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会長声明・決議・意見書(2018年度)

技能実習制度の問題点を十分に検証し、外国人労働者の保護を図ることを求める会長声明

2018年12月14日更新

  1. 出入国管理及び難民認定法の改正

    本年12月8日、臨時国会において、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)の改正案が可決、成立した。

    今回の入管法の改正は、外国人労働者の受入れ拡大を図るため、「特定技能1号」、「特定技能2号」という新しい在留資格制度を創設するものであり、来年4月1日からの施行が予定されている。

  2. 外国人労働者をめぐる現状と問題点

    厚生労働省の公表によれば、2017年10月末時点での外国人労働者は127万人を超えている。その内、技能実習生として来日し、働いている外国人労働者は約25万人に上る。この技能実習生の就労に関しては、深刻な人権侵害が起きていることが報告されており、問題点の改善が急務となっている。

    技能実習生は予め就労先が決められており、職場移転の自由が認められていない。そして、解雇などにより離職することになれば、母国への帰国を余儀なくされることになる。そのため、技能実習生は、雇用主の命令には理不尽なものでも従わざるを得ず、低賃金での長時間労働を強いられ、セクハラやパワハラの被害を受けている者も少なくない。

    しかも、技能実習生は来日するまでの過程において、種々の費用として多額の債務を負担させられていることも多く、過酷な労働環境に置かれても容易に帰国を選択することもできない。

    このような技能実習生が置かれた状況は、現代の奴隷労働と形容しても過言ではない。現に、国連の自由権規約委員会などから国際的な批判を受けているところでもある。

  3. 今回の法改正では問題点は解消されない

    現在、技能実習生として働いている外国人労働者の多くが、新たに創設された在留資格に移行することが見込まれている。これは、これまで技能実習という名目で、事実上労働者として受け入れてきた外国人を、正面から労働者として受け入れるものではある。

    しかしながら、技能実習制度の問題の根本にある、職場移転の自由が認められないことや、技能実習生の母国において送出しに関わる中間団体により中間搾取が行われていることについて、新たに創設された在留資格との関係でも有効な改善策は設けられていない。

    法案の審議では、国会に示された技能実習生の失踪の理由に関する調査データに誤りが指摘され、移民政策との相違について十分な説明が行われないなど、審議を尽くしたとは言い難い状況であった。しかも、国会での審議を通じて、過去3年間に69名もの技能実習生が死亡していたことや、失踪した技能実習生の多くが最低賃金以下で働かされていた可能性が高いことなどが明らかになったが、そのような重要な指摘が法改正の内容に反映されることもなかった。

    そのため今回の法改正では、外国人労働者とりわけ深刻な人権侵害を受けている技能実習生が直面している困難な状況について改善を期待することは困難であり、外国人労働者の人権保障という観点から大きな問題を残したままとなっている。

  4. まとめ

    現在の技能実習制度は、技能移転を通じた開発途上国への国際協力という美名の下、技能実習生を安価な労働力として酷使することを可能にする欠陥を抱えている。そのことで、十分な法的権利の保障も無いまま困難な状況に置かれた技能実習生が存在しているのであり、そのような極めて弱い立場に置かれた技能実習生から搾取が行われている現実がある。

    このような技能実習制度に対する真摯な検討及び問題点の分析・評価も無いままに、今回の入管法の改正は拙速に行われてしまったのであり、このままの状態で外国人労働者の受入れを拡大するだけでは、外国人労働者をめぐる問題が解決されることにはならないばかりか、むしろ問題を増大させることにもなりかねない。

    以上のことから当会は、技能実習制度の問題点について早急かつ十分な検証と実態の把握を行うこと、その結果を踏まえて職場移転の自由の実質的保障や母国において送出しに関わる中間団体の排除など外国人労働者の保護を実効あるものとする制度を創設すること、及び、既存労働者の受入先の確保を前提として技能実習制度を廃止すること、を政府及び国会に対して求める。

 

以上

2018年(平成30年)12月13日

神奈川県弁護士会

会長 芳野 直子

 
 
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