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会長声明・決議・意見書(2025年度)

国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

2026年02月27日更新

憲法第34条、第37条、第31条等が保障する身体拘束・刑事手続に関する諸権利を実質的なものとするためには、被疑者・被告人に対する実効的な弁護活動が確保されなければならない。そしてその適正な運用のためには、前提として弁護活動に見合った報酬額が確保されなければならず、また弁護人が費用を負担することがないようにされなければならない。
  また、経済的に困窮する被疑者・被告人に対して適正な弁護を保障するための制度である国選弁護制度の下において、被疑者段階及び被告人段階のいずれにおいても、国選弁護人が選任されている割合は85パーセント前後となっている。


ところで、2009年に裁判員裁判が開始されたことに伴い証拠開示制度(刑訴法第316条の15以下)や公判期日の連日的開廷(集中審理)の原則化(刑訴法第281条の6)等が規定された。また、2018年には被疑者国選弁護制度が、勾留された被疑者の全てについて拡大された(刑訴法第37条の2)。このような法改正により、国選弁護活動の範囲も拡大しており、それに伴う労力もかつて想定されていたものよりもはるかに大きくなっている。


このように国選弁護人は重大な役割を担っているにもかかわらず、その弁護活動に対して支払われる報酬額は、それに見合ったものになっていない。長年にわたり低水準にとどまっており、それどころか一部区分では名目上も減額されてきた。
  例えば、被告人段階における地方裁判所第1審(判決期日を含めて公判期日2回)の標準的事件の報酬は、2000年以降8万6400円とされ、その後、2003年には8万5600円へと引き下げられた。現在に至るまで大幅な増額は行われていない。
  また被疑者段階における報酬は、2018年以降、基準接見回数を満たさない場合には減額となり、基準接見回数に達した場合でも増額はされていない。基準接見回数を超えて接見をしても接見1回あたりの報酬は低額なままである。   被告人段階、被疑者段階共に弁護報酬は低額であり、また弁護人の労力に見合った報酬ではない。


神奈川県は、横浜地方裁判所本庁に加え、川崎・相模原・横須賀・小田原の各支部及び多数の簡易裁判所を管内に有し、都市部から郊外まで広範な地域を抱えている。また県内には、横浜刑務所・横須賀刑務支所のほか、横浜・小田原・相模原の3か所に拘置支所が設置されている。県内の各警察署の留置施設が加わることで、被疑者・被告人の収容場所は県内各地に分散している。そのため、移動時間だけでも片道1~2時間を要することも珍しくない。事案によっては、期日間の継続的な接見・打合せが不可欠な場合もある。弁護人は、長距離移動と長時間の接見に相当程度の時間を割かざるを得ない。しかし、被告人段階の国選弁護人は、何回接見しても、何時間接見してもそれは全て基礎報酬に含まれるとされ、労力に応じた報酬が支払われない。現行の国選弁護人報酬では、長距離移動や度重なる接見に要する労力に見合う報酬が支払われていないのである。
  また現行の国選弁護費用については、弁護人が行う鑑定費用を始め、本来行われるべき多くの弁護活動の費用が賄われず、場合によっては国選弁護人の自己負担になりかねない状況となっている。
  当会においては、少しでも国選弁護人の負担を軽減すべく、上限はあるものの、一定の鑑定費用の援助や神奈川県社会福祉会との連携により障害を有する被疑者・被告人のための援助制度を設けている。
  しかしその制度の下でも一定額以上の費用は国選弁護人の自己負担になっており、また援助対象ではない費用については全額自己負担となっている。
  そもそもそれらの費用は本来弁護活動に必要な費用として全額国費により賄われるべきものであるといえるにもかかわらず、国選弁護人の自己負担となること自体弁護活動の相当な制約となるといえる。


近年の年間国家予算が100兆円規模に達する中にあって、国選弁護業務のための国の支出割合は0.0147パーセントとごくわずかな割合にとどまっている。防衛費等他分野の予算が大幅に拡充される一方、刑事司法を支える国選弁護関連経費の比重は、長期的に見て相対的な低下傾向にある。このようなデータ上からも人権保障の経済的基盤の拡充が、著しく立ち遅れていることは明らかである。

国選弁護制度は、刑事司法における人権保障を支える基盤的な制度であり、その維持・充実は、被疑者・被告人のみならず、社会全体の安全と公正のために不可欠である。
  そこで当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省、最高裁判所等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善のため、次の各措置を強く求める。


一 国選弁護人事件の基礎報酬について、例えば現在の水準の倍程度を目安とするなど、実情に見合った大幅な増額を行うこと
   二 国選弁護事件の費用(交通費、記録謄写費用、通訳費用、鑑定費用、福祉専門職に依頼する費用、専門家証人を依頼することに係る費用その他の必要な実費)を、原則として全額公費で支給する仕組みを法制化すること
   三 上記実現のために国選弁護関連経費を含む司法予算全体を大幅に拡充し、刑事弁護活動の質と量を支える経済的基盤を確立すること。特に、物価上昇や事件の複雑化に応じて、定期的かつ機動的に報酬・費用水準を見直す運用を行うこと


2026年2月26日

神奈川県弁護士会

会長 畑中 隆爾

 
 
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