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会長声明・決議・意見書(2002年度)

いわゆる人権擁護法案、個人情報保護法案、行政機関の保有する個人情報保護法案に反対し、住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める緊急会長談話

2002年05月23日更新

平成14年(2002年)5月23日
横浜弁護士会会長 池田 忠正


現在、国会にはいわゆる人権擁護法案、個人情報保護法案、行政機関の保有する個人情報保護法案が上程され議論をよんでいます。


プライバシーをはじめとする憲法上の人権は、個人生活上の幸福に不可欠であるばかりでなく、民主主義社会が健全に成り立っていく前提でもあります。したがって、人権擁護あるいは個人情報保護のための立法がなされること自体については異論のないところでしょう。しかしながら、現在上程されているこれらの法案は果たして人権擁護や個人情報の保護のために役立つのか、極めて疑問と言わざるを得ません。

人権擁護法案において新たに設置が予定されている人権救済機関たる人権委員会は、法務省の外局とされ必要十分な専任職員をおかず、しかも、その事務を地方法務局に委任するなど、日本弁護士連合会が提唱している内閣府の所轄に属する独立行政委員会とは懸け離れたものになっており、その独立性と実効性には重大な疑問があると言わざるを得ません。しかも、かかる独立性の保障のない機関が報道機関に対しても規制権限を有することになることから、政府による言論統制に道を開く危険すらあるのです。

個人情報保護法案にしても、日本弁護士連合会が提唱した各業種ごとに個人情報保護のための規制のあり方を詳しく検討して個別法を制定していくという方向をとらずに、むしろ民間部門を広く一律に規制の対象とし、しかも規制方法として主務大臣の改善・中止命令違反に対し両罰規定を伴う罰則を以って臨むなどしており、民間部門が広く監督官庁の監視下に置かれ、政府によって民間の情報がコントロールされる危険があります。また、法案は言論表現の自由とりわけ報道の自由に対する配慮に著しく欠け、報道機関の取材活動が大きな制約を受ける可能性があります。

一方、行政機関の保有する個人情報保護法案は、日本弁護士連合会の提唱する個人情報の収集制限を基本とするものではなく、むしろ個人情報収集制限については明確な規定もおかずに、しかも、行政機関内部における利用目的の変更や行政機関内部及び行政機関同士の情報提供も容易にできるなど、行政機関が一旦取得した個人情報の利用に対する歯止めも緩く、個人情報保護は名ばかりになっています。しかも、この法案がこのように個人情報保護にとって不十分なものであるにもかかわらず、本年8月から、国民総背番号制に道を開き、政府が国民の個人情報を一元管理する危険が強く指摘される住民基本台帳ネットワークが稼働しようとしています。

これらの法案が、抜本的な修正もなしに成立するならば、政府は国民の個人情報を歯止めなく利用し、国民は政府に情報をコントロールされ民主主義社会の根幹が揺るがされる危険すらあります。

私は横浜弁護士会の代表者として、これらの法案の抜本的修正と住民基本台帳ネットワークの稼働の延期を強く求めます。

 
 
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