ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2020年度)

収容・送還に関する専門部会提言及び同提言に基づく法改正に強く反対する会長声明

2020年10月23日更新

2020年(令和2年)6月19日、法務大臣の私的諮問機関である第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(以下「専門部会」という。)は、報告書「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を公表した。そして,今秋の臨時国会ないし次期通常国会において本提言に基づいた出入国管理及び難民認定法(以下「法」という)の法改正が企図されているといわれている。

しかしながら,本提言、および本提言の後に報道された「監理措置」制度,及び「準難民」制度については、以下のような重大な問題があることから、当会としてはこれらに基づく法の改正に強く反対する。

  1. 「送還停止効」に例外を設けていること
    法には,難民認定申請者につき,同審査中には強制送還されない,いわゆる送還停止効(入管法62条の2の6)が規定されているが,本提言は,「送還停止効に一定の例外を設けること。例えば,従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者について,速やかな送還を可能とする方策を検討すること」としている。
    しかし,送還停止効に例外を設けることは,迫害の危険の及ぶ地域へ庇護希望者を送還してはならないというノン・ルフールマンの原則(難民条約第33条等)との関係で疑義があるばかりか,難民認定率が他国に比べ極端に低い我が国においては,複数回の難民認定申請や裁判を経てようやく難民として認定されている実態があることを無視するものであって,到底賛成できない。
  2. 「退去強制拒否罪(送還忌避罪)」の創設
    本提言は、退去強制の命令に応じない者に刑罰を科すといういわゆる「退去強制拒否罪(送還忌避罪)」の創設を求めている。
    しかしながら、送還に応じない者の多くは,迫害の待つ本国への帰国を拒む複数回申請の難民認定申請者や、我が国に連れ合いや子どもがいるなど「帰るに帰れない重い事情を抱えた者たち」である。帰るに帰れない者に刑罰を科したところで任意の退去を促すことにはならない。
    そればかりか、「退去強制拒否罪」の創設によって,彼らを支援する市民や弁護士・行政書士の活動が同罪の幇助罪として刑罰の対象とされかねない。退去強制拒否罪の創設はこれらの人道行為や正当な権利擁護活動すら著しく萎縮させる危険性を有するものであって,強く反対する。
  3. 「仮放免者逃亡罪」の創設
    本提言は、仮放免者逃亡罪の創設をも検討課題として挙げている。これは仮放免を受けている者が定められた期日に入管へ出頭しない場合に犯罪として処罰しようとするものである。
    しかしながら、仮放免された者による逃亡が増加したのは、仮放免に就労禁止条件が全面的に付されるという運用が開始された2015年秋以降であることが伺われることからすれば、就労禁止条件によって仮放免者の生計を維持する手段を奪ったことこそ検証されなければならないはずである。現に私たちの社会の中で生活を営んでいる仮放免者の生活を何ら顧みることなく,仮放免期日への不出頭に対して安易に刑罰を科すことは問題である。
    更に、仮放免者逃亡罪の創設は、仮放免許可申請にかかわり、或いは、人道的見地から身元保証人となった市民や弁護士が、「仮放免逃亡罪の幇助罪」への関与を疑われる可能性があり、身元保証への協力を躊躇させる危険性も否定できず、問題である。
  4. 「監理措置」制度と「準難民」制度への懸念
    2020年9月22日読売新聞朝刊は,出入国在留管理庁(以下「入管庁」という)が,6か月以上の収容が見込まれる難民申請中や訴訟中の外国人らについて、収容施設外での生活を認める「監理措置」(仮称)制度を新たに導入すること,また、難民認定には至らないものの、母国が紛争中で帰国できない外国人らを「準難民」(仮称)と認定し、在留を認めて保護対象としようとしていることを報じている。
    しかしながら,「監理措置」制度は、6か月以上の収容が見込まれる難民申請者や訴訟中の外国人を収容施設に収容しないとするもののようであるが,①就労は認めない、②金銭援助を3か月程度検討する、③「入管庁が認めた支援団体や弁護士ら」が「監理人」となって、被監理人の生活状況等を入管庁に定期的に報告する「法的義務」を負わせるというものであって,結局,「長期収容問題解決」の責任を国が民間に転嫁するだけの結果となりかねない。さらに,その期間も難民申請中,訴訟係属中に限られるのではないかとの指摘もされている。
    また「準難民」制度も,その定義や要件が明らかでないばかりか,本来は難民と認定すべき者を難民として認定しない方便として利用されかねないという懸念がある上に監理措置同様,就労を認めないようであり、問題である。
    従って,一見すると外国人の権利を拡充するかのようにみえる「監理措置」も「準難民」もその実態は非正規滞在外国人に対する管理強化政策に他ならない。
  5. 適正な正規滞在化こそ目指すべき道である
    以上の通り、当会は,帰国できない事情を抱えた外国籍・無国籍市民たちの生命若しくは人生を蔑ろにし、支援者をも犯罪者としかねない危険な本提言に基づいて法改正されることに強く反対する。
    わが国が今なすべきことは、難民としての保護を求める者たちを安易に送還することや、非正規滞在者や仮放免者を「犯罪者」にすることではない。
    難民申請者を適正且つ速やかに難民認定する制度を創設することであり、与えられるべき者たちに在留特別許可を適正に与える体制の構築である。
    更に、現状の全件収容主義・無期限長期収容政策を直ちに改め、必要性・相当性の欠如した身体拘束を行わないことを前提に、非正規滞在の外国籍・無国籍市民の適正な正規滞在化を検討すべきである。

以上

2020年10月22日

神奈川県弁護士会

会長 剱持 京助

 

 
 
本文ここまで。