横浜弁護士会新聞

2007年2月号  −3− 目次

私の事件ファイル(6)住民訴訟にハマって30年
会員 大川 隆司
 私が当会に登録換となったのは昭和59年で、36期の先生方と同じ頃だが、実は20期で、第二東京弁護士会に16年間所属していた前歴がある。
 登録して最初に勤めたところは、家永三郎教授の教科書検定違憲訴訟を中心的に担う事務所で、初任給は月額4万円だった(ちなみに修習生の給料は2万6000円)。私の師匠に当たる8期の某先生のお嬢さんが、小学校で「私のお父さん」と題する作文に、「お父さんはべんごしです。だから、うちはびんぼうです」と書いた、というエピソードが事務所会議で披露され、大笑いした。
 私が主任として担当した最初の行政事件は、国鉄(現JR)の駅舎建設工事費用を地方自治体である品川区が寄付しようとする行為を差止める訴訟だった。
 国鉄は、既存路線上の新駅をつくる費用を自ら負担しないことを原則としており、この原則はJRとなった今日でも変わっていない。新駅は地元の請願に基づき、地元負担で建設されるべきものとされ、「請願駅」という言葉が今でも使われている。
 一方、昭和55年当時の地方財政再建促進特別措置法によれば、地方自治体が国鉄に寄付することは禁止されていた。
 そこで区当局は、寄付の受け皿として「新駅期成会」なる団体を設置し、ここを経由して駅舎建設費用の全額に相当する16億円を国鉄に届けようとしたのであった。
 法律上の争点は、第三者を経由すれば寄付禁止規定の適用を免れるのか、という単純なもので、法廷は弁論2回で結審となった。
 東京地裁(泉徳治裁判長)は、昭和55年6月10日の判決で、第三者経由は脱法行為であるとして、16億円全額の寄付を差止めた。この判決はその日の朝日新聞夕刊の1面トップで報じられた。私が住民訴訟にハマってしまったきっかけは、この事件だった。
 結局品川区は、公金の支出は取りやめたが、駅舎予定地付近の公有地を民間デベロッパーに払下げ、その民間会社が、マンション建設に伴う開発利益の一部を国鉄に寄付するという手法により、駅舎は建設された。
 横須賀線を利用する方なら御承知の、現在の「西大井」駅である。
 訴訟の目的は、「駅舎建設阻止」にあったわけではないので、それはそれでよいのだが、行政というものは、二枚腰、三枚腰の持ち主だということを実感した。
 「国鉄西大井駅事件」は古い話だが、これを思い出させる判決が平成18年9月25日大津地裁(稲葉重子裁判長)であった。
 滋賀県栗東市内に、東海道新幹線の「栗東新駅」を設置する費用にあてるための地方債の借入れが、地方財政法所定の目的を逸脱するものとして、これを禁止した判決である。駅舎建設費用240億円全額を滋賀県および栗東市と周辺市が負担するという計画にブレーキがかけられた。滋賀弁護士会所属の先生が担当された事件だが、4半世紀前との「水脈」のつながりを感じた。
 住民訴訟の存在意義は、納税者の本質的利益の法的救済にある。私自身は、日暮れて道遠しの感を深くするが、若い方々の関心が得られれば幸いである。

理事者室だより10
地域に根ざす“ひまわり”
副会長 大谷 豊
 12月10日午後4時55分、青森県の下北駅を下りた。前日降った雪か、ホーム一面を白く覆う。気温2度、冷たい風が頬を突き抜けた。平成18年12月2日、むつ市にむつひまわり基金公設事務所が開設され、12月11日に行われる開設祝賀会に参加するため訪れた。市では6万7000人の人口を抱え、下北半島全体では12万人にも及ぶこの地域でむつ市が中心となって公設事務所の設置の働きかけをしてから6年目、全国で76番目、東北で16番目、青森では3番目のひまわり基金公設事務所である。
 所長に、当会会員であった伊勢原市出身の中山雅博弁護士が就任した。58期の28歳である。弁護士登録当初からひまわり基金公設事務所に就任することを希望し、吉川晋平会員の指導でひまわり基金の意味などを学び2年目にして就任した。任期は3年である。
 開設祝賀会には、むつ市長をはじめとして地域の自治体の首長やむつ商工会議所会頭などが参加され、下北半島の地域あげての歓迎であった。中山所長は、「地域の皆様の信頼を裏切らないよう、中身を伴うよう頑張ります」と挨拶され、また、祝賀会直前に行われた記者会見では、記者の「3年の任期満了後はどうされますか」との問いに対し、「1年1年を大切にし、3年後にどうするかの答えを出したいと考えています」と力強く答えていた。記者の意図するところは、地域の弁護士として長くこの地にいてほしいというところにある。ひまわり基金公設事務所は、その地域に根ざした公共性の高い制度であると実感した。
 ひまわり基金の所長の養成及び任期満了後の受け入れなどは会全体で対応すべきで、一個人事務所に任せきっている現態勢を見直す必要があるのではないかと思いながら、帰路についた。

完売御礼!共同組合バザー開催
 年末の恒例行事となっている神奈川県弁護士協同組合主催のバザーが、昨年12月20日に開催された。
 このバザーでは、会員から提供してもらった品物を販売し、得られた収益は弁護士会及び協同組合の事業に役立てられている。
 今年も、開場前から長蛇の列ができ、販売担当者の威勢のよい売り声で、品物はわずか30分程で完売となり、大盛況のうちに無事終了した。
(バザー実行委員 会員 岩田恭子)

こちら記者クラブ 国家作用のドラマ
 先日、ふと思いつきで「司法」という言葉について調べてみた。というのも、私ども横浜司法記者クラブ加盟の記者は司法に関する取材活動を行っているのだが、浅学の私は司法担当になって半年以上も経つというのに、「司法」の具体的な意味を知らないという驚くべき事実に気づいたからだった。広辞苑では、「司法」とは「法に基づく民事(行政事件を含む)・刑事の裁判およびそれに関連する国家作用」とあった。
 「国家作用か…」。自分が取材しているのが「国家」に関することだったと、改めて気づかされ、新鮮な驚きを得てしまった。もちろん「3つの国家作用」については学生時代にすでに学んでいたのだが、実際のところ私は個別の裁判を原稿にすることに手一杯で、一つ一つの裁判の持つ「大きな意味」を顧みたことがなかったのだった。
 適切ではないかもしれないが、新聞社では裁判について「ドラマがある」とよく話されているのを耳にする。例えば刑事裁判であれば、捜査段階では明らかにされていなかった被告人の背景や、また本人の弁を実際に耳にする数少ない機会を含んでいるからだ。個別の裁判での話だが、確かにその部分に「ドラマがある」と感じたことは私にもある。
 ただ、大きな目でそれも「国家作用」の一つの流れなのだ。立法、行政ではわれわれ「一般人」にはその決定に直接的には関与することはできない。ただ司法では裁定を下すのは裁判官ではあるが、当事者となった「一般人」がその判決に大きく関わっているように見える。裁判一つ一つの持つ、「大きな意味でのドラマ」に目を向ける必要があると感じた。
(産経新聞社 森川 潤)

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