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会長声明・決議・意見書(2011年度)

公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明

2011年06月08日更新

 国に、速やかにILO第94号条約を批准すること及び公契約法を制定することを求めるとともに、全国の地方公共団体に、速やかに公契約条例を制定することを求める。

 

1 公契約とは、国または地方公共団体等が一方当事者として金銭を支払う請負契約や業務委託契約である。公契約に基づく業務に従事する労働者について、法令等の最低基準よりも有利な労働条件となる条項を、公契約中に定めることを義務づける法、条例のことを、公契約法、公契約条例という。

 

2 国や地方公共団体が行う公契約に基づく業務遂行には、多数の労働者が従事しているが、この労働者の労働条件の劣悪さが、官製ワーキングプアとして大きな社会問題となっている。

  多くの公契約で行われている競争入札方式では、受注業者が、競争に勝ち落札するために無理に低い価格を提示しがちとなる。また、同じ業務でも前年落札価格よりも低額で落札される傾向にある。そのため、受注業者は、落札しても必要な経費が確保できず、労働者の賃金など労働条件の悪化という形で、しわ寄せが労働者にいくことになる。

  このような労働者へのしわ寄せ防止をも意図して、入札に最低制限価格を設定する場合もあるが、公共工事は、下請け・孫請けといった重層構造で実施されることも多く、その中で中間に入った企業によって中間マージンが取られて本来労働者の賃金となるべき部分が削減され、最終的な下請け・孫請けなどの現場労働者に低賃金が押しつけられることもある。公契約法及び公契約条例が制定され、下請企業の労働者や、いわゆる一人親方も対象とされれば、このような重層構造下の現場労働者に対して、一定の賃金を確保することが可能となる。

 

3 国際的には、公契約に対する規制として、既に1949年にILO総会で「公契約における労働条項に関する条約」(第94号)が採択されている。この条約は、公契約に基づく業務(下請けも含む。)で働く労働者について、国内の法令等の最低基準よりも有利な労働条件となる条項を、公契約中に定めなければならないとするものである。既に61か国が批准しているが、我が国は未だ同条約を批准していない。

  しかしながら、地方公共団体では、千葉県野田市で全国初の公契約条例が制定されたのに続き、2010年12月15日、神奈川県内でも、川崎市で従来の契約条例の改正という方法で、政令指定都市としては全国初となる公契約条例が制定された。この川崎市の公契約条例では、公契約に基づく業務に従事する労働者を広く保護すべきとして、適用範囲に、受注者が直接雇用する労働者のみならず、下請企業に雇用される労働者や、いわゆる一人親方も含めている。また、受注者に対して、単に作業する労働者の作業報酬の最低額の遵守を義務づけるだけでなく、実施に確実を期するべく、その遵守状況調査のための手続きや、違反があった場合の是正措置を定めており、内容を高く評価できる。

 

4 もっとも、地方公共団体が公契約条例を制定するだけでは、問題の抜本的な解決を図れない。国や、公契約条例が制定されていない地方公共団体が一方当事者となる公契約を対象とするためにも、国において、ILO第94号条約を批准して、公契約法を制定することにより、積極的に公契約における適正な労働条件の確保に努めなければ、公契約による官製ワーキングプアを食い止めることはできない。

 

5 今後、本年3月11日に発生した東日本大震災からの復興のため、被災地を中心に全国で多くの公契約が締結されることになろう。その際、復興事業に従事する労働者が、劣悪な労働条件での就労を強いられるような事態は、被災者支援の観点からも避けねばならない。速やかな公契約法及び公契約条例の制定が必要である。

 

6 当会は、労働者の適正な労働条件確保を通じた住民の生活基盤の安定のためにも、国に、速やかにILO第94号条約を批准すること及び公契約法を制定することを求めるとともに、全国の地方公共団体に、速やかに公契約条例を制定することを求める。

 

2011年(平成23年)6月8日

横浜弁護士会    

会長 小島 周一

 

 
 
 
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