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会長声明・決議・意見書(2004年度)

有事関連7法案等に関する会長談話

2004年05月26日更新

  1. 現在国会において審議されている武力攻撃事態等(武力攻撃予測事態を含む有事)に関する7つの法案(後注)は、5月20日衆議院で可決され、参議院において今国会での成立が図られている。日米物品役務相互援助協定(ACSA)改正案ほか2件の条約承認案件も同様であり、これらによって、有事への対処のための国民保護制度の創設、武力攻撃排除のための体制の整備等を行おうとするものである。

    しかしこれらの法案等は、以下に重点のみ指摘するが、わが国の憲法体制及び今後の針路の根幹を左右し、かつ、国民の基本的人権保障のあり方を大きく変容させてしまいかねない極めて重大な内容の法案であるにもかかわらず、国会における審議も国民的な議論によるコンセンサスの形成もいまだ極めて不十分であって、このままでは国民主権の観点からも将来に問題を残すことになりかねない。
  2. まず武力攻撃排除の体制に関し、有事における米軍の行動の円滑化を図ろうとする米軍支援法案は、自衛隊による米軍への物品・役務の提供を、補給・輸送・整備・医療・通信・施設利用等を通じて行うことを定めるが、「補給」には弾薬も含まれるし、「輸送」には武器や兵員も含まれ、また、米軍のための土地使用や建物の変更等も規定されている。そこでは、米軍と自衛隊の行動が渾然一体となってしまいかねず、憲法の禁止する集団的自衛権の実質的な行使に至るおそれが極めて大きい。
  3. 次に特定公共施設等利用法案は、港湾・飛行場・道路・海域・空域・電波について、「特定の者に優先的な利用を確保する」などの措置をとろうとするものであるが、これはまず、国民よりも自衛隊・米軍の優先的な利用のための制度となってしまうことが想定される。しかも港湾など地方自治体が管理する施設についても、国の要請に自治体が応じないときは、国の指示、さらには直接執行による優先利用の確保が、何らの手続的保障もなしにできることになっており、地方自治の観点からも大きな問題がある。
  4. さらに国民保護法案は、有事に備えて国民の避難、救援等の措置と制度を準備しようとするものであるが、例えば人口800万人を超える神奈川県において、実際に住民のいかなる避難・誘導が可能なのか、その現実的可能性すら疑問が残ったままである。そして法案は、これらの措置に関して地方自治体や指定公共機関に責務を負わせ、国民に対しても必要な協力をするよう努めるものとし、生活関連物資の保管・収用、土地等の使用等の強制的措置を、最終的には国の権限によって実施できるようにするなど、国民の基本的人権と生活及び地方自治をも、全般的かつ強力に制限・統制する内容となっている。
  5. 有事関連7法案等は、法案の質・量ともに膨大かつ複雑で、以上に指摘した点以外にも重要な問題が多岐にわたっているが、現状ではそれらが国民に周知されているとは到底思われない。その内容の重大性にかんがみるとき、広く国民に周知された上、切実な利害関係を有する地方自治体の意見を含めて、幅広い具体的な国民的議論が必要不可欠である。そしてこれらを踏まえて、上記のような疑義や問題点について、国会でもさらに慎重かつ徹底的な審議が尽くされるべきものである。

 

当会は、県内に多数の米軍基地及び自衛隊基地が置かれ、有事法制によって住民の生活や権利が直接に影響を受け、侵害される危険性の高い神奈川県における弁護士会として、上記のような理由から、有事関連7法案の内容に強い懸念を表明するとともに、国会が現在、この法案の成立を拙速に図ろうとすることには強く反対するものである。
 

平成16年5月26日
横 浜 弁 護 士 会
会長  高橋  理一郎



 

(注)有事関連7法案の正式名称及びここでの略称は、次のとおりである。
 

  • 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案(国民保護法案)
  • 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律案(特定公共施設等利用法案)
  • 武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律案(米軍支援法案)
  • 武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律案
  • 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律案
  • 国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律案
  • 自衛隊法の一部を改正する法律案
 
 
本文ここまで。