ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2026年度)

障害のある方々への支援の決意を新たにする会長談話~「津久井やまゆり園」における事件から10年の経過を受けて~

2026年08月07日更新

はじめに

2016年(平成28年)7月26日、障害者福祉施設「津久井やまゆり園」において、19名の方が殺害され、26名の方が傷害を負わされるという凄惨な事件が発生してから10年が経過しました。当会は、犠牲となられた方々に深い哀悼の意を表するとともに、今なお心身の傷に苦しむ被害者とご家族の皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

この節目にあたり、私たちは、事件の根底にある本質的な問題に再び正面から向き合わねばなりません。本事件を「特異な犯人の凶行」と位置づけることは許されません。犯行を後押しした、障害のある人を排除する「優生思想」や「障害者差別」は、現在の日本社会においても依然として存在し続けているからです。私たちはこの排除の思想に常に自覚的であり、その根絶に向けて不断の努力を続けなければなりません。


優生思想根絶に向けた当会の歩み

本事件の背景にある優生思想は、戦後の旧優生保護法に基づき、障害を理由とする強制不妊手術などの深刻な人権侵害を長年放置してきた歴史とつながります。

当会は、被害者の尊厳と人権の回復を求め、2019年6月13日、2022年3月24日の2回にわたり会長声明を発表してきましたが、こうした中、2024年7月3日、この旧優生保護法につき、最高裁判所大法廷は、同法の規定を違憲とし、国の賠償責任を認める画期的な判決を下しました。国家による優生思想に基づいた人権侵害を厳しく断罪したこの判決を、当会は極めて重く受け止め、最高裁判決直後の2024年7月11日の会長声明において、国の責任を全面的に認めたことを評価するとともに、すべての被害者に対する全面的な被害回復を強く求めています。

さらに、被害者救済のための「優生保護法被害相談110番」の開催や補償金支給のサポート弁護士への協力など実務的な救済活動に注力するとともに、「改正障害者差別解消法」に関する研修会を開催して会員の専門性向上に取り組んでまいりました。


権利擁護と差別根絶に向けた具体的提言

当会は、津久井やまゆり園における事件から10年の経過を受けて、事件後の障害者の権利擁護を取り巻く状況の変化を踏まえ、国および地方自治体に対し、以下の具体的かつ実効性のある法整備および政策の推進を求めます。


1.施設における身体拘束や虐待の根絶に向けた実効的体制強化

事件後の検証過程では、神奈川県内の県立障害者支援施設である「中井やまゆり園」や「愛名やまゆり園」等において不適切な身体拘束や虐待が発覚しました。こうした不適切支援が認定されている例は珍しいことではなく、密室化しやすい施設という構造に起因する深刻な課題です。すべての人は障害の有無にかかわらず尊厳が尊重され、自己決定に基づき幸福を追求する権利を有します。この大原則に基づき、実効性ある指導・監視体制の強化を求めます。

現在、障害者総合支援法に基づく指定基準省令による「虐待防止委員会」の設置義務化や、横浜市等における管理者の研修義務化が進められていますが、これらを形式化させず実質化させる必要があります。国および自治体に対し、第三者の立ち入りによる外部監査機能の強化や、権利擁護に関する法制度のより強固な拡充を求めます。


2.多様な選択肢を伴う地域移行と意思決定支援の法的制度化

津久井やまゆり園の建て替えや地域移行において、利用者のみなさんは、それぞれの意思に応じて、「新園舎やグループホームへの入居」という新たな生活の場を得ることができました。この結果は、「重度障害者は地域移行の意思表明が困難だから、地域移行自体が難しい」という考え方もある中、丁寧な意思決定支援の取り組みを通じて達成されたものとして高く評価できます。ただ、今回のような「施設」か「グループホーム」という限定的な選択肢を定型化させるべきではありません。地域移行における選択肢は二者択一にとどまらず、自宅、一人暮らし、多様なシェア居住など、当事者が真に望む多様なあり方が実現されて初めて「自己決定」と言えるからです。

現在、改正障害者差別解消法の施行、精神保健福祉法の改定、社会福祉法改正、神奈川県における「ともに生きる社会かながわ憲章」の策定など、自己決定支援制度の枠組みは進んでいます。このような「法的な制度・政策」をさらに充実させ、障害のある方々の多様な選択肢に基づく社会参加と地域移行を強力に後押しするために、「意思決定支援」を現場の努力だけに委ねるのではなく、予算と専門的人材の裏付けを整備するよう強く求めます。


3.強制入院(措置入院等)制度の抜本的改革と人権保障

事件後、国は措置入院の運用適正化のため、2018年に「措置入院の運用に関するガイドライン」等を策定しました。しかし、措置入院をはじめとする強制入院制度は、本質的に身体の自由を著しく制限する重大な人権侵害であり、その存在自体が偏見を助長する側面を否定できません。私たちは、措置入院の「運用の徹底」という現状追認の議論にとどまるべきではありません。強制入院制度の将来的な全面的廃止を見据え、常に対象者の人権尊重と自己決定を最優先とした抜本的な法制度・政策の実現を求めます。

当会では「強制入院制度と精神障害者の権利擁護」に関する研修会を開催して会員の専門性向上を図るとともに、「精神保健出張弁護士相談」(旧・精神保健当番弁護士制度)を創設して、強制入院中の患者の人権保障に関する取り組みを進めておりますが、それらにとどまることなく常に対象者の人権尊重と自己決定を最優先とする法制度・政策の実現を目指した抜本的な見直しを求めます。


結び

私たち弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としています。当会は、あの悲劇的な事件を決して忘れることなく、今後も優生思想、障害者差別、虐待の根絶を目指し、障害のある方々の自己決定と社会参加を手助けできる専門家集団として、自らの足元を見つめ直し、市民、行政、福祉関係者の皆様と手を携え、途切れることのない取り組みを全力で続けていく所存です。


2026年(令和8年)8月7日

神奈川県弁護士会

会長 三浦  修

 
 
本文ここまで。