2026年08月28日更新
国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)は、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪)について、個人の刑事責任を追及するために、「国際刑事裁判所に関するローマ規程」に基づいて設立された常設の国際司法機関である。
ICCは、2002年7月の設立以来、「法の支配」の理念のもと、客観的な証拠と厳格な法規に則った公正な司法手続を行うことで、国際社会全体の平和と安全、そして、人間の尊厳を守るという極めて重要な役割を果たしてきた。このICCがその職責を公正かつ中立に果たすためには、いかなる国家や政治権力からの干渉も排した「司法の独立」及び「法の支配」の堅持が不可欠である。
しかるに、今般、米国政府は、2026年8月18日、「ICCの管轄権に同意していない政府の当局者を訴追する」という取り組みに関与したとして、国際刑事裁判所の所長を務める赤根智子裁判官(以下「赤根所長」という。)をはじめとする裁判所関係者を、大統領令(2025年2月6日署名)に基づく制裁の対象に指定し、資産凍結や入国禁止を含む制裁措置を科した。
上記大統領令に基づく一連の制裁措置は、ICCがアフガニスタン駐留米軍関係者の捜査を行ったことや、ガザ地区での戦争犯罪容疑でICCがネタニヤフ首相を含むイスラエル高官に対して逮捕状を発行したことへの報復としてなされたものであり、ICCが進めた司法手続および判断が自国や同盟国の政治的思惑に反することを理由に、ICCの職務を遂行する個人を標的として、圧力を加えるものである。
報道によると、今般の赤根所長らについての制裁対象への指定に際し、米国のルビオ国務長官は、ICCを「あらゆる手段を駆使して解体する」と発言するなど、米国政府はICCへの圧力を一段と強める姿勢を鮮明にしている。
国家間の見解の相違を超えて機能すべきICCの関係者個人への制裁発動は、国際司法機関に対する実力行使、すなわち、「力による支配」にほかならず、ICCの「司法の独立」を侵害し、国際社会における「法の支配」そのものを否定する行為であって、決して許されるものではない。
日本はICCの主要な加盟国として、赤根所長を含む裁判官及び職員を輩出するだけでなく、最大の財政貢献国として、ICCの活動を一貫して支援してきた。日本政府としては、従来の主張どおり、「法の支配」を強調し、ICC及び赤根所長を支持する立場を明確にして、「国際的な『法の支配』の終焉の始まり」を防ぐ具体的な行動を直ちにとるべきである。
よって、当会は、この米国政府によるICCの関係者個人を直接の標的とする一連の制裁措置に対し強く抗議するとともに、日本政府に対し、①ICC加盟国として、ICCの独立した司法判断を支持しこれを尊重する旨を対外的に宣言すること、②米国政府が赤根所長らに対して科した一連の制裁措置に対し、明確な抗議の意思を表明するとともに、法の支配を支持する他の加盟国と緊密に連携し、当該制裁の即時撤回を促すための実効的かつ積極的な外交努力を行うこと、③ICCが政治的圧力に屈することなく、その独立した職務を遂行できるよう、今後も積極的に人的及び財政的支援を実施すること、の3点を強く求める。
2026年8月27日
神奈川県弁護士会
会長 三浦 修
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