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会長声明・決議・意見書(2019年度)

横浜IR(統合型リゾート)の方向性(素案)に対する意見書

2020年03月27日更新

2020年3月26日
神奈川県弁護士会
会長 伊藤 信吾

 

第1 意見書の趣旨

 

   横浜IR(統合型リゾート)の方向性(以下「本素案」という)には,下記のとおり,カジノ施設の設置及び運営に伴う影響や効果等についての十分な調査・評価及び,カジノ施設を含むIR誘致を推進するための十分な根拠が示されておらず,また,民意を問うことの記載もない。横浜市は,本素案を元にカジノ施設を含むIR誘致を進めるべきではなく,むしろ,誘致そのものを撤回すべきである。

 

  1 ギャンブル等依存症対策に関し,相談支援や社会復帰支援等,重層的・多段階的な取り組みを制度化しているとしているが,相談窓口の設置や依存症患者の治療にかかる費用などの依存症対策に予想される費用が示されていない。

  2 経済的効果は,IRへ参入を計画している事業者から提供された数字をそのまま記載しているだけであり,計算根拠が示されていない。

  3 カジノ施設がIR施設全体の3パーセントの面積であることを記載しているが,そのカジノ施設からの収益がIR施設全体の収益の何パーセントになると予想しているのかの記載がない。

  4 一旦IR施設を誘致すると,横浜市がIR事業者との契約更新を拒絶した場合,損失補填(期待された利益への補償)を求められる可能性があるが,この点につき説明がない。

  5 IR施設外の周辺地域に与える経済的影響についての試算が示されていない。

  6 横浜IRになぜカジノ施設が必要であるか理由の説明がない。

  7 IR誘致につき,直接住民の意思を問う旨の明記がない。

 

 

第2 意見書の理由

 

 1 意見書の趣旨1について

   本素案では,「3 横浜IRの方向性」「(5)-2 依存症対策」(本素案59頁以下)において,ギャンブル等依存症対策基本法,ギャンブル等依存症対策推進基本計画及び取り組むべき具体的施策の説明がなされている。
   そして,取り組むべき具体的施策としては,相談支援(相談拠点の整備,ギャンブル等依存症である家族等の家族に対する支援強化),社会復帰支援(ギャンブル等依存症問題を有す生活困窮者支援)などがあるとされている。
   しかしながら,本素案では,相談窓口の設置や依存症患者の治療にかかる費用等,上記施策にかかる費用の試算すら公表していない。この点,上記施策が横浜市民に重大な影響を与えることは明白であるところ,当該施策の費用すら公表されないということは,その実現可能性に疑いを生じさせることにもなりかねない。

 

 2 意見書の趣旨2について

   本素案は,IR実現による効果について,インバウンドを含むIRへの訪問者を年2000万人~4000万人(うち国内観光客割合66~79%),IR区域内での消費額年4500億円~7400億円,経済的波及効果は建設時7500億円~1兆2000億円,運営時年6300億円~1兆円,地方自治体の増収効果を年820億円~1200億円としている(本素案87頁)。
   しかしながら,これらの数字は横浜市に誘致を検討している事業者から提供された資料を監査法人が整理・確認しただけのものであり,全く根拠が示されていない。
   IR施設を誘致することによる経済的な効果が本当に見込まれるのであれば,根拠資料を示すべきである。

 

 3 意見書の趣旨3について

      本素案は,カジノ施設がIR施設全体の3パーセントの規模であるとしている(本素案46頁)。その一方で,本素案は,「健全なカジノ事業の収益を活用」することを前提としている(本素案31頁)。
   つまり,本素案は,カジノ事業の収益の活用を前提としており,IR施設全体に対するカジノ事業からの収益の割合は高いものと思料される(マカオなどでIR施設を経営しているメルコ・リゾートは,2018年の純収益のうちカジノ施設からの収益の比率が86.5%となっている)。このように,カジノ事業の収益の割合が高いとすると,カジノ事業からの収益を追及する余り,カジノにのめり込む客の増大化を招き,ひいてはギャンブル依存症患者の増大化を招くことにもなりかねない。
   しかしながら,本素案はカジノ事業の収益の活用を前提としているにもかかわらず,カジノ事業での収益のIR施設全体の収益に占める割合の試算すら示されておらず,ギャンブル依存症患者の増加に対する懸念に十分に応えていない。

 

 4 意見書の趣旨4について

   横浜市がIR施設を誘致しIR事業者との契約を更新する際に更新を拒絶しようとした場合には,事業者から横浜市に損失補償(期待された利益への補償)を求められる可能性がある(特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)36頁参照)。
   そのため,横浜市がIR施設をいったん誘致するとその後,方針を転換してIR事業を拒絶することが難しくなる可能性がある。
   よって,横浜市は,横浜市民が将来的に民間のカジノ事業を認めるIR事業を拒否することが困難になるような事業を推進すべきでない。

 

 5 意見書の趣旨5について

      本素案のIR施設がメルコ・リゾートと同じように収益の大部分をカジノ収益に依存するのであれば,カジノに客を誘引する必要があり,これでは横浜IRから日本全国に送客するとしている本素案の送客施設としての機能と矛盾する(本素案37頁)。つまり,日本全国に送客してしまうとカジノで客がお金を使う機会が減少し,カジノ事業の収益が下がってしまうのであり,IR施設としては日本全国に送客せず,カジノに客を誘引するほうが利益になるのである。また,カジノに客を誘引すれば,カジノを含むIR施設内に客を留めおくことになり,IR施設外の周辺地域の消費は減少することになる。そうなれば,横浜市全体の経済的な効果がIR施設誘致により増加するか否かは,IR施設誘致によりIR施設外の周辺地域へどのような経済的効果を及ぼすかが非常に重要となる。
   しかしながら,本素案ではこのような地域経済に重大な影響を及ぼす経済的効果でさえ試算・公表できていない。
   このように,横浜市のいうIR誘致に伴う経済的効果は前述のように事業者から提供された資料をそのまま整理・確認したものであるだけで根拠に乏しいのみならず,IR施設外の周辺地域への影響も不明であり,説明が不十分である。

 

 6 意見書の趣旨6について

   本素案は,都心臨海部との融合やスマートな交通環境の構築(本素案47頁及び53頁)などに「横浜を日本のゲートウェイ(玄関口)」とし「世界中のデスティネーション(目的地)」となり続けるという方向性を示している。そのなかで,横浜の都心臨海部には,開港以来の歴史や文化,美しい港の風景や水際を身近に感じられる都市空間など,これまでのまちづくりで築かれてきた豊富な魅力や資源があることを述べている。
   しかしながら,これら玄関口や目的地となり続けるという方向性にカジノは必要ない。横浜の開港以来の歴史や文化,美しい港の風景や水際を身近に感じられる都市空間に,歴史的でなく人工的な建築物であるカジノ施設を設置することはむしろ有害である。

 

 7 意見書の趣旨7について

   本素案には,当弁護士会が「横浜市のIR誘致に関する会長声明」(令和元年9月11日付)で求めたカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響について,十分な調査,評価をしていないばかりか,住民の直接の民意を問うということが明示されていない。
   世論調査ではカジノ施設を含むIR誘致に反対の意見が多数であり,横浜市は,認定申請の前に住民の直接の民意を問うことを明示するべきである

 

 

第3 結語

 

   当会は,令和元年8月22日の横浜市のIR誘致発表に対して「横浜市のIR誘致に関する会長声明」(令和元年9月11日付)において,横浜市にIR誘致の撤回を求めた。当会は,同声明において,IR誘致の撤回を求めるとともに,カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響について十分に調査,評価した上で,その調査,評価の結果を住民に提供し,それを前提に住民の合意形成を図り,その際は,直接,住民の民意を問うべきであるとしている。
   しかしながら,これまで述べてきたとおり,本素案は,カジノ施設の設置及び運営に伴う影響及び効果等についての十分な調査・評価がなく,カジノ施設を含むIR誘致を推進するための十分な根拠を示しておらず,住民の直接の民意を問うことも明示していないなど,当会の懸念に対する説明が不十分である。
   よって,横浜市は,本素案を元にカジノ施設を含むIR誘致を進めるべきではなく,むしろ,誘致そのものを撤回すべきである。

 

以上

 
 
 
本文ここまで。