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会長声明・決議・意見書(2009年度)

死刑執行に関する会長声明

2009年08月21日更新

7月28日、東京拘置所において1名、大阪拘置所において2名、計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。我が国では、昨年は1年間で15名、本年1月にも既に4名の死刑執行がなされており、昨年9月の森英介法務大臣の就任後に限ってみても3度目の執行である。このような短期間に、連続して大量の死刑執行がなされている現状に対し、当会は、深い憂慮の念を示すとともに、強く抗議するものである。

世界では、死刑制度の廃止が潮流となっており、我が国をはじめとする死刑存置国に対し、死刑の執行を停止し、あるいは死刑適用の制限を求める動きがますます強まっている。ヨーロッパでは、死刑廃止がEUの参加条件とさえなっているし、アジアにおいても、フィリピンでは一旦復活していた死刑を再び廃止し、韓国では10年以上死刑執行が行われていない。そして昨年12月18日、国連総会本会議において、死刑執行の停止を求める決議が、一昨年を上回る圧倒的多数の賛成で採択されたことは、こうした国際情勢を端的に示すものである。

それにもかかわらず、我が国では近年、死刑判決数及び死刑執行数が顕著な増加を見せている。こうした状況に対しては、我が国が批准する人権条約の実施機関のみならず、国連人権理事会による普遍的定期的審査においても深刻な懸念が示され、死刑に直面する者に対する権利保障を整備するとともに、死刑廃止を視野に入れ、死刑の執行を停止することが勧告されてきた。特に、昨年10月には、国際人権(自由権)規約委員会により、世論調査の結果にかかわらず、死刑廃止を前向きに検討すること、執行日時を事前に告知すること、必要的上訴制度を導入し、再審請求等による執行停止効を確実にすること等、我が国の死刑制度を抜本的に見直すことを求める多くの勧告がなされた。

ところが、今回執行された3名のうち2名は自ら控訴を取り下げており、上記勧告との関係でも極めて重大な疑義が生じる。

国連機関による度重なる勧告はいずれも、死刑が最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり、死刑制度は人権にかかわる重大な問題であるという認識のもとになされている。このまま、世論を理由に死刑執行の促進に走り続けるときは、我が国が国際社会から人権国家としての評価を失うことにもなりかねない。

とりわけ我が国では、4つの死刑確定事件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪判決が確定している。また、本年6月にも、精度の低いDNA鑑定に基づいて無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされており(足利事件)、さらには 同様の鑑定手法に基づいて死刑判決が言い渡され昨年10月28日に執行がなされた飯塚事件にも注目が集まっているところである。こうした中、本年5月21日に裁判員制度が実施され、一般市民も死刑を含む量刑判断の困難に直面せざるを得なくなり、死刑制度とその運用に対する社会の関心はかつてないほどに高まっている。このような今だからこそ、誤判の可能性などの死刑制度が抱える問題点を様々な角度から洗い出して広く社会が共有し、改革の方向性を探るべき機会である。

当会は、改めて政府に対し、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、重ねて強く要請するものである。


2009年(平成21年)8月19日
横浜弁護士会
会長  岡部 光平

 
 
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