横浜弁護士会新聞

2006年10月号  −3− 目次

私の事件ファイル(2)「徒然なる回想」
 会員 鈴木 繁次
 法曹(最初の4年は裁判官)になって既に40年余り経過し、趣味が仕事といってもよいほど仕事に没頭してきた。本稿は乞われるままにその間経験し、忘れないでいる1、2の件を思い返してみた。
 1つ目は、昭和52年10月「横浜弁護士会論集 創刊号」を発刊したことである。同論集は3号まで続きその後は中断しているが、私個人としては是非復活して欲しいと願っている。中断の原因は印刷費用の捻出がままならなかったことで、弁護士会の受付のところに奉賀帳を置いていて会員の寄付に頼っていた。当時で一回の発刊に50万円を要した。今ではパソコンを利用して自前での刊行も不可能ではないであろう。
 この弁護士会論集に、私が10年位争った土地境界訴訟中に学んだ「公図」に関する問題点を「公図に関する若干の考察」と題した論文を掲載した。それは、明治の地租改正時代まで遡り、公図の作成過程、公図の信用性等の問題点をまとめたものである。
 今は、公図に関する論文も豊富になったが、当時はほとんどなかった。そこで右論文が水戸弁護士会の某弁護士の目に留まり、当時同弁護士の扱っていた境界訴訟に非常に役立ったようで、十県会の会合の席上、何回となくこの話をして下さって、私も気分よくしていた。
 この頃からしばらくは私の働き盛りで、仕事、委員会活動も熱心にやった。弁護士はいろいろな事件を扱って、文献・資料が少ない事件は、足で稼いだ調査結果等貴重な資料が埋もれているのではないかと思われる。
 法律雑誌に掲載するのもよいが、弁護士会論集を復活させて全国にその存在感をアピールするのも互いに刺激しあうことになり、相乗効果が期待されるのではあるまいか。また、弁護士人事の参考にもなる。
 2つ目は、昭和60年に初めて会社更生事件の保全管理人を引受けたときの感激が忘れられない。
 事件は神奈川県下随一の酒類販売問屋の倒産、大変な旧家で、個人資産が多く、会社の負債は250億円位であったと記憶している。2回手形不渡事故後の手遅れの会社更生申立で、再建させるには1日も早く「更生手続開始決定」を得ないと破産になってしまう。
 保全管理人就任は12月26日で、正月を返上して、従業員からのアンケート、代表者や経理担当者等から事情聴取をして、倒産の原因と再建の可能性についての意見書を作り、任意の債権者集会を開催し、今後債権者にどの程度協力いただけるかの雰囲気を裁判官に見てもらうなど、保全管理人就任後約20日間で保全管理人の意見書をまとめた。
 その間に債権者は徐々に問屋を他に代えて倒産会社には冷たくなり、結果は破産に移行した。しかし、それまで一生懸命再建に努力した保全管理人の仕事振りは従業員にも伝わり従業員には感謝され、至誠天に通じることを実感、その後の私の弁護士業務の基礎となっている。

理事者室だより6
副会長になると友達をなくす
副会長 延命 政之
 「副会長になると、友達をなくすから気をつけて」と、以前先輩の弁護士から言われたことがあります。その時は、何のこと?と考えていたのですが、やっとその言葉の意味が分かるようになりました。桜の咲くころから5月の通常総会までの間、私は会員に電話をかけ続けていました。1日に20人位の会員に電話をかけ続けました。もうへとへと。この電話が友達をなくす原因でした。
 私は、綱紀委員会、懲戒委員会、資格審査会をはじめとする重要委員会を担当しています。これらの三委員会について、改選される委員・予備委員への就任をお願いするための電話でした。委員は合計37名、予備委員を加えると約50名を選任する必要があります。当初は、「弁護士自治」の根幹に関わるこれらの委員会の委員であれば、皆さん喜んで引き受けてくれるものと甘い考えで事に臨んだのですが、蓋を開けてみると大誤算。打率は1割台から2割台の前半といったところでした。「今忙しくてね」「大変そうだから…」。その度に「そこを何とか…」「そんなに大変でもないですよ」と揉み手。ベイスターズではないですが、連敗が続くと戦意を喪失しますね。
 お引き受けいただいた皆様、ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。これからも「友達」でいてください。

こちら記者クラブ「社会を映す鏡」を見つめて
 「○○は社会を映す鏡」とよく言われる。「○○」に当てはまる言葉は、「事件」だったり「非行」だったり様々だが、「法律」や「裁判」も鏡の一つだろう。時代の流れを反映してか、刑事でも民事でも行政、企業の「不作為」や「作為」が厳しく問われる事例が増えていると感じる。
 横浜市戸塚区の市道で、トラック荷台のショベルカーがトンネル入り口の高さ制限棒に接触して落下し、歩行者が死亡した事故では、防止策を怠ったとして業務上過失致死罪に問われた横浜市の土木事務所職員が、横浜地裁から有罪判決を受けた。また、横浜市立保育園の民営化を巡る行政訴訟では、横浜地裁は「市の裁量権行使に逸脱があり違法」と判断。“拙速な”民営化を批判した。
 行政の不備を司法が指摘する典型的な事例に、改めて司法の役割の大きさを実感した。市職員と市は、それぞれ控訴しているため最終結論は出ていないが、「有罪か無罪か。勝訴か敗訴か」という結果以上に、社会への問題提起になったと思う。
 記者になる前は、どうしても裁判の「勝ち負け」という分かりやすい結果に目が行きがちだったが、実際に取材してみると、勝ち負けを超えた「奥行き」に面白さがあることが分かってきた。裁判の結果を正確に伝えることはもちろん、その結果がどんな意味を持つのかまで踏み込んで伝えられる記者になりたいと思う。法廷が映し出す「社会の鏡」をしっかり見つめていきたい。
(読売新聞 森 広彰)

即決裁判手続始まる 刑事裁判に新しい制度
 10月から、即決裁判手続という簡易・迅速な裁判手続が始まる。即決裁判の対象となるのは、法定刑が「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固にあたる事件」でなく、かつ、争いのない軽微・明白な事件である。具体的には、出入国管理及び難民認定法違反、覚せい剤取締法違反などが想定される。財産犯、暴行、傷害なども被害回復状況によっては対象となりうる。
 即決裁判の申立は、検察官が被疑者の同意を確認したうえで起訴と同時に行う。原則として、一勾留期間の10日間で起訴・申立がなされ、起訴から14日間以内に公判が開かれ、懲役・禁固刑の判決に対しては必ず執行猶予が言い渡される。
 このように被告人に有利な点がある反面、即決裁判手続により判決を受けると、事実誤認に対する上訴が禁じられるという不利もある。
 即決裁判は、必要的弁護事件である。即決裁判の弁護活動は、示談、弁償、保釈請求、情状証人など、通常の裁判と変わりはない。但し、特有な活動として、被疑者段階で弁護人が選任されている場合は、即決裁判によることについて弁護人が同意又は留保することが即決裁判申立の要件となる。
 また、この意見を留保した場合や起訴後に選任された弁護人の場合は、即決裁判によることの同意を求められる。この同意は判決言渡までいつでも撤回可能である。撤回した場合は通常の裁判手続によって行われることになる。
 また、裁判所の判断で即決裁判判決をせずに通常裁判とする途も残されている。
 伝聞法則の適用が除外されるなど証拠調べは簡略化される。
 即決裁判手続に関する条文は刑事訴訟法第350条の2から14、規則の第222条の11以下である。読者がこの新聞を読むころには既に始まっているので、一度条文を確認していただきたい。
(会員 安田英二郎)


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