横浜弁護士会新聞

2008年8月号  −2− 目次


弁護人として一抹の不安も 三庁合同模擬裁判員裁判
 模擬裁判員裁判
 裁判員裁判の模擬裁判の弁護人役を担当することになった。事案は殺人事件の精神鑑定事案であり、実際の手続を想定して約1か月に及ぶ日程で行われた。6月26日に判決に至り、結果は無罪。裁判官3人全員を含む9人中7人の無罪支持だった。
 しかし私たち3人の弁護団は、その結果にあまり浮かれることはなかった。模擬裁判を経験した結果、この制度に対し、一抹の不安を感じたからだ。
 要約鑑定書の問題点
 裁判員裁判では必ず公判前整理手続を行うことになる。この手続では、裁判員がまだ選任されていない段階で争点を整理していくのだが、裁判員に理解してもらえるようにとの理由で、証拠がきわめて簡略化される。
 特に本件では精神鑑定書が簡略化されたが、精神鑑定書というのは一つ一つの記載が重要であり、切り貼りできるようなものではない。にもかかわらず、長文で難解な鑑定書はそのまま証拠にはできないとして、要約された鑑定書だけが証拠とされた。その結果、公判ではもとの鑑定書による事実認定はできない。要約の中にどこまでの内容を残すかは、この公判前整理手続の中で検討しなければならないのである。
 また、裁判員裁判は一審のみであるが、控訴審になった場合にも裁判官は要約された証拠に基づいて判断することとなるのであり、いたずらに真実から遠ざかる裁判にならないかと不安に思えた。
 耳で聞いただけの証拠
 冒頭陳述や弁論は10分程度で行うのがセオリーとされる。裁判員の手元に基本的に書証はなく、耳で聞いた証言が中心的な証拠となる。そして耳で聞いただけの証拠は、聞き間違いなどにより不正確なものとして記憶されている危険性がある。
 現実に本件では、裁判員ほか関係者は鑑定人の証言を間違って記憶し、更には、争いがない事実まで間違って認定されてしまった(母親と同居していないのに同居していたこととされた)。事案としては単純だったのでこの程度で済んだが、もっと複雑な事案の場合にはどうなるのかと不安を感じた。
 評議段階
 評議において裁判官が裁判員を誘導しがちであるということを聞いていたが、本件ではそれはあまり感じなかった。積極的に発言する裁判員もいて、みな自分の意見を言っていたと思う。
 しかし、争いのない医学的知見について誤った理解を主張する裁判員の意見をそのままにして評議が終わったのには衝撃を受けた。専門分野での明らかな知見に反するような意見については、裁判所が調整を図らないとおかしなことになるだろう。
 まとめ
 今行われようとしている裁判員制度を一言で言えば、裁判員負担軽減絶対主義と言えるのではなかろうか。裁判員の負担を軽くするため、正確性を後退させ、主張・証拠を簡略化して、最終的には裁判員に判断してもらうところを先に裁判員抜きで設定し、その上で判断させている、そんな感じを受けた。
(会員 阪田 勝彦)

三会員へエール いざ それぞれの舞台へ! 木村会員、池田会員、田上会員 就任激励会
 木村良二会員の平成20年度日本弁護士連合会副会長就任、池田忠正会員の平成20年度関東弁護士会連合会理事長就任、及び田上尚志会員の司法研修所民事弁護教官就任の激励会が、6月9日、横浜ロイヤルパークホテル芙蓉の間において開催された。総勢106名の会員が出席し、会場受付では池田理事長作句の俳句冊子が来場者にプレゼントされた。
 激励会は、武井共夫会長による、三会員の紹介に始まった。各会員のエピソードとともに、木村副会長には消費者庁担当副会長としての力量に期待すること、池田理事長の俳句の紹介、田上教官には修習生と当会とのパイプ役としても期待すること等が述べられた。
 次いで、三会員から就任にあたっての抱負が述べられた。木村副会長は、法曹人口問題、裁判員裁判等これからの課題への積極的取組みを約束した。池田理事長は、8年ぶりの当会出身の理事長として、就任経緯、抱負、そして俳句の披露をされた。田上教官は、後進を育てる仕事のやりがいを述べるとともに、初講義となる8月6日午後12時50分には皆さんも心の中での応援を、との言葉で挨拶を締めくくった。
 乾杯が終わると、三会員それぞれを囲む激励、歓談の輪が広がった。
 宴もたけなわの中、山下光会員、会員から木村副会長に、経験を踏まえた助言と激励の言葉が贈られ、井上嘉久会員、中野新会員からは池田理事長に、激励の言葉と激励の一句が贈られた。さらに、大村武雄会員、川島清嘉会員からは田上教官に、教官としての心構えとともに激励の言葉が贈られた。
 いずれも、ユーモアにあふれ、皆の笑いを誘いながらも、自らの経験を踏まえた示唆に富んだアドバイスで、三会員は真剣に聞き入っていた。激励会は盛況のうちに幕を閉じた。

「この20年の歩み」 関東十県会50周年記念誌
 関東十県会創立50周年を機会に「この20年の歩み」という副題のついた記念誌を発刊しました。
 十県会というのは理事者や夏期研修の委員でもやらない限り、なかなか身近に感じないかもしれない、そんな会員のために十県会の紹介も兼ねて記念誌を編集、何とか記念式典での配布に間に合いました。
 30周年の時の記事も引用しつつ、定時懇談会・拡大理事会などの議事録の読み込み、関弁連理事長・日弁連副会長経験者による座談会、この20年間の各会の出来事を随想で紹介、あれやこれや締め切りに追われながらも何とかまとめられたのは、十県会から選出された委員20名の協力のたまものです。
(関東十県会50周年記念誌編纂委員会委員長 石黒 康仁)

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