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会長声明・決議・意見書(2026年度)

刑事訴訟法の一部を改正する法律の成立にあたっての会長声明

2026年07月24日更新

本年7月17日、刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます。)が参議院本会議において可決され、成立しました。

 

1948年(昭和23年)の刑事訴訟法制定以来、78年間一度も改められなかった刑事再審手続において、冤罪被害者とそのご家族、支援団体、市民の方々をはじめ、国会議員、地方議会議員、地方自治体の首長の方々にまでに広がる大勢の皆様の長年のご努力の結果、ついに国会を動かし、刑事再審法の改正という一歩にまで漕ぎ着けたこと自体は、皆様の熱意と闘いの賜物です。しかしながら、成立した本改正法の具体的な中身は、冤罪被害者の迅速かつ確実な救済を求める私たちの切実な願いとは大きくかけ離れており、強い懸念と失望を禁じ得ません。

 

当会は、本年2月13日付けの「法制審議会の再審手続に関する刑事訴訟法の改正要綱(骨子)に強く反対し、議員立法による改正の実現を求める会長談話」(以下「2月談話」といいます。)において、法制審議会の提示した改正方針に対して強く反対の意思を表明しました。成立した本改正法においては、①刑事再審請求事件の審理の進め方に一定の規律を設けた点、②再審請求の対象となる確定判決に関与した裁判官を再審請求の審理から除斥した点など、一部の形式的な手続規定は整備されています。しかしながら、2月談話で当会が指摘した本質的な懸念は何ら解消されていないばかりか、導入された制度の一部は実質的に現行の裁判実務よりも後退し、以下のような冤罪救済をさらに困難にしかねない重大な逆行要素を内包しています。

 

第1に、新設された「証拠提出命令」は、証拠を裁判所に提出させるにとどまり、請求人や弁護人に「直接開示」する仕組みになっておらず、その結果、無罪につながる可能性のある証拠の提出命令が発せられないおそれがある点です。

 

本改正法のもとでは、裁判所が不要と判断した証拠には弁護側がアクセスすることすらできません。これは、現行の実務においては裁判所の判断で実現することもあった柔軟な証拠開示の範囲をかえって狭め、証拠開示の範囲を著しく後退させる危険をはらんでいます。また、弁護側が広く証拠にアクセスできず、弁護側が証拠の分析・検討を踏まえた主張ができないことにより、裁判所は証拠の関連性や必要性を的確に判断することができず、無罪につながる可能性のある証拠の提出命令が発せられないおそれがあります。このような事態は、冤罪救済に不可欠な証拠を闇に葬り去ることになりかねません。

 

第2に、検察官が手持ちのすべての証拠を隠すことなく開示する大前提となる「証拠一覧表」の請求人・弁護人への開示規定が欠落している点です。

 

本改正法は「標目の一覧表」の提示を定めていますが、これはあくまで裁判所向けの閲覧用にすぎず、請求人や弁護人による閲覧・謄写は認められていません。弁護側が「証拠一覧表」によって証拠の全体像をつかめなければ、「何を請求すべきか」を判断することすらできず、無罪を証明する証拠にたどり着くことは極めて困難になります。弁護側のアクセスを遮断した「一覧表」の提示は、冤罪被害者の救済を阻害するものと言わざるを得ません。

 

第3に、検察官から提出された証拠の複製を、再審請求やその準備以外の目的で使用すること(社会的検証のための公表等)を一律に禁止し、刑事罰を科す罰則を新設した点です。

 

証拠の目的外使用を禁止する理由として、関係者の名誉やプライバシー保護が挙げられますが、それらは個別具体的に考慮されるべきであり、何らの比較衡量もなく、一律に刑事罰をもって証拠の使用を禁止することは、正当な弁護活動を著しく萎縮させます。弁護人が証拠を支援者や報道機関と共有して広く社会的検証を行う活動を封殺することは、冤罪被害者に対する救済の道を狭める極めて過度かつ不当な制約であり、強く抗議します。

 

第4に、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての原則禁止を掲げながら、「当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合」には不服申立てが可能という曖昧かつ広範な例外を残した点です。

 

当会は一貫して、再審開始決定に対す<る検察官の不服申立てを「完全かつ無条件に禁止」することを求めてきました。例外の名のもとに不服申立ての道が残されるのであれば、検察官による抗告権の濫用は防げず、冤罪被害者がさらなる長期にわたって苦痛を強いられ、救済が著しく遅延し、阻害される実態は何も変わりません。本改正法は、再審開始決定に対する検察官による不服申立てを実質的に温存したに等しく、到底納得できるものではありません。

 

国会における本改正法の審議過程において、その附則や附帯決議には、検察官による十分な証拠開示、目的外使用禁止の運用における弁護活動や国民の知る権利への配慮、不服申立ての謙抑的運用などが盛り込まれました。しかしながら、これらの附則や附帯決議は運用の指針を示したり、政府に立法府の考えを事実上伝えたりするものにすぎず、政府あるいは法務・検察がこれを真に尊重する態度を示さなければ、画餅に帰すおそれがあります。国会や市民による不断の監視が必要です。

 

当会は、以下の各項目の法改正の早期実現を強く求めます。

 

  1. 請求人・弁護人に必要な証拠が「直接開示」されるよう、裁判所が検察官に対して開示を命じる権限を法律上明記すること。
  2. 裁判所が検察官に対し、請求人・弁護人への全面的な「証拠一覧表」の交付(開示)を命じることができる規定を創設すること。
  3. 証拠の目的外使用についての一律禁止規定・一律の刑事罰を直ちに撤廃し、証拠ごとの合理的な個別制限(使用目的、範囲、マスキング等の条件設定)にとどめる規定とすること。
  4. 再審開始決定に対する検察官の不服申立てを「完全かつ無条件に禁止」することを法律上明記すること。

 

当会は、本改正法が再審実務の形骸化・後退をもたらさないよう、附則や附帯決議の趣旨に則った適切な運用がなされるかを厳しく監視・検証するとともに、5年後の見直し規定も視野に置き、冤罪被害者の迅速かつ真の救済を果たすため、国会や関係機関への働きかけを強め、市民や諸団体、日本弁護士連合会および全国の弁護士会全体と協調しながら、真に機能する刑事再審手続を実現するために、刑事訴訟法の抜本的改正(再改正)に向けて全力を尽くします。

 

2026年7月23日

神奈川県弁護士会

会長 三浦  修

 
 
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