月あたり173.8時間働いた場合の賃金は月20万1966円、社会保険料や税を差し引いたいわゆる手取額は月16万4560円であり、子2人分の児童手当、児童扶養手当、就学援助を考慮しても26万円に満たない。
     (3) さらに、フルタイムで働いていても、労働基準法の労働時間規制の上限よりも労働時間が短い労働者は少なくない。
     神奈川県毎月勤労統計調査(令和5年分)によれば、県内の労働者の所定内労働時間は、フルタイムにあたる一般労働者でさえ1か月あたり148.7時間にとどまっており、最低賃金で計算すると賃金は月17万2789円、手取額は月13万8446円である。
     これに対し、川崎市で41~59歳・単身世帯の生活保護費は月平均13万3216円であり、その全部が可処分所得となる。
     最低賃金で就労した場合の方が、辛うじて5000円程度収入が多いこととなるが、もし病気や怪我で医療費を負担することとなれば、生活保護では医療扶助により医療費の自己負担がないため、この程度の差はあっという間に逆転してしまう。このような場合、生活保護制度のうち医療扶助のみを利用することもありうるが、フルタイムで働いているのに、医療費を5000円ほど支払っただけで、「健康で文化的な最低限度の生活」を下回ってしまう最低賃金の水準は低すぎるといわなければならない。
  4.  ここで忘れてはならないのは、労働者のみならず、多くの事業者、特に中小事業者もまた近年の物価上昇に苦しんでいるということである。
     上記のとおり、最低賃金制度は、事業の公正な競争の確保や国民経済の健全な発展に寄与することも目的としているのであり、最低賃金を引き上げることとあわせ、多くの事業者、特に中小事業者が適正に価格転嫁できるような仕組みの整備、賃金改善・業務改善を支援する助成・税制、いわゆる年収の壁の解消など、幅広く事業の公正な競争の確保や国民経済の健全な発展に寄与する政策を進めることは最低賃金制度の目的を達成する上でも必要不可欠である。
  5.  以上のとおり、神奈川県弁護士会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求める。

 

2025年6月26日

神奈川県弁護士会

会長 畑中 隆爾

 

 
 
本文ここまで。